魔王との死闘 1
モンスターを薙ぎ倒しつつ、山頂付近まで来た。
そこに、巨大なモンスターがいた。その巨躯は、30m級の巨人族サイクロプスを遥かに超えている。
その威容、その迫力。アイツこそが間違いなく魔王だと直感した。
いよいよ、長かったこのクエストも終わりの時が来たようだ。
勝つのは、アイツなのか、オレ達なのか。いざ、勝負!
魔王は巨体に加え、4本の腕を持っていた。一本は燃え盛り、もう一本は凍っている。あとの二本は手に風が渦巻いており、もう一方の手は岩石で出来ていた。
「は、ははは……な、なんなんだよ、アイツは? あの馬鹿でかい4本の手を持った化け物は。あんな奴、最早モンスターじゃない。巨大な化け物だよ。あんな奴に適う訳ないじゃないか。それにあの4本の腕。それぞれに炎、氷、風、土属性の魔法を操るってことなんだよな」
トレモロの声が震えていた。
「かといってここで引くのはなしだ。とんでもない化け物だろうが、あれが魔王なら勝ちにいくまでだぜ」
オレは武者震いで体を震わせつつ、強気な言葉を吐いた。
「皆、前衛と後衛に分かれ、必勝の陣形を取れ!」
カインは鞘からスラリと勇者の剣を引き抜き、指示を飛ばす。
弓使いのトレモロと、僧侶のアンナ、魔法使いのキュアの後衛達が後退していく。
オレと勇者カイン、格闘家のレオ、女騎士マリーの前衛は盾を構え、前進していった。
開戦の狼煙が上がった。
まず、弓使いのトレモロが聖なる弓を引き、矢を放つが、魔王の体に弾かれてしまった。奴には聖なる矢も、<強弓>のスキルも歯が立たないようだ。
恐るべき防御力だ。とても矢で貫ける相手ではない。
「くっ!」
トレモロは歯軋りをしながら、更に後方へと退いた。
「キュア。奴の弱点は分かったか?」
カインが声をかける。
「ええ。<サーチ>の呪文で、魔王の弱点を割り出したわ。けど……」
「けど、なんだ?」
「奴の唯一の弱点は、頭頂部。そこに脳があるわ。ソイツを剣で突き刺してしまえばいいの」
「ハッ、そりゃ難儀だな。奴の頭がある50m上空まで跳躍しろってか?」
確かにそれは無理な相談だ。盗賊のスキル<大跳躍>を発動しても、30mを飛ぶのが精一杯だ。
魔王の頭頂部を切り裂くには、奴を跪かせる必要がある。
「アイシクル!」
キュアが氷の呪文を発動すると、魔王は氷をまとった腕でガードする。あまつさえ、その腕を振り、逆にアイシクルの呪文を放ってきた。
垂直に尖った氷柱が飛んでくる。
カインが勇者の盾で氷を弾き、前衛の皆が彼の後ろについて、どうにか氷柱をやり過ごす。
「くっ! アイシクルも効かないとは、とんだ化け物ね。ならば喰らえ、インフェルノ!」
キュアが炎の呪文を唱えると、今度は炎の腕でガードしてきた。そしてまた、炎の腕を振るった。
オレ達前衛は業火に包まれてしまう。
カインが勇者の盾で炎を吸収した。勇者の盾は、炎を吸収し、氷を弾くことができる。
こうなったら、防御はカインに任せるしかない。オレ達は彼の後ろについていなければアウトだ。そうしなければ、氷柱か業火の餌食となってしまう。
「行ったれやー!」
乾坤一擲。レオのオヤジが叫びながら、魔王に走り寄っていく。
魔王は、風が渦巻いている腕を一振りした。すると、突風が吹き、レオのオヤジは吹き飛ばされ、山肌に勢いよく激突した。
今度は魔王の反撃だ。
奴は岩石で出来た腕を振った。すると、大きく地面が揺れた。アースクェイクの呪文――即ち地震だ。立っていられないほど揺れている。
「キュア、何でもいいから魔法を! これじゃ、僕達前衛は近寄ることすら出来ない」
カインが叫ぶ。
「こ、こんなに揺れていちゃ無理よ。呪文を練ることが出来ないわ!」
キュアも叫んだ。
アンナはどうしているんだ?
オレは振り返り、アンナを見た。彼女は跪き、呪文を唱えていた。きっとホーリーの魔法を練っているのだろう。
呪文の発動まで時間のかかる究極魔法だ。ホーリーの一撃なら、きっと魔王にも通用する。
だが、この揺れで魔法を唱えきれるものだろうか。
アースクェイクの魔法で、オレの真横の地面が裂け、クレバスが出来た。底が見えないほどの割れ目だ。あそこに落ちていたら命はなかっただろう。
オレはゴクリと唾を飲んだ。
最早、絶体絶命だ。
魔王が起こす地震で立っているのがやっと。この状態で、アイシクルなりインフェルノの呪文を放ってこられたら、致命的だ。防御すら出来ない。
業火で黒焦げになるか、氷柱で身を串刺しにされるかのどちらかだ。
もうこうなったら悪魔頼みするしかない。
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