聖女アンナ
感想欄で「アサシンなのに、復讐相手を殺さないのはおかしい」という意見を一杯頂きました。
私も「成程」と思い、復讐相手を殺害するか、暗殺するかのどちらかにしようと決断しました。
トレモロは殺して、その辺りは改稿しました。
また、ストック分も相手を殺害しています。
皆様の意見を反映させて頂きました。
ご意見ありがとうございます。
「クリュッグ、お久し振りぶりです。変わりがないようでなによりです」
階段を降りてくるアンナは、やけに神々しく見えた。それは純白の聖女の衣装に身を包んでいるからだけではない。聖女らしい優雅な立ち振る舞いで、そう見えたのかもしれない。
アンナ……再会した彼女は相変わらず美しかった。
金髪碧眼。二重瞼で少し垂れ目。いかにも人の良さそうな瞳を宿している。顔の彫は深く、鼻梁は高い。やや面長な輪郭をしており、目鼻立ちが整っている。
だが、それがどうしたというのだ。今のコイツは、恋人でもなんでもない。オレをパーティーから追放した憎きターゲットの一人だ。
「ああ、まぁな。そっちこそただの僧侶だったのに、聖女になるとは。えらく出世したもんじゃねーか」
嫌味を込めて口にした。
「おお! 聖女アンナ様とクリュッグさんは、知己の仲でしたか。それは偶然ですね」
アルフォートは嬉々としている。
「久々の再会に積もる話もあるでしょう。宜しければ、屋敷の庭にあるテラスでお話されてはどうですかな? メイドにお茶など運ばせますので」
アルフォートは良い提案をしたと自分で得心したのか、勝手に頷いている。
「いえ、オレはこれで失礼します。コイツとの間に積もる話などありませんから」
そのまま歩き出そうとすると、階段を下りてきたアンナに服の袖を掴まれた。
「ねぇ、クリュッグ。私は貴方と話がしたいの。ここは男爵様のありがたい提案にのることにしましょう?」
アンナは上目遣いでオレを見る。
怒り心頭だが、ここはアンナと話をして、色々な情報を聞き出した得策かもしれないと考え直した。
オレとアンナは、アルフォートに一礼して、玄関から出た。
庭を二人で歩いて行くと、東屋の中に純白のテーブルと椅子があったので、そこに落ち着くことにした。
だが、こうしてアンナと対面同士で座っているものの、どう話を切り出していいか分からない。
以前とは違う。パーティーの連中とキャンプを張り、オレの隣にアンナが座って、カップに入ったスープを飲みながら、お互い笑顔で和気あいあいと話をしてあの頃とは、もう違うんだ。
「オットーの街に来たのですから、クリュッグの家行って、会おうと思っていました」
アンナの方から声をかけてきた。
「フン、男爵の用事のついでか」
「いえ。それがなくても、いずれはこの街に来て、貴方に会おうと思っていました」
「それはそれは。お偉い聖女様自らがオレごときに会いに来てくれるなんて、光栄な話だ。だが、何故だ? お前はオレを裏切っただろうが? 何故、会いにこようとした?」
「貴方を始末しようとしたからです」
「何だと? 恋人だったお前がオレを殺しに来るつもりだったのか」
「ええ。ですが、こうして会って、思い留まりました」
「何故だ?」
「魔王を倒した前の日から、貴方から禍々しい気配したので。ただならぬ妖気を感じたからです。――それは人に害をなす非常に危険なものでした」
オレは舌打ちした。やっぱり、僧侶のコイツは、大悪魔ルナのただならぬ気配を感じ取っていたのか。それで、オレを始末しようと……
正面にいるアンナを睨む。すると彼女はにっこりと微笑んだ。
「ですが、どうやらそれは私の勘違いだったようです。それもそうですよね。クリュッグの優しさは、誰よりも私が一番よく知っているのですから。いくら危険な妖気を感じたからとはいえ、城で貴方を裏切ってしまって本当にごめんなさい」
アンナは素直に頭を垂れた。
「こうして貴方と会って、本当の――あの優しくて好青年のクリュッグなんだなって分かりました。勘違いと分かった以上、カインを説得したり、王にあれは誤りであったと進言します。だから許して、クリュッグ」
「いらねーな、そんな弁明なんざ。あのカインのクソ野郎と、今更和解する気などない」
「で、でも。トレモロさんを殺したのは、貴方ですよね?」
「ああ、そうだが。だとしたら、どうだっていうんだよ? 『裏切り者には死を』当たり前の話だろ?」
「もう止めてください! あの優しかったクリュッグが、かつての仲間たちとこれ以上争うのを、私は見たくありません!」
「今更、和解もなにもねぇ。復讐。その二文字しか、オレの心には残ってねーよ。下手に止めるなら、アンナ。お前も始末するしかないな」
「そ、そんな……」
アンナは顔が蒼白になる。
そこにカートを押したメイドがやって来た。カートの上にあるティーポットと二つのカップ、それに三段になったケーキスタンドをテーブルの上に置き、オレたちに会釈をして去っていった。
アンナがティーポットから紅茶を淹れ、オレの分と自分の分のカップをそれぞれのソーサーの上に置いた。
オレはカップを傾けながら、アンナに質した。
「恋人だったお前がどうしてオレを裏切った? やはり、オレからただならぬ妖気を感じたからか?」
「そうですね。それが一番の理由です」
「一番の? 他にも何かあるのか?」
「貴方はきっと王宮勤めなんて出来ないと思ったのです。結局は王に疎んじられ、酷い仕打ちをされると思ったから」
「まぁ確かにオレに王宮勤めやら、爵位なんか似合わないだろう。それが性に合わないのも分かっているよ」
やれやれと両手を上げた。
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