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軟禁とメイド

 目的地に着き、周囲に人がいないことを確認してから、高い鉄条門を三人で跳躍して飛び越えた。


 広い庭の奥に行くと、こじんまりとしているが、立派な屋敷がある。

 そこでポケットからマスクを取り出し、顔に被った。マルティスとサリーにもマスクを着用してもらう。

 ここなら通りから遠いので、通行人の目に留まることもないだろう。


 それから財布を出し、小銭入れの中に入っているヘアピンを取り出す。

 白昼堂々と正面玄関の鍵をピッキングし、観音開きの玄関を押し開け、中に押し入った。


 玄関からはリビングに続いており、そこのソファーで二人の老夫婦が寛いでいたが、オレたちを見て、声を上げた。


「な、なんですかな? 貴方方は?」

「アンタ達は、ロロナ・ジョンソンの両親で間違いないな?」

「あ、ああ。そうじゃが。それが一体……」


 オレは素早くロロナの父親の所に行き、ホルスターからナイフを引き抜き、彼の頬に当てた。


「言うことをきけ。さもなくば……」

「あ、ああ。分かった」


 ロロナの父は観念して両腕を上げた。母親の方も騒ぎ立てることもなく、同様にしている。


 オレは父親の前のテーブルに腰を下ろし、ナイフをちらつかせる。

 その間、マルティスに命じ、冒険者のリュックの中にあるタオルで、父母の口に猿ぐつわをかませた。

 マルティスは心得たもので、ロロナの両親の体を荒縄で縛っていく。


 オレは両親を引きづって、ソファーから床の上に置いた。二人共、芋虫のように床に這いつくばっている。


 続いてサリーに命じ、惨めな両親の姿を念写させた。

 すると、ただの白い紙にその光景が写った写真が出来上がった。


 ここまでは上出来だ。

 マルティスとサリーに命じ、ここでロロナの両親の監視をしてもらうことにする。


 オレは魔道通話が出来る魔法の棒をマルティスに渡した。

 この魔法の棒には、<念話>の魔法が込められている。

 この棒を持っている者同士で、遠くにいても会話をすることが出来る代物だ。


 そうして、冒険者のリュックを背負ってから玄関を開けた。

 そこでマスクを脱ぎ、ポケットの中に押し込んだ。

 庭を歩いて行き、門の外に通行人がいないのを確認し、再び鉄条門を飛び越え、駆け足で自宅へと戻った。


 戻ってから物置部屋に行き、顆粒の入った小瓶を冒険者のリュックに入れる。次いで、釘抜きと錐もリュックに押し込んだ。


 そして、衣裳部屋で王国軍の制服を見つけ出し、それに着替えた。


 姿見を見ながら<変装>のスキルを発動し、表情筋を緩ませ、輪郭を変え、眉と目を垂れ下げる。

 そこに念をかけて、伊達眼鏡を被ると、まったくの別人になった。


 入念に忘れ物がないかチェックをしてから、家を出る。

 街を出て、街道に出ると、オレは<韋駄天>のスキルを発動し、王都まで疾走した。


 ものの20分くらいで王都へ着いた。

 その足で、サラトガの街中を行き、マリーの屋敷までやって来る。

 懐中時計を見ると、午後2時になっている。


 オレは<声音>のスキルを駆使して、声のトーンを1オクターブ下げた。

 そこでマリーの家の玄関をノックし、「ごめんください-」と声を上げた。

 少しの間叩いていると、扉が開いた。


「あら、王国軍の方ですか? マリー様に御用でしょうか?」


 メイドのロロナがオレの制服を一瞥してから声をかけてきた。


「そうです。マリー先生から頼まれて来ました。なんでも先生は、教材の教科書を自分の部屋の机の上に置き忘れてきたとのこと。それで、僕にその教科書を取って来てくれないかと頼まれまして」

「あら、そうだったんですか。では、中にお入りください。マリー様の部屋まで案内しますので」


 オレは「失礼します」とロロナに一礼し、屋敷の中に招かれた。


「どうぞこちらです。マリー様の部屋は2階ですので、私に付いて来て下さい」


 ロロナが廊下を行く。その背中はがら空きだ。

 オレは素早くベルトに仕込んでおいたアサシンダガーを引き抜き、彼女の後ろ首に当てた。


「両手を上げろ」

「はて、これは何の真似でしょうか? 貴方はやたらと手の込んだ強盗なのですか?」

「そうだ、強盗だ。ある物を盗みに来た」

「そのある物とは、なんでしょうか? この私にも教えてくれませんか?」


 それはマリーの命だ。オレは奴の命を盗みに来たんだよ。

 心の中で声にする。だが、そんなことをロロナに告げる必要などない。


 ロロナはすっと身をかがめ、半回転し殴りかかって来た。

 ナイフを突きつけられたのに、いい度胸をしている。

 流石、元Sクラスの剣士なだけはあるな。

 だが、SRクラスのアサシンのオレから見れば、その動きもスローに見えるぜ。


 瞬時にロロナが放ってきた拳を躱し、そのまま彼女を足払いで転ばせた。

 ロロナはすぐに態勢を立て直し、太腿に付けていたホルスターからナイフを取り出し、オレに切っ先を向けた。

 やれやれ。鼻っ柱の強いおばさんメイドだぜ。


「いや、抵抗しない方がアンタの為なんだけどな」

「何を言うの?」

「アンタの両親はオットーの街にいるんじゃないのか?」

「ど、どうしてそれを? ま、まさか!?」


 ロロナの手からナイフが零れ落ちた。


「ああ、そのまさかだ」


 オレは懐から、ロロナの両親を縛った写真を取り出し、彼女の鼻先に突きつけた。

 その写真を見て、愕然となり、彼女は項垂れた。


「両親の命が大事なら、オレに協力した方がいいと思うがな」

「分かりました……貴方の言付けを何でも聞きます……」


 ロロナは顔を青ざめさせ、わなわなと震えている。

 これでこの女は落ちた。コイツはもうオレの言いなり。操り人形だ。

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