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雇入れ

 マリーは出血多量で重傷を負っていたが、輸血によりどうにか命を落とさずに済んだ。

 彼女は入院してから5日後に退院し、レオに連れられ王都サラトガへと戻っていった。


 入院している間、オレはマリーに手出しをしていない。

 ここは王都サラトガではなく、自分のホームグラウンドあるオットーの街。


 入院の時、意識朦朧でいたマリーを病室に忍び込んで討つことなど容易く出来た。

 だが、そうはしなかった。


 カインとマリーに襲撃され、一時は危ない目にあった。奴等に辛酸を舐めさせられた。

 その罪は、簡単に贖えるものではない。

 そこで、カインにもマリーにも屈辱を味合わせながら死んでもらうことにした。


 ここからはオレの番だ。

 まずは、マリーに手を下す。


 それも健康になった状態で、万全な体でありながら、思わぬところからのオレからの謀略で、惨めたらしく死んでもらう。


 本来、マリーは手首の動脈を斬られ、あのままなら大量出血の末、死んでいた。

 だが、敵であるオレから助けられ、なんとか命を繋げた。それだけでも、騎士としては死に値する屈辱。


 しかし、それだけでは足りない。

 マリーはこのオレに苦汁を舐めさせたのだ。

 彼女には、二度死んでもらうことにした。


 道を歩きながら、そう考えを巡らし、オレは口の端を上げた。


 そうして歩いている間に元の自宅のポストに辿り着いた。

 ポストを開けると、一通の封筒が入っている。

 これはマリーとレオの身辺調査が詳細に記されたレポートだ。

 前日にオレは盗賊ギルドに赴き、二人分の身辺調査を頼んだ。その報告書がもう届いたようだ。

 流石盗賊ギルド、仕事が早い。この分なら、中身も十分に期待できそうだ。


 ポストから封筒を取り出し、ここから一本裏手の道にある新たな自宅へと走って戻った。


 自宅の玄関を開けるが、声はない。

 今日はチノが教会に行っている日なので、今は不在となっている。


 二階へと上がり、自室に入り、机の椅子を引いて座った。

 机の上に封筒を置き、その上部をペーパーナイフで切り取り、封を開けた。

 早速そこから報告書を取り出し、一枚一枚吟味していく。


 まずレオについて。

 彼は王国軍の中尉であり、軍の格闘の教官になっている。

 爵位は子爵。

 その他にも、家族構成や、住まいの住所等が克明に記されていた。


 次の報告書に目を通す。こちらの方が、今回の肝である。


 マリー・コッポラ。

 彼女も同じく王国軍に所属しており、階級は少尉。

 軍の剣術指導の顧問になっている。

 爵位は子爵。


 家族は、両親が健在であるが、現在王都に一人暮らしをしている。

 住所はサラトガのサウスストリート町1-401。豪勢な三階建ての屋敷。


 マリーは一人のメイドを雇っている。

 メイドの名は、ロロナ・ジョンソン。


 ロロナはSクラスの剣士でもあるが、冒険者を引退し、今はマリーのメイド勤めをしている。剣術には自信があるようだ。


 腕の立つロロナをメイドとして屋敷に置いているためか、家のセキュリティーは特に置いていない。


 ロロナには息子と娘がいて、サラトガ区内で暮らしている。

 父母共に健在で、オットーの街で暮らしている。


 更に報告書は続いていて、ロロナの家の住所、父母が住まう家の住所まで記してあった。


 報告書を全部読み終え、机の上に置く。

 これでマリーの弱点が白日の下に晒された。

 彼女を殺すためのプランが、次々と頭の中で組み立てられ、早くも結論が導き出される。


 これならば、上々のプランだ。

 マリーを殺すためのな。


 そして、オレは喜々として笑った。

 マリーの奴、カインと共に奇襲を仕掛けてきやがって。今夜、その屈辱を倍にして返してやる。


 お前は二度死ぬんだよ。

 一度目は、サムサラの草原でオレに討たれた。二度目の死は、今夜訪れる。


 オレはアサシンの装備をしたまま、押し入れに向かった。

 そこから手袋をして、荒縄とタオルと魔法の棒を取り出し、冒険者のリュックに押し込んだ。

 そうして準備を整え、盗賊ギルドへと向かった。


 盗賊ギルドに入り、受付嬢にゲバラを呼んでもらった。

 程なくして、ゲバラはやって来た。


「よぉ、兄弟。連日のお越しとは、一体どうしたんでぇ?」

「野暮用だ。今からオレは、ある老夫婦の所に押しかけ、そいつらを軟禁する」

「おお、物騒な話だねぇ」


 ゲバラは言葉とは裏腹に笑顔だった。

 こんな荒事など盗賊稼業をしていれば、日常茶飯事である。


「そこで至急、荒事に強い二人の盗賊を用意してもらいたい。一人は<念写>のスキルを持っていることが絶対条件だ」

「そうか、分かった。おーい、サリーにマルティス。ちょっと来な」


 ギルドの奥のテーブルでトランプに興じていた二人がこっちにやって来た。


「お呼びですか、お頭」

「ああ、この方が暇をしているお前等に打って付けの仕事を持って来てくれた。駄賃ははずむそうだ」

「ひょお、やりー!」


 マルティスと呼ばれる青年が指を鳴らした。頬に傷がある彼は、いかにも荒事に強そうだ。


「ちゃんと念写は出来るんだろうな?」

「ええ、旦那。俺ではなく、ここにいるサリーが<念写>のスキルを持っています。――って、まさか。貴方はあの伝説のアサシンの……」


 オレは人差し指を唇に当てた。

 依頼主のことに関しては、口外してもらっては困る。


「今から動けるか、マルティス?」

「勿論ですとも!」


 マルティスは胸を叩いた。


「お前等を一日拘束するが、二人で100万でいいか?」

「勿論です」

「よし、それでは行こう。ゲバラ、助かったぜ」


 ゲバラは手を差し出している。


「仲介料は10万でいいぜ」

「相変わらずがめついな、ゲバラ。その代わりと言ってはなんだが、3人分のマスクをくれないか? 面が割れたくないものでな」

「ああ、そのくらいお安い御用だ」


 ゲバラは受付嬢に頼み、マスクを人数分用意した。

 オレは彼に手数料を手渡し、マスクをポケットに入れ、二人を引き連れて、盗賊ギルドを後にした。


 そこからこの街の高級住宅街へと足を運ぶ。

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