ゼノン
「ゼノンさん、どうもこんにちは。紹介したい方がいまして。こちらが募集主のクリュッグさんです」
受付嬢がオレのことを紹介すると、ゼノンとやらは鋭い視線をオレに投げかけてきた。
それから一転して、鷹揚な笑顔になり、一歩近づいてくる。
「我はゼノンだ。まずは話を聞かせてくれないか、クリュッグ」
「勿論だとも、ゼノンさん」
「では、お二人とも。2階にある応接室でお話をされてはどうですか?」
受付嬢さんがそう告げた。
オレはその提案を快く受け入れ、ギルドの2階にある応接室に行く。
応接室の扉を開けると、テーブルを挟んでソファーが2つ並んでいた。オレがそれに腰を落ち着けると、対面にゼノンさんが座った。
見たところ30代前半といったところだろうか。
22のオレより年上みたいだ。
「まずはそちらがどういった理由でパーティーメンバーを募集しているのか、伺いたい」
「無論です、ゼノンさん」
「おっと、待ってくれ。我のことはゼノンと呼び捨て構わない。こちらもクリュッグと呼ばせてもらうからな」
ゼノンがそう語りかけてくる。
「そうですか、それでは遠慮なくゼノンと呼ばせてもらいます」
「了解だ、クリュッグ。して、お主は何故メンバーを募集しているのだ?」
「それなんですが。とある相手達に復讐をするためです。そいつらはとても強く、助っ人が必要になりそうなのです」
ここで偽りを言ってもしょうがないと思い、真の目的を話した。
それで話を断ってくるようなら、元から駄目だ。縁がなかったと諦めるしかない。
「ほぅ、仇討ちか。お主は相手に復讐するため、仇討ちをするというのだな?」
「仇討ち?」
初めて聞く言葉だ。思わず聞き返してしまった。
「まぁ、なんというか……確かに、ここハイランド王国では聞き慣れぬ言葉かもしれんな。実は我もこの言葉を知らなかったが、傭兵団に東国ハポンの出身者がいてな。そいつから聞いたんだ。なんでも、ハポンでは、肉親や友を害されたら、『仇討ち』といって、害した相手を討ち取ってもいいそうだ」
「へぇ、そうなんですか。それは勉強になりました」
成程と頷く。ついでに、ゼノンの言葉遣いが多少妙なのは、ハポンに影響受けているからなのだと察した。
「まぁ、我が国では自分に屈辱を与えた相手には、すぐに決闘を申し込むものだがな」
「そうですね」
「して、お主が仇討ちするのはいいとして、それは私怨なのか? それとも別の理由があるのか?」
「私怨です」
即答した。そこをぼかして話しても、いずれはばれることだからな。
「そうか、私怨か。ウムムムム……」
ゼノンは眉間に皺を寄せている。
どうやらこの態度だと、こちらの話に納得がいってないようだ。私怨という点が引っかかっているだろう。
この話は、なかったことになるかもしれないな。
諦めて席を立とうとしたが、呼び止められた。
「いや、待て。お主の顔は見たことがあるな……それと名前にも聞き覚えがあるような……」
ゼノンは腕を組み、暫し考えてから、ポンと手を合わせた。
「お主は、魔王を倒した勇者カインのパーティーにいたクリュッグではないのか? パーティーの中で役立たずの?」
「そうです、そのクリュッグ本人です」
「新聞の記事で知っていたのだが、やはりそうであったか。だが、あの話はどうにも腑に落ちないところがあってな……」
「なんですか?」
「役立たずで力不足の奴が、勇者パーティーにいるはずないと思っていた。そんな奴がいては、かえってパーティーの足を引っ張る結果になるからな。実力のない奴がいては、あの魔王に立ち向かえる訳がない」
「ご明察の通りです」
「ちなみに、お主の冒険者ランクは?」
「SRクラスです」
「やはりな。やはり、実力は確かであったか。そうなると、ますます解せないな」
「何がですか?」
「クリュッグが役立たずで、パーティーから追放されたという新聞記事だよ。SRクラスの冒険者ともなれば、役立たずだったなんて有り得ない話だ。――となれば、この追放劇には何か裏がある。そう考え及んだのだが、我は間違っているのかね?」
ゼノンはここまで知っているんだ。もう全てを包み隠さず語ろう。何故オレがパーティーから追放されたのか、それと敵は勇者カイン達であることを。
そう判断し、ゼノンにこれまでの経緯を喋って聞かせた。
彼はオレの話に耳を傾け、時折相槌を打っていた。
全て語り終わると、ゼノンはオレの顔を覗き込んだ。
「そのようなことがあったのか……それは途方もない屈辱を与えられたものだな」
「まぁそうですね。それで、ゼノン。全てを知った上で、この話に乗りますか? それとも降りますか?」
「乗った! 自らにかけられた汚名をそそがない奴など、騎士にいないからな」
「でも、相手はあの勇者カインですよ? オレに助太刀をしたばかりに、命を落とすかもしれません」
「なぁに。そうなったら、自分の騎士道はそこまでだった。自分の実力などそこまでだったということよ」
「ゼノン……」
「これから宜しくな、クリュッグ」
ゼノンが手を差し伸べてきたので、がっちりと握手を交わした。
それから、二人で冒険者ギルドを立ち去り、乾杯をすることにした。
この冒険者ギルドのある通りには、冒険者たちが多いせいで需要があるのか、朝から酒が飲める大衆酒場が多い。
ちょっとハポン国にかぶれているが、いい騎士と巡り会えた。
カインとの戦いに大いに役に立ってくれるだろう。
これから彼と交わす盃は、さらなる復讐への祝い酒になることだろう。
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