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待ち伏せ

 オレは昼飯を食うため、目抜き通りを歩いていた。

 食事を摂ってから、自宅に戻り、変装をしてから王都の博物館に行くつもりだ。

 博物館の地下にある宝物庫にオレの装備品があるとの情報は、すでにゲバラから聞いている。

 博物館のセキュリティーがどこまで強固なのか、現地まで行って調べてくる必要がある。


 そう思案しながら往来を歩いていると、銀の鎧に身を包んだゼノンと出くわした。

 彼と少し立ち話をし、このままではなんだから、一緒に飯でも食いながら話そうかという結論に達し、二人で食堂に向かうことにした。


 曲がり角を曲がり、目抜き通りに出た。

 そこから少し歩くと、背中がゾクリとした。これは殺気だ。


 振り向くと、勇者の鎧を纏ったカインと、精霊の鎧を着たマリーの姿が見えた。彼等との距離は、大体20mくらいだろうか。


 してやられた。アイツ等がいつか行動に移るのは分かっていたが、目抜き通りを見張っているとは。


 本来、二人して奇襲をかけてくるのならば、まずはオレの元住んでいた家に押し入るはずだ。

 しかし、あそこの玄関口には<アラート>の呪文を込めた魔石があり、誰かが踏み込んできたらオレが肌身離さず持っているアラートの魔法を受信する魔石に警報が鳴る仕組みになっている。

 そのように万全の警戒態勢を敷いていたのだが、空振りに終わった。


 カインの奴、本来は元の家を襲撃する予定だったのだろうが、そうするのを直前で止めたのだろう。

 そして、考えを改め、目抜き通りで待ち伏せすることにしたのだろう。

 アイツ、妙に勘がいいからな。


「お主、つけられているぞ」

「ああ、分かっている。だが、街中で乱闘騒ぎを起こす訳にもいかない。このまま街を出て、東に行こう。ちょっと行けば、サムサラの草原がある。そこでやり合うことにしよう」

「ちょっと待て。すると、奴等は……」

「ああ、ご明察。ご高名な勇者カインと騎士のマリーだよ」

「分かった。ならば我も助太刀をする。その為に、お主に雇われたのだからな」


 オレは無言で首肯する。

 素知らぬふりをして、そのまま往来を歩いていく。


 カインも馬鹿ではなく、街中で剣を抜いたりしない。オレ達と一定の距離を保ち、そのまま付いてくる。


 街から出て、東へと歩いて行く。それにカイン達も付いてくる。

 そこから20分ほど歩き、草原の奥の方へと辿り着いた。ここなら人目にはつかない。


 そこで、オレは振り向いた。


「よぉ、カインにマリー。久し振りだな」

「ああ、実に久し振りだ。僕はこの日が来るのを今か今かと心待ちにしていた。マリーと僕の非番の日が重なるのを、ずっとずっと待っていたんだ」

「成程。そうして念願の日が来て、オレのことを目抜き通りで張っていたんだな?」

「その通りさ」

「そうして、オレ一人を二人掛かりで嬲り殺そうとしていた。実に勇者らしい、立派な行動じゃないか」

「フン、なんとでも言え。今日が貴様の命日なのだからな」


 カインは鞘から勇者の剣を引き抜いた。


「やり合う前に、一つ質問していいか?」

「いいだろう。冥途の土産に何でも教えてやろう」

「トレモロとキュアは、王都で要職に就いている。だが、アイツ等が死んでも、それが騒ぎになってもいないし、オレが捕まることもない。王立軍の衛兵達に囲まれることもなかった。一体、何故なんだ?」

「フッ、そんなことか。いいだろう、教えてやる。いいか、僕は近衛兵団長で、王の側近だ。トレモロとキュアのことは、王に『自殺と事故死』だと報告した。これからも誰が死んでもそう報告するつもりだ。だから、何があってもだから、お前は王に捕縛されないんだよ」

「逆に言えば、『トレモロとキュアを殺害したのはクリュッグです』と王に報告も出来るな。そうなれば、王は軍隊をオットーの街に送り、オレを捕縛することが出来る」

「容易にそうも出来るが、そうするはずもない。何故ならクリュッグよ。貴様にトドメを刺すのは、この僕なのだからな」

「事情は把握したぜ」


 オレはククリナイフを抜いた。


「その前に僕からも訊いていいか? お前の隣にいる騎士は、なんなんだ? 一体、何者なんだよ?」

「彼はオレの助っ人だ。腕の立つ騎士だ」

「チッ。僕とマリーとで、お前を嬲り殺しにしてやろうかと思ったが、邪魔が入ったようだな。それでもまぁいいさ。たとえ、僕一人だったとしても、お前とそこの騎士を相手にしても、楽に勝てるからな」

「大した自信家だな、カイン」

「オリハルコンの装備を取り上げられたお前など敵ではない。まして、そこにいる騎士など論外だ。僕は勇者だ。クリュッグよ、お前なんかハナから僕に敵う訳がないんだよ」

「それはやってみなきゃ分からないだろーが。勇者様よ」


 そこで話は終わった。

 お互いにじりじりと距離を詰めていく。


「ゼノンはカインの相手をしてくれ。オレはマリーを片付けたら、そちらに加勢に行くから」

「あい分かった」


 ゼノンは首肯した。


 そして、一気に距離を詰めていく。オレは騎士のマリーに突っ込み、ゼノンはカインに向かって行った。

 ここに宿命の敵との戦いの幕が上がった。

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