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ゴブリンの洞窟

ゴブスレ面白いよね!

 オレは先行するセリーヌの後をただ黙って付いて行く。というか、そうすることしか出来ない。この場合、少年の痕跡を辿れるのは、トレースの呪文を発動しているセリーヌだけなのだから。


 彼女の後を追ったまま、街を出て、少し歩いたところで森に入っていく。森の中は鬱蒼とした木々が天を覆っていた。昼間でもどことなく薄暗い森の中を、今度はオレが先行して生い茂った雑草やら、邪魔な枝を薙いで進んでいく。


「こっちの方角であっているか、セリーヌ?」

「ええ。方向が違うときは、あたしがその都度言うから」

「了解した」


 オレ達は荒れた森の中を歩いて行く。


「しかしマズいな……よりにもよって、このライラックの森に少年は来てしまったのか。依頼主の父親から、『よくこの森に息子が昆虫を採りに行くので、その度に注意しているのです』とは聞いていたのだが」

「ん? この森ってそんなに危険だったっけ?」

「森の入り口の然程でもない。問題は奥の方だ」

「奥の方に何かあった?」

「洞穴がある。そこはゴブリン共の棲家だ」

「ちょ、ちょっと。あたし達みたいな冒険の熟練者ならともかく、少年がゴブリンと鉢合わせしたら……」

「ああ、最悪なことになりかねない。先を急ごう」


 自然と早足になってしまうオレに対し、「そっちを右」とセリーヌに注意されてしまった。今、少年の跡を追っているのは、彼女だ。慎重に行かなければ。


 30分程草をかき分け進んだだろうか。セリーヌの指示通りに来て、木々を抜けた所に背の低い草地が広がっていた。どうやら、森の切れ目らしい。

 視線を先にやると、ぽっかりと口を開けた洞窟を見つけた。


「セリーヌ。まさかとは思うが……」

「うん。トレースの魔法で出来た青い点線が洞窟の中に続いている」


 最悪だ。恐らく、あの洞穴はゴブリン共の棲家だ。

 少年は道に迷って、ここまで来てしまったのか、それとも、途中でゴブリンに遭遇し、連れ去れてしまったのか分からないが、今は洞穴の中だ。


「プロテクションの呪文はマスターしているか?」

「うん、している」


 オレの問いかけに、セリーヌは頷いた。


「なら、自分にプロテクションの魔法をかけて、防御力を上げておけ。元々防御力の高いオレには不要だが」

「でも、相手はたかがゴブリンでしょ? そこまで警戒する必要ないって」

「いや……奴等は人が思っているほど愚か者ではない。いいか、洞窟の中は卑劣なトラップが仕掛けられているはずだ。それに、死角からの奇襲にも注意しろよ。兎に角、お前はオレのすぐ後ろにいろ。死にたくなければな」

「う、うん。分かった、そうするよ」


 洞窟の入り口には、案山子のようなオブジェがあり、先端にはしゃれこうべが乗っていた。これはどう見ても人の頭蓋骨だ。すでに犠牲者は出ているようだ。


 洞窟の中に入ると、陽の光が差し込まなくなった。

 セリーヌが魔法の杖を掲げ、「ライト!」と詠唱すると、杖の先端が明るくなった。これだけ明るければ、夜目が利くオレには十分だ。


 ひたひたと洞穴の中を進んでいく。今のところは、一本道だ。


「ひっ!」


 セリーヌの足が止まった。魔法の杖が、骨塚を照らしたので、彼女は驚いたのだろう。

 骨塚は(うずたか)く積まれており、動物の骨やら、人骨やらが入り乱れて積まれていた。


 そちらに視線を奪われていると、横穴からゴブリン共が槍を持ち、奇襲を仕掛けてきた。

 オレはそれを読んでいて、横穴から出てくるゴブリンをククリナイフで切り裂き、次々ととどめを刺していく。

 ゴブリンの皮膚を裂き、肉まで抉り取る。切り裂いて、切り裂いて。頭をかち割って。


 そうしてざっと20匹も斬っただろうか。もう横穴から奴等の気配がなくなったので、ククリナイフを鞘にしまった。


「こんな所に横穴があっただなんて……」


 セリーヌは青い顔をしている。


「人の目が骨塚に行っている間に、横穴からこっそりと奴等が這い出して来て、思わぬ所から奇襲をかける。奴等の常套手段さ」

「クリュッグはよくそんなことを知っていたわね」

「まぁな。冒険初心者の頃は、散々ゴブリン共に苦しめられたからな。だから、奴等のやり口は覚えている。意外と狡猾な奴等だ。気を抜くなよ」

「う、うん」

「先に行くぞ。オレから離れるなよ」


 オレは正面の道を歩いて行く。


「ちょ、ちょっと待って。こっちの横穴の方が怪しくない?」

「そっちはトラップだ。十中八九、先にあるのは行き止まり。で、そこから戻ろうとすると、すっかりゴブリン共に囲まれているっていう寸法だ」

「そ、そうなんだ」


 セリーヌはごくりと生唾を飲み込んだ。


 さて、そろそろ<トラップ破り>のスキルを発動する頃合いだな。

 スキルを発動し、歩いて行くと、地面から10cmほど浮いたところが青く光っている。

 しゃがんで見てみると、縄が張ってあった。この縄で冒険者を転ばせようという魂胆なのだろう。


「すると、上か」


 オレはギラリと天井を睨む。

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