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ゴブリンの洞窟 2

 洞窟の天井に潜んでいた2匹のゴブリンが落下してくる。その手には短剣を握られていた。


 オレは素早く2匹の間に陣取り、ククリナイフを2回振るった。一振り目で、右から落下してきたゴブリンの腹を裂き、もう一振りで左から落下してきたゴブリンの首を刈り取った。


 ごろりとゴブリンの生首が地面に転がる。


「転ばせようと縄を張っておくなんて」


 セリーヌはごくりと唾を飲んだ。


「だから言ったろ? ゴブリンは意外と賢いんだよ。ずる賢いんだよ、セリーヌ。とっとと先に行くぞ」


 平然としながら歩き出すと、「ま、待ってよ」と言いながらセリーヌは付いてきた。


 先に進むと、曲がり角がある。そこを過ぎた途端、横一列に隊列を展開し、弓を引いているゴブリン達がいた。奴等はオレの姿を見て、一斉に矢を斉射してくる。

 彼我の間10mほどの至近距離から、矢が放たれる。


 普通の冒険者ならここでお陀仏だが、オレは違う。猛然と飛んでくる矢がスローモーに見え、その全てをアサシンダガーで叩き落した。


「セリーヌ。オレが矢を防いでいるうちに、<ラージファイアー>を頼む」

「分かった」


 後ろからセリーヌの詠唱が聞こえる。暫く矢をさばいていると、「ラージファイアー」とセリーヌの声がした。


 大きな炎が上がり、それに巻き込まれたゴブリン達は火達磨になった。

 オレはアサシンジャケットから火薬と鉄球が入った小瓶を取り出し、炎の中にそれを放り投げた。


 セリーヌの手を取り、曲がり角を曲がる。すると、小瓶が爆発し、バックドラフトが起こった。中の鉄球は、その爆発であちこちに四散した。


「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーーーー!」


 奴等の叫び声が聞こえてくる。これで、敵の頭数は減らしたはず。ある者は爆発に巻き込まれ、ある者は鉄球で体をずたずたにされたはずだ。


 まだ燃えている炎を俊足で突き切り、オレはククリナイフを取り出した。


 まだ20匹のゴブリンがいて、呆然と立ち尽くしていた。そいつらの首をオレは刈り取っていく。

 椅子から立ち上がった一際大きいゴブリン・ロードの首も容赦なく斬った。

 ナイフの舞が終わると、ゴブリン共の屍の山が出来上がった。


 暫くして炎も鎮火し、曲がり角からセリーヌがやってくる。


 オレは奥に扉があるのを発見して、そこを開け放った。


 中には、鎖で縛られ、裸になっている女性がいた。彼女は口からだらしなく涎を垂らし、目は完全に死んでいた。きっと連中のいい慰み者にされたのだろう。こうなってしまえば、発狂して現実から逃避するのも一つの手だ。


 その奥から異臭が漂っている。そこに行ってみると、豚の死体に混ざり、人間のバラバラ死体も転がっていた。すでに原形をとどめない肉塊になっている。

 オレはその肉塊の中から、一本の小さな千切れた足を発見し、それを手に取った。


 あまりの惨状に、セリーヌはもどしていた。


「悪いがセリーヌ。父親から預かった少年の靴下を寄越してくれ」


 セリーヌはまだ顔を伏せながらも、少年の靴下を手渡した。


 ブルーのストライプの入った靴下。手に持っている千切れた足にも靴下が。それは同じブルーのストライプが入っていた。

 これで確定だ。少年は、ゴブリンの餌食となり、今や片足だけになっている。


「はん。親の言うことを背いて、森の奥まで来てしまったんだ。この少年が、こんな姿になっても同情の余地はねーな」


 履いて捨てるように口にした。


「なんだって? もっと言いようがあるでしょ、クリュッグ」

「親の忠告を聞かなかったこの少年が悪い。まぁ、この少年が森の入り口付近でゴブリンに拉致されたのだとしたら、それは少々可哀想だが。しかし、それ以上の感想は出て来ないな」

「ねぇ、クリュッグ。アンタ、変わっちまったよね」

「は? どこがだよ?」

「以前のアンタなら、この子の遺骸に花でも捧げていただろうに」

「花一輪も持ち合わせていないのだから、そんなこと出来ないだろ?」

「それはそうなんだけどさ。けど、そうじゃなくて……」


 セリーヌは悔しそうに唇を噛んだ。


「そうじゃなければ、なんなんだよ?」

「……以前のアンタなら、花がなければ、少年の遺骸に手を合わせて、祈っていたってことさ。それが今のアンタは、手を合わせるどころか、少年の死に文句をつけるだけ。一体、どうしちまったんだよ? 前のアンタは、盗賊をやっていようが、優しい心を持ち合わせていたじゃないか!?」

「人は変わるものなんだよ」


 オレは寂しげに笑った。


「そりゃあ、勇者の一行から手酷く裏切られて、心に傷を負ったのは分かるよ。けど、それでも…」


 セリーヌの瞳は、悲しみに溢れていた。


「今のアンタの心は、氷みたい冷たいよ! まるで悪魔にでも取り憑かれているみたい!」


 その言葉を聞き、ふっと口の端を上げた。


「言いたいことはそれだけか、セリーヌ?」

「え?」

「お前の説教はもうウンザリだ。とっとと戻るぞ」


 少年の片足をセリーヌに持たせ、オレは女性を背負った。

 彼女の身元は不明だが、冒険者ギルドまで連れていけば、ギルドの情報網に引っ掛かるかもしれない。


 そのまま二人して無言で入り口に戻った。


 街に戻ってから、金持ちの依頼主の父に伝えるのは、息子の死。彼に引き渡す物は、血塗れの千切れた片足だけとなる。

 そして、オレは依頼主から報酬を頂くだけのこと。


 そう、それ以上もそれ以下もない。

 ただ依頼主に事実を述べ、こちらは報酬をたんまりと頂く。


 ギブアンドテイク。ただそれだけのこと。

ブクマや評価などがあると、作者のテンションが上がります。

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ブクマ、評価など、よろしくお願いいたします!

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