新居
キュアとの死闘から三日過ぎ、家に帰ると、吹き飛んで壊れた自宅の正面玄関が修理されていた。
それにしても、もうここを自宅として使えないな。
キュアからここの玄関先に地雷魔法をかけられ、いとも簡単に破られたのだし。
チノとセリーヌには、事務所にいてもらっているが、あそこも最早安全ではない。
取り敢えず、玄関やその周り破壊された箇所が修復されたのを確認し、その足で盗賊ギルドに向かう。空は茜色に染まっていた。
ギルドに着き、玄関口を開ける。受付カウンターには若い女の子がいたので、ゲバラを呼んでくれと頼んだ。
奥からゲバラが出てきて、カウンターから出て、オレを窓際にあるテーブルへと誘う。
二人して腰を掛けてから、ゲバラが話し始めた。
「いい隠れ家見つかったぜ。お前の自宅の裏手にある家が空き家だった」
「そりゃいいな。敵も引越先が、自宅の真裏にあるとは考えまい。もっと違う場所に引っ越したと考えるだろう」
「そういうこった」
ゲバラは深く頷いた。
「しかし、自宅の真後ろの家が空き家とは知らなかった。だが、この物件のことを知っている奴は?」
「それは安心しろ。盗賊ギルドのメンバーが先週まで住んでいた家だ。今は空き家だってことは、まだ表の情報には出ちゃいねえ」
「それは尚更安心だ。よし、その家を買い上げる」
「へへ、毎度あり。値は500万でいいぜ」
自宅ある周辺の家は、築年数のいった物件ばかりだ。ボロい中古住宅の値段など、たかが知れているが、ここは値切らずに買うことにしよう。
「500万は明日、盗賊ギルドの秘密口座に銀行から振り込む。それでいいか?」
「勿論だとも、兄弟」
オレとゲバラは握手を交わした。
そうなると、今夜早速引っ越し作業が出来るな。今の自宅から、着替えや生活必需品と書類だけを持ちだし、新居となる裏の家に運び込むとしよう。
タンスやテーブル、ベッドなんかはそのまま自宅に置いておき、新居には新しい家具を購入することにしよう。
そうすれば、まだいかにも自宅に住んでいるように装えるし、一石二鳥だ。
そう考えをまとめ、次の疑問点をゲバラに訊いてみた。
「あともう一つ依頼がある。オレの装備品がどこにあるのか、調べてもらえないか?」
「ああ、そいつか。それは耳にしたことがある。こいつはあくまでも噂なんだがな。お前が身につけていた伝説級の装備品は王都にある博物館で、厳重に保管されているって話だぜ」
「それだけでも聞けたのは有り難い。恩に着るぜ、ゲバラ」
「まぁ、情報料として10万は頂くがな」
ゲバラはニンマリと笑った。
オレは立ち上がり、テーブルの上に10万ダラーを置いた。そうして、ギルドの玄関口へと向かう。
「お、おい。もう行っちまうのか?」
「ああ。取り敢えずの用件は済んだし。他にもう一件行かなきゃいけない所があってな」
「そうか。それじゃあ、何かあったらいつでも来いよ」
「ああ、そうさせてもらうよ、ゲバラ」
ギルドの戸を開け、外に出た。次に向かうのは、ちゃんとした不動産屋だ。もう一軒、家を正規ルートで購入し、そこには住まないことにする。ただ、そこに備品や家具だけは揃えておくつもりだ。
この街に3件の家を所有していたら、カイン達へのいい目くらましとなるだろう。
そのまま不動産屋に行き、二つの物件を購入した。
一軒はこの街の高級住宅街にある屋敷だ。ここから100kmほど離れた地方都市のセンダにある家も念を入れて購入した。
これからの戦いによっては、ここオットーの街にいられなくかもしれない。
その時の保険のためにも、センダの街に家を購入した。センダなら、盗賊の仕事で何回か行ったことがあるので、見知った街だ。
それらの用事を済ませ、事務所に戻った。
中にはチノとセリーヌがいて、オレを出迎えてくれた。
そこで話し合いをし、明日からこの事務所を休業にすることにした。
カインの奴にここに踏み込まれては、たまらないからな。
翌日、新しい自宅のソファーで寛いでいた。
オレとチノの生活必需品は、すでに夜中、こちらの家に運び込んでいる。
もし忘れ物があったとしても、元の家に取りにいけば問題ない。元の自宅は、この家の真裏にあるのだから。
今日、注文した家具も届いたことだし、過不足はなさそうだ。
殺風景だった家だが、家具が入り、マイホームらしくなってきた。
それから暫くして、夕飯を取ることにした。キッチンにテーブルと椅子も揃ったことだしな。
と、そこで、鍋や薬缶や皿の類いが一切ないことに気が付いた。
チノと話し合った結果、キッチン用品は明日買い出しに行くことにして、今夜はいつもの食堂兼酒場に行くことにした。
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