プランMの真相
「聞こえるか、ルナ?」
「うん、聞こえる」
「そのままカインの奴を張っていてくれないか? 『プランM』ってのが、どうにも気になる。悪い予感しかしない」
「分かったわ。私はこのままカインの様子を魔道ビジョンに送り続けるから」
「そうしてくれると助かる。オレは盗賊ギルドに行って、ゲバラに『プランM』という隠語を知っているか聞いてくるから」
「うん、了解」
嫌な胸騒ぎがした。これは急いでゲバラに会って、聞き出した方がよさそうだ。
オレは部屋から出て、階段を駆け下りた。
そこにチノがやって来た。夕飯の買い出しから帰って来たようだ。
「クリュッグ、なんか慌てているのですよ。何かあったのですか?」
「ああ、ちょっと急ぎの用が出来た」
「じゃあ夕飯はどうするのですか?」
「いや、オレはいらない。チノは自分の分だけ作って食べていてくれ」
「分かりました。あのクリュッグ」
「どうした?」
「気をつけてくださいね」
オレは「ああ」とだけ返し、早足で廊下を行き、玄関から外に出た。
そのまま盗賊ギルドへと駆けていく。
ギルドの玄関を開けると、奥のテーブルにゲバラがいた。
オレは息せき切らしながら、奴がいるテーブルの前に立った。
「ゲバラ、急ぎだ。お前、『プランM』っていう隠語を知っているか? 近衛兵が使うと思われる言葉だ」
ゲバラはしかめっ面をした後、「ちょっと待ってな」と言い残し、店の奥に引っ込んだ。
それから1分と経たないうちに、戻ってきた。彼の手には、ノートが携えられている。
「それは?」
「一冊は王国軍の暗号表。もう一冊は近衛兵のやつだ」
「そうか。すぐに調べてもらえないか?」
「分かってるって。今、ノートを見ているから」
ゲバラはノートを捲っていく。
どうやらアルファベット順に、暗号や隠語が羅列されているらしい。
「見付けた『プランM』ええとだな……」
ノートを見るゲバラの顔が厳しいものになっていく。
「いや、こりゃマズいぞ」
「なにがどうマズいっていうんだよ?」
「『プランM』プランは計画。ここはまんまだな。問題はMなんだが……そのMは『murder』つまり殺人の頭文字だ」
なんてことだ。
カインはレオを殺そうとしている!?
「それだけ分かれば十分だ。サンキューな、ゲバラ」
オレは急ぎ足で盗賊ギルドを出て、自宅へと戻った。
そうして早足で歩きながら、「誰を殺すか」ということを推理した。
そこでハッとした。
もしカインが、レオを殺すとすれば、部下に任せるはずがない。何故なら、屈強な近衛兵が束になっても、レオに敵わないからだ。
同じくオレを殺そうとしても、カインの部下の近衛兵団から囲まれようが、全員を返討ちにすることが出来る。
つまり、それだけ近衛兵団とレオやオレの間には力量の差がある。
とすれば、カインの奴は誰を部下に殺させるつもりなんだ?
眉間に皺を寄せ、さらに類推していく。
オレでもなく、レオ本人でもない誰かを殺す……
一体、誰がターゲットなんだ。
よく考えろ!
そこで一つの閃き。もしかして、この線なのではと感じた。
ひょっとして……
恐らくだが、カインは部下にレオの家族を殺害させるつもりじゃないのか? そして、その罪をオレになすりつけ、家族を殺され怒り狂ったレオをオレにけしかけるつもりでは……
そう考えれば、辻褄が合う。
あくまで推測だが、その線はあるかもしれない。
いずれにせよ、用心するに越したことはない。
そこまで推理が及び、たまらず自宅へと駆けた。
鍵を開け、家の中に入り、チノへ挨拶もせず、そのまま自室へ急行。
そこで魔道ビジョンに声をかける。
「なぁ、ルナ。『プランM」の意味が分かった。Mはmurderの頭文字。これはつまり、殺人計画だ。カインの奴は、部下に誰かを殺させようとしている」
「成程、そういう意味であったか」
「なぁ、ルナ。オレにはどうも嫌な予感がしてならない。念の為、王都にあるレオの家に行ってくれないか?」
「何故だ?」
「カイン自らならともかく、奴の部下では、オレやレオを殺すことが出来ない。力量に差があり過ぎる。つまり、カインの部下が殺人を犯すなら、より弱い者をターゲットにするはずだ」
「成程。それでレオの家族を標的にするという訳か」
「その通りだ。まだ、推測の域を出ていない話だが」
「分かった、いいだろう。私なら王城から王都にあるレオの家にも瞬時に行ける。ついでをいえば、レオの家の住所を教えて貰えれば助かる」
「ちょっと待っていてくれ」
オレは机の引き出しを開け、マリーとレオの住所が記されたゲバラから受け取ったレポートを捲った。
「あった。ノースエンド町の1-3。そこにレオの屋敷がある。家族構成はええと……父母とレオの嫁。それに娘のアリーナがいる」
「分かった。すぐにレオの家に向かう」
魔道ビジョンの映像が一瞬途切れた。




