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処刑

 そして、場面が移り変わった。

 映し出されたのは、謁見の間だ。


「ハイリッヒ王、大変でございます!」

「なんじゃ、カインよ。余はそろそろ寝ようと思っていたところだぞ」

「不躾に申し訳ございません。ですが、重要なことが発覚したのです。シャルロット王女の死に関連する証拠を発見しました!」

「な、なんだと! それは一体!」


 カインは血の付いたアサシンダガーと、返り血を浴びたタキシードを王に見せる。

 このアサシンダガーは、王女を殺害した物だろう。

 タキシードは、豚かなにかの動物の血を浴びせてしつらえた物だろう。


「こ、これは!?」

「僕が発見しました」

「どこで見つけたのだ! 言え、言わぬか!」

「クリュッグの部屋です。奴のタンスの奥深くにしまってありました。この手紙と一緒に」

「カイン、早く手紙を見せろ!」

「畏まりました」


 カインは手紙を王に見せた。そこにはこう書かれていた。


 拝啓、シャルロット王女様。

 貴方にお話したいことがあります。

 夜12時半。城の二階の奥のテラスに来てください。

 クリュッグ


「な、なんという……おのれ、クリュッグめ! 余が可愛がっていたのに、恩を仇で返しおって!」

「賢明なるハイリッヒ王。クリュッグの奴がそのような凶行に及んだのも、僕には頷けます」

「何故じゃ! 何故、余が愛している娘をアイツは殺したのじゃ?」

「王には今まで黙っておりましたが、クリュッグの奴は貧民窟の出です。卑しい身分でございました。おまけに、勇者パーティーに入る前のアイツは、素行不良で。盗賊稼業やら暗殺を平気で請け負っていたのです。そんなアイツなら、王女様を刺すという暴挙に及んだのも納得が出来ます」

「そ、それは真か、カイン?」

「はい」

「お、おのれ、クリュッグめ! 卑しい奴には、死刑が相応しい。明日、奴を断頭台にのせ、処刑してやるわ!」

「仰せの通りかと。シャルロット王女様を殺した張本人には、相応しい罰でしょう」


 王は「おのれ、クリュッグめ。おのれ……」と何度も呟いていた。

 カインはそれを盗み見て、口角を上げた。


 それから場面が変わる。


 オレは街の広場に設置された断頭台の上にいた。首を断頭台に固定されている。

 その姿は憔悴しきっていた。


 広場には大勢の民衆がいて、オレに罵声を浴びかけ、小石を投げつけていた。

 王が椅子に座り、その隣にはカインがいた。奴はオレを見てほくそ笑んでいる。


 ルナの説明によると、オレが王女殺しの犯人だと糾弾されても、特に反論もせず、抗うこともなかったという。

 きっと、王女の死は自分の責任だと思い込み、全てを諦観していたのだろう。生きることすらも。


 断頭台にいるオレに牧師が寄って来る。


「大罪人クリュッグよ。最期の言葉はあるか?」

「申し訳ございません、シャルロット王女様。お守りできず申し訳ございません……」


 虚ろな目をしながら、ぶつぶつと呟いていた。


「今更後悔しても遅いわ! 大罪人のお前などに、女神のご加護などない! たとえ死んでもな!」


 牧師はそう吐き捨て、壇上から降りていった。


「処刑人よ、やれい!」


 王が手を上げて、そう怒鳴ると、手に斧を持った処刑人が動いた。

 そして、ギロチンに繋がっているロープを斧で切った。

 ギロチンは滑り落ち、その鋭い刃で首を跳ねた。


 オレの生首が宙に舞う。


 そして、どおおおと民衆から歓声が沸き起こる。

 処刑人はオレの生首を掴み、それを民衆に見せびらかすようにして掲げた。


 そこで映像が途切れ、魔道ビジョンが消えた。


「どう、勇者パーティーから追放されなかった世界線でのアナタの末路は?」


 ルナが問い掛けてくる。


「……アンナの言った通りなったな。オレに王宮勤めなど出来ないというのは、どうやら本当だったようだな」

「え?」


 ルナが問いかけるような顔をし、見つめてくる。

 そうか、コイツはオレとアンナが会っていた時、いなかったからな。


「いや、単なる独り言だ。それにしても、我ながら馬鹿だな。忠義心のために死ぬとか、アホとしか言いようがない。今のオレなら、泥水を啜ってでも、屈辱を与えた相手に復讐をするのだがな」


 呆れたように口にする。

 けど、内心ではあまりの衝撃的な映像に動揺していた。それをルナに悟られまいと必死だった。


 そこでふと思い付き、そのことを質した。


「なぁ、ルナ。この世界線Bとやらが、本来のオレの未来のことなら……オレはお前に命を救われたことになるよな? 一体、どうしてオレをパーティーから追放させて救ってくれたんだ?」

「そんなことは単純だ。パーティーから追い出されなかったお前の魂は汚れなかった。それでは私の糧にならないではないか。大体、私と契約したお前があっさりと死んでしまったのでは、元も子もない」

「ああ、成程な。あと、もう一つ疑問に思ったんだがいいか?」

「何なりとどうぞ」

「仮の話だが。考えてみれば、一国の王ならたとえ爵位と役職が6つしかなくても、簡単にもう一つのポストくらい用意出来たんじゃないか?」

「その通りさ。私が王の心を操らなければ、お前に宛がうポストなどいくらでも新設出来た」

「つまり、お前が王の心を操らなければ、オレはパーティーから追放もされず、王宮勤めをしていたのか?」

「そうだ」

「その結果、あんな悲惨な結末を迎えた訳だ……」


 そこからオレは黙考した。

 今のオレは、パーティーから追放され、王からも面罵されたが、こうして生きている。


 一方、ルナが王の心を操らなければ、オレはいい子ちゃんをしながら、王宮勤めをしていた。まぁ、その結果、死という結末が待っていたのだが。


 どちらの世界の方が、オレの望む道だったのだろうか。どちらも自分が選択したことだ。どちらがいいなどと軽々には言えない。だが、それでも……


「やっぱりこうして血塗られた復讐の道を歩みながら生きている方が、本来のオレらしいよな」


 一人頷くオレをルナは優しい目で見ていた。


 とはいえ、コイツは悪魔だ。幻影を見せ、取り憑いた相手を陥れることなど、造作もないだろう。

 つまり、コイツが魔道ビジョンで見せたものが、実は虚構の世界だった可能性もある。


「一応言っておくが、その世界線Bは本当にあって……」

「分かったよ、ルナ。もういい。もういいんだ」


 オレは穏やかに微笑んだ。

 今はパーティーの連中を復讐してやろうとばかり考えている。コソ泥のように、人生の裏道を這いずり回っている。


 多分、それでいいんだ。その生き様が、本当の自分にもっとも近いのだから。


 その様な答えを導き出し、ルナを見た。

 彼女は素知らぬふりをして、オレと目を合わせない。


 オレは壁の方を振り向き、改めてターゲットの写真を見る。

 次の復讐する相手は、魔法使いのキュア。


 飽くることなく、ナイフの突き刺さった彼女の写真を見詰めた。

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