待ち伏せ
翌日の夕方になり、オレは動いた。王都にあるキュアの邸宅へと向かった。
勿論、盗賊のスキルである<変装>を駆使し、輪郭と鼻の形を変え、おまけに伊達眼鏡までかけた。
王都に着いて、誰にもオレだと悟られないままキュアの邸宅まで来た。
<トラップ破り>のスキルを発動すると、青白く光った。
目を凝らしてみると、邸宅の周りにアラートの魔石が20cm間隔で置かれている。これでは、玄関をピッキングで開けることすら出来ない。
さて、どこから侵入したらいいものか。
やはり、この場合、屋根がベストだよな。
オレは人目に付かぬよう邸宅の裏側に回った。そこは丁度いい具合に、家の裏と後ろの家の裏に挟まれ、死角になっていた。
そこから<大跳躍>のスキルを発動し、30mの高さまで飛び上がり、天井へと着地した。
どうやら、アラートの魔法をかいくぐって天井まで来ること出来たな。
屋根には天窓があった。天井裏に部屋があることは、盗賊ギルドからのレポートで分かっていたことだ。
腰のポシェットから盗賊の七つ道具を取り出し、ドライバーを手にする。そうして、天井にある天窓の蝶番を取り外し、窓を取り払った。
そこから中に侵入する。
懐中時計を見ると、6時10分だ。キュアは7時過ぎには帰宅するだろうから、それまでに家の中を物色し、去らなければいけない。
「さて、キュアの奴をおびき出すには……何かいいものはないか?」
キュアの私室を開け、目を見開いた。
カイン、カイン、カイン。カイン、カイン、カイン。
そこにはカインの写真が所狭しと貼ってあった。天井から壁までぎっしりと。
きっと、キュアの奴が、カインをこっそりと念写して、こんなに大量の写真を隠し撮りしたに違いない。アイツ、<念写>のスキルを持っているからな。
しかし、これでは殆どストーカーだな。どこを見てもカイン、カイン、カイン。ちょっと寒気がするぜ。
ふと、机を見るとアルバムが置いてあった。
背表紙には「ベストアルバム」と書いてある。中を拝見すると、ここにもカインの写真で満載。
しかし、わざわざこれに「ベストアルバム」と書いてあるからには、キュアの奴の宝物なのだろう。
これはいいものを手に入れた。これを餌にすれば、キュアの奴は食いついてくるに違いない。
机に置いてあった適当な紙を見つけ、ペンを走らせメッセージを記す。
このアルバムは預かった。取り返したければ、明日の昼1時、セレス草原に一人で来い。仲間を連れてきたら、その時点でこのアルバムは燃やす。
怪盗X
そのように書いて、メモを机の上に置いた。そして、アルバムを持ち、天井裏の部屋の窓から脱出した。
王都から帰って、事務所に戻り、夕飯を食べた。
チノが自分の部屋に戻り、オレは物置部屋に行った。
魔法の鎧などの装備で身を固めてから部屋を出て、キッチンに向かった。
そこでチノにメモを書いた。
明日の昼12時。セレス草原にチノに来て欲しい。出来れば、セリーヌも連れてきてくれ。
キッチンテーブルの上にその様な書置きをし、この街から5kmほど離れたセレス草原に向かった。
夜中の内に草原まで到着し、草原の脇にある杉の巨木の上に登った。木の上の大きな枝の上で、早朝になるまで寝ることにした。
木の枝の上で寝るなど、危なっかしいように感じられるだろうが、アサシンのオレはこんな事をして、ターゲットを待ち伏せしていたのは、日常茶飯事だ。
夜明けの朝日と共に目を覚ます。
木の上から草原を一望するが、まだキュアの奴は来ていないようだ。
そのまま沈黙を保ちながら、奴が到着するのを身を潜めて待った。
随分と時間が経過し、キュアがやって来た。
懐中時計を見ると、時計の針が10時を指している。
キュアの奴を観察していると、地面に呪文を唱えていた。
きっとあれは<ランドマイン>の魔法に違いない。
念のため、オレは<トラップ破り>のスキルを発動させ、キュアが魔法を唱えた地面を見てみる。そこは青白く光っていた。
恐らく、キュアが<ランドマイン>の呪文を仕掛けているという読みはビンゴだろう。
それから飽きもせず、キュアは四方八方にランドマインの呪文をかけ、草原を地雷原に変えていく。実にご苦労なこっちゃ。
それから2時間ほど経過した12時過ぎ、30m四方に渡りランドマインによる地雷原が出来ていた。
ここから推測するに、オレが1時に現れ、呑気にキュアに近づいたら、地雷魔法が炸裂する寸法だったのだろう。
だが、そうは問屋が卸さない。
アサシンは用心深さが売りなのだから。
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