恋人などどうでもいい
マリーの剣が素直に伸びてくる。素早く鋭い突きが、連打される。
それを必死に躱していくが、そのうちの一撃が頬をかすり、そこから血が流れてきた。
やはり、マリーは強い。
その美しい太刀筋がそれを雄弁に物語っている。
マリーの剣とククリナイフが交錯し、鍔迫り合いとなった。
間近にマリーの顔が接近する。
「アンタなんか、とっととくたばっちまえよ。お前はトレモロとキュアを殺した。次は私かカインを狙っていたんでしょーが」
「ご名答だ。オレの次の標的は、マリー。お前だったんだ」
「させない! 私を討つことも、ましてや愛しいカインを討つこともさせないんだから! この冷血漢の裏切り者め!」
「おいおい、そりゃねーだろ。先にオレをパーティーから追放して、裏切ったのはアンタ達の方じゃねーか」
「ほざけ! この死神め!」
唾を飛ばしてくるマリーの剣圧が上がる。このままでは、オレのククリナイフがもたない。
そう判断し、フェイントをかけナイフを前に突き出しつつ、マリーから距離を取ろうと後ろに跳躍した。
下がり際、マリーの一閃。
それはオレの足を掠め、オリハルコンが編み込まれているアサシンのズボンが破れた。
なんという太刀筋だ。
一旦、距離を取ったもののマリーが追い足で素早く距離を詰めてくる。
そして、突きの嵐。
その突きを紙一重で見切り、躱していく。
この鋭い突きを一撃でも喰らえば、アウトだ。
防具ごと貫かれ、たちまちオレは致命傷を負うだろう。
しかし、それがいい。
命を懸けたギリギリの攻防。それがオレの血を滾らせる。
悉く突きを躱され、それにじれたのか、マリーは上段に構え、剣を振り下ろそうとした。
その大上段の構えをオレは見逃さない。
僅かに出来た胴の隙を狙い、ククリナイフの一撃を加えた。
完全に胴を捉えたが、マリーは多少よろめいただけだった。
やはり、彼女の精霊の鎧と兜の前に、鋼のククリナイフでは通用しないようだ。
鎧に少しの傷をつけるのが精一杯。
だが、完璧に見える防具でも、僅かな隙はどこかにあるはず。
マリーは多少よろめいて体勢を崩したものの、すぐに立て直し、剣戟を加えてくる。
オレはククリナイフで彼女の剣を捌きながら、どこかに隙は無いかと観察した。
そして、見付けた。僅かな隙間を。
オレは突きを躱しながら、小さく後ろに跳躍し、腰のホルスターから投げナイフを取り出し、マリーに向かって投げた。
「猪口才な!」
マリーは思わぬ角度からのナイフの攻撃を、剣を右手に持ち、片手でそれを叩き落した。
その伸び切った彼女の右手にオレは、ククリナイフで渾身の一撃を加える。
マリーの右手首をぱっくりと割れ、血がシャワーのように吹き出す。どうやら、手首の動脈を切断することが出来たようだ。
どうにかマリーの装備の弱点を突くことに成功したようだ。
その弱点とは、鎧と篭手の間に出来たほんの僅かな隙間。
そこに渾身の一撃を加えることが出来た。
「あああああああ。血がっ! 血が止まらないの。助けて! ねぇ、助けてよカイン!」
マリーは剣を地面に捨て、血が噴き出ている右手首を左手で覆った。
カインの方を見ると、ゼノンと剣を交わしていた。
だが、明らかにカインが優勢だ。圧倒的にゼノンが押されている。
いや、勇者の攻撃をここまでの間、ゼノンがよく凌いだと褒め称えるべきだろう。
「そこまでだ、カイン。マリーの動脈を切った。彼女の命が惜しければ、今すぐ降伏しろ!」
「それがどうした!? 勝負は続行だ!」
「何だと? おい、カイン。恋人のマリーがどうなってもいいのか? 今すぐに、僧侶を呼んでこないと大変なことになるぞ。マリーにヒールをかけて、彼女の手首の傷を塞がないと、手遅れになる!」
「マリーなど、捨て置く。そんな奴は構わん! さぁ、クリュッグもかかってこい。この騎士とクリュッグの2対1でも僕は勝てるからな」
オレは啞然としてしまった。
なんて奴だ……オレを討つためなら、自分の恋人の命などどうなっていいのか!?
「ゼノン、今、そっちの加勢に行く」
オレはカインとゼノンとの間に割って入った。
二人掛かりでの攻撃だ。流石のカインもオレとゼノンの攻撃を何発か受けた。
が、びくともしない。
「ハハハ! さすが勇者の鎧だ。二人のやわな剣戟など全て弾いてくれる!」
カインは高笑いをしながら、勇者の盾をかざし、こちらの攻撃を遮断するかのように防いでいた。
確かにこのままではジリ貧だ。
ゼノンの銀の剣と、オレの鋼のククリナイフでは、カインに傷をつけることなど能わない。
オレのククリナイフと勇者の剣が当たり、鍔迫り合いとなった。
本来ならこの競り合い、受けてたつところだ。
しかし、ククリナイフの刃にひびが入った。どうやらこのククリナイフでは、勇者の剣を受け止めることが出来ないようだ。
「チィ!」
鍔迫り合いを止め、後方へと飛んだ。
だが、カインの追い足も早く、なかなか距離を離せない。
やはり勇者の二つ名は伊達ではない。
このまま戦い続けるのは、明らかに不利だ。こちらの武器と防具が圧倒的に劣っていて、奴に傷をつけることは不可能なのだから。
どうにかこの難局を打破する術はないかと思考し、眉間に皺が寄った。
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