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セリーヌ

 食堂に行くと、セリーヌがいて、目が合ってしまった。

 彼女が手招きしたので、仕方なしにそのテーブルにつくことにした。


 ウエイトレスに料理の注文を頼んでから、セリーヌと向き合う。そういえば、コイツに頼み事があったんだ。


「なぁ、セリーヌ。お前、<アラート>の呪文知っている?」

「まぁ、知っているけど」

「ならお願いがある。<アラート>の呪文が込められた魔石を作ってくれないか? そうだな、10個くらいあると助かる」

「出来ない事もない。一個、一万ダラーで」

「チッ、がめつい奴め」


 オレはセリーヌに10万渡した。

 セリーヌは「毎度ありー」とほくほく顔で言った。


 だが、これで元の自宅と高級住宅街の屋敷の玄関先や窓に<アラート>の魔石を置くことが出来る。それを設置すれば、より安心だ。

 侵入者がアラートの魔石の上を通ったら、アラートの魔法を受信する魔石に警報が流れる。

 そうすれば、敵が侵入したことをいち早く察知することが出来るからな。


 そう考えていると、注文した料理が次々に運ばれてきた。

 チノは「いただきまーす」と言い、大口を開け料理をかきこんでいく。

 オレはケチャップたっぷりのスパゲッティのナポリタンを食べた。


 食べ終わると、チノが「口の周りが真っ赤なのです」と紙ナプキンでオレの口を拭いた。

 ガキっぽいことは止めて欲しかったが、チノのすることには逆らえず、されるがままにした。


 対面を見ると、すでに食事を終えたのか、セリーヌがソーセージと厚切りハムの盛り合わせをつまみに、例によってバーボンを呷っていた。

 彼女はオムレツを食っているオレに、バーボンで満たされたグラスを差し出す。


「クリュッグもやりなよ」

「ああ、たまにはそうするか。それじゃあ、ご相伴に預かって」

「かんぱーい」


 オレとチノとセリーヌの三人でグラスを合わせた。幼いチノの飲み物は、オレンジジュースだが。


 それから、オレは食事をつまみつつ、セリーヌと今後どうするかといった真面目な話題をしていった。

 どうにもそれが退屈だったらしく、チノはテーブルに突っ伏して寝入ってしまった。


 その後も飲みながら話をしていると、セリーヌはぐいぐいとバーボンの注がれたグラスを空にしていく。

 ボトル一本が空き、セリーヌはウエイトレスにニューボトルを注文した。


 それからも話していくと、セリーヌの呂律が回らなくなってきた。

 どうにもこれはマズいパターンだ。絡み酒は勘弁だぜ。


「大体さー、クリュッグは冷酷なんだよー」

「仕方あるまい。なんたって、職業はアサシンなんだからな」

「アンタは強がっているけどさー。そうじゃないんだよ」

「オレは別に強がってなんかいないぞ、セリーヌ」


 オレはグラスを傾けた。


「でも、でもさ。裏切られたとはいえ、元の仲間を害して。それで心に傷を負っているお前がいるんだよー」

「断定的だな。だが、悪いがその推測はハズレだ」

「傷ついている、傷ついている、傷ついている。クリュッグは傷ついているのー」


 セリーヌが駄々をこねるように口にする。まったく、子供かお前は。


「あー、はいはい。分かった分かった。その通りですよ、セリーヌ様」


 オレはやれやれと片手を上げた。


「アンタを心配しているだからね。この馬鹿」

「馬鹿は余計だが、それはありがたい」

「本当に……心配しているんだから。いつアンタが、勇者パーティーから殺されやしないかって……本当に本当に、心配しているんだからー」

「はいはい」


 セリーヌは手を振り回しつつも、涙目になっている。

 今度は泣き上戸かよ。参ったな。


 オレはセリーヌの隣の席に移動し、彼女の髪を優しく撫でた。

 そうしたら、彼女はわっと泣きながら、抱きついてきた。


「好きなんだ。あたしが二年前、この街に流れ着いた時、アンタだけはあたしに親切にしてくれた。そんな優しいアンタのことが好きになっちまったんだよ……」

「おいおい。冗談はよしてくれよ」

「なんだよ! あたしは本気なんだからね!」


 その目は本気(マジ)だった。


「もし、お前が酒に酔った勢いだけじゃなくて、本気の告白だとしても、オレは……ノーとしか言えない。お前の気持ちは嬉しいが、今は色恋沙汰なんかより、仲間だった奴への復讐心の方が大きいからな」

「なんだよ、バーカ」

「だから馬鹿は余計だって」

「あんだよ、バーカ。もうアンタなんか知らないんだから!」


 セリーヌはオレに小銭を投げつけ、千鳥足で酒場から出て行った。

 オレはやれやれと小鼻を搔いた。


 それからチノを起こし、会計をして店を出た。

 ほろ酔い気分になりながら、自宅へと帰っていった。


 翌日、チノが教会に行くのを見送ってから、オレは自宅を出た。

 フライパンや鍋、食器などを買いに、目抜き通りへと出た。


「よっ、お早う」


 セリーヌの声。背後から聞こえてくる。

 ポンと肩を叩かれ、その後にセリーヌが笑顔で、オレの前に来た。


 なんか昨日、オレに恋の告白めいたものをしたわりには、いつも通りだな。

 あまりにもあっけらかんとしていたので、問い掛けてみた。


「お前、昨日の酒場でのこと覚えてる?」

「いやー、それがさ。深酒をしたせいか、すっかり記憶になくってさー」

「そうか、それならいいんだ」


 オレは微笑んだ。


「えー、なんだよそのにやけた面は。昨日、酒場であたしなんかやらかしたっけ? 教えろよ」

「いや、特には。強いて言えば、たまには冒険者ギルドの討伐クエストを受けてみるかって話をした。手強いモンスターを倒したくなってきたなって、盛り上がったんだ」

「ん? んん? そう……だったかな」


 セリーヌは腑に落ちない顔をしている。


 だが、今はこれでいいんだ。

 今は女に構っている場合じゃないからな。


 金物屋の前でセリーヌと別れ、暖簾をくぐった。

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