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復讐の道を歩む

感想欄で「アサシンなのに、復讐相手を殺さないのはおかしい」という意見を一杯頂きました。

私も「成程」と思い、復讐相手を殺害するか、暗殺するかのどちらかにしようと決断しました。

トレモロは殺して、その辺りは改稿しました。

また、ストック分も相手を殺害しています。


皆様の意見を反映させて頂きました。

ご意見ありがとうございます。

「ところで、お前。カインとつるんでオレを襲撃しようとしているんじゃねーだろーな」


 もう一つの疑念を彼女にぶつけた。


「そ、そんな! 初耳です。それは本当のことですか?」

「ああ、マジだ」

「それは酷過ぎます! 私、カインと会ってきます」

「奴と会ってどうするっていうんだよ?」

「貴方を襲撃するのを止めるよう説得してきます」

「止めろ! そんなことをされたら、かえってこちらの出方が相手に悟られてしまう」


 カインが徒党を組んでオレを襲撃しようと知ったのは、レオがくれた忠告の手紙からだった。

 よもやカインの奴、レオがオレに襲撃計画を密告したなどと想像だにしていないだろう。

 逆を言えば、事前にこの情報を掴んだオレの方に分がある。カインに従いそうな奴を一人一人闇に葬ればいいのだから。


 第一、奴は近衛兵団長となり、忙しない日々を送っているはずだ。オレを襲おうにも、そう出来る状況にないだろう。

 この場合、カインの襲撃計画を知っているのを奴にバレる方がまずいことになる。


「つまり、お前はカインの側につくつもりはないと?」

「当たり前です!」

「そうか。それだけ確認できればそれでいい」


 オレは椅子から立ち上がった。これだけ情報を聞けば、もう十分だろう。


 今のアンナは隙だらけで、暗殺するのは容易い。話を聞いてみれば、アンナには大して非がないことが分かった。


 ただならぬ妖気を感じたから、オレを排除しただけ。実のところ、それは賢明な判断だ。なんたってこの身に大悪魔ルナがいるのだからな。


 しかし、そのことが逆に仇となる。


 ルナのただならぬ気配を察知しているコイツを放っておくわけにもいくまい。――逆に、ルナのことをどことなく感じているアンナは、かえって危険な存在。事と次第によっては、始末するしかないだろう。


 だが、ここはアルフォートの屋敷で、目撃者もいる。ここでアンナを害するのは得策ではない。


 それに、聖女であるアンナを殺してしまっては、強大な権力を持つ教会にも喧嘩を売ってしまうことになる。

 ハイランド王国と教会を同時に敵に回すのは、避けたいところだ。


「クリュッグ……あの……私の勘違いで貴方には本当に迷惑をかけてしまったわ。だって、今の貴方から、微塵も妖気など感じないのですから」


 そりゃそうだ。今、肝心のルナはどっかに行っているからな。


 そんなことを思いながらアンナを見ると、頬を赤らめ、もじもじとしていた。それこそ、恋する乙女のように。


「ね、ねぇ、クリュッグ今晩、久し振りに貴方のお家にお邪魔してもいいですか? 私は忙しない身だけれども、少しくらいなら時間も取れるし。それにチノちゃんにも会いたいなぁ」

「お前は何を言ってるんだ?」

「え?」

「オレからただならぬ妖気を感じなくなった途端、恋人ごっこじゃないだろうな? もうオレ達は過去に戻れない。お前とオレの間にあるのは、禍根だけなんだよ」

「そ、そうですよね。私の勘違いで貴方を追いやってしまった。でも、でも……」


 アンナの顔がみるみるうちに曇っていった。


「それにお前は、カインの情婦にでもなったんじゃないか? オレが城から追い出された時、奴とキスをしていただろ?」

「あ、あれは! カインが無理矢理私を抱き締めて。勿論、あの後カインを突き飛ばしたし、あの日以来、彼とは会っていません! 今度あんなことをされたら、いっそのこと舌を噛み切って自害します!」

「あ、そう。だが、もうそんなことはどうだっていいけどな」

「良くありません! あの件についても弁解をさせてください! それに、クリュッグ。カイン達と和解してください!」


 興奮しながら立ち上がったアンナを手で制した。


 コイツと恋人だった過去など、幻影だったんだ。つい、彼女だけは許してしまおうとなどと考えるな。思い出すんだ、あの城門の前での出来事を。カインとコイツが唇を重ね合わせた事実を。

 あの時のことを思い浮かべると、心が煮えくり返ってきた。

 それにコイツは聖女で、悪魔の気配には敏感だ。ある意味、一番の厄介者ともいえる存在。

 情に流されるな。現実を見んだ、クリュッグ。


 心を静めるため、大きく嘆息してからアンナを見遣る。


「大体、お前がオレの家に来たらまずいだろ。聖女が男と付き合うなんてご法度なはずだ。これが教会に知れてみろ。大スキャンダルになるだろーが」

「それはそうなのですけれども……でも、昔みたいに。クリュッグと私は、昔みたいになれないでしょうか?」

「何をムシのいいことを」


 オレは立ったまま、アンナに顔を近づけた。


「オレとお前は敵同士なんだよ。オレは全て許してやろうなんて、寛容な心を生憎と持ち合わせていねーしな」

「クリュッグ……貴方、どこか変わってしまったみたいです」

「そんなことはないさ。パーティーにいた時のオレが仮初めの姿だったんだよ。好青年のいい子ちゃんをしながら魔王を討伐するなんて、ガラじゃなかったんだ。やっぱりオレは、盗賊やアサシン稼業をしている方が性に合っている」

「そうではなくて……何か、貴方の心の陰を感じ取ってしまったの。気のせいならいいのだけれども……」

「そいつは例の禍々しい妖気ってやつか?」

「いいえ、そうではなくて……上手く言い表すことが出来ないのだけど……」


 アンナが俺の目を覗き込んでくる。


 胸が高鳴った。コイツ、聖女なだけあって、オレの中に大悪魔ルナが住んでいて、心が闇に侵食されているをことを何となく感じ取ったのかもしれない。

 バレたらことだ。さっさと話を切り上げ、ここから立ち去ろう。


「話はこれだけだ。じゃあな」


 オレは踵を返し、男爵家から去っていく。振り返りもせずに。


 仮に振り返ったとして、アンナはどんな顔をしているのだろうか。

 最早、そんなことはどうだっていい。


 オレは振り返らない。ただ前を見て、復讐の道を歩んでいくだけだ。


 そして、邪魔者は排除していく。

 たとえそれが昔の恋人だったしても。

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