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邂逅

 この街の高級住宅街にある豪勢な屋敷に着いた。一人の門番に用件を伝え、中に通してもらう。庭は色とりどりの花で埋め尽くされていた。立派なガーデニングである。


 停車場には、セダンタイプの立派な馬車があった。その馬車の扉には、白百合の紋章の焼き印が押されていた。この紋章は、女神エレノアを信仰する教団が用いるものだ。

 きっと、この馬車に乗って、聖女様とやらがやって来たのだろう。


 エレノア教はこの大陸で一番の宗教団体であり、その権力は国をも動かすといわれている。

 まぁ、信心のないオレにはどうでもいい話なのだが。


 と、オレの身体の中からルナが這い出してきた。この感触、いつまで経っても慣れないな。正直、気持ち悪い。


「なんだよ、ルナ?」

「どうやらここに聖女がいるのは、本当らしいな。クリュッグがここにいる間、私はお暇するよ」

「魔王を倒したお前ですら、聖女は苦手か?」

「ああ、そうだな。この私ですら、聖女が放つ『ホーリー』の魔法を喰らえば、消滅してしまうやもしれぬ」

「ほぅ。それはいいことを聞いた。大悪魔様にも弱点があったとはな」

「だがな、クリュッグよ。いくら聖女を相手にするとはいえ、搦め手などいくらでもある。聖女といえど、人間だ。人間である以上、いくらかの業は背負っている」

「そこに漬け込んで、相手が動揺している隙に叩くってか?」

「そういうことだ」

「おお、おっかねぇこった」


 ルナに向かい大袈裟に両手を持ち上げ、降参のゼスチャーをした。そんな素振りを見ても、彼女は笑うこともせず、姿を消した。きっとインビジブルの魔法を使って透明化して、何処かへと飛んでいったのだろう。


 ここでルナのことを気にしてもしょうがない。

 停車場のすぐ近くに屋敷の玄関があったので、それをノックした。すると、中からメイドが出てきた。


「当家に御用でしょうか?」

「はい。主人のアルフォート男爵は御在宅でしょうか?」

「失礼ですが、貴方は?」

「主に相談屋のクリュッグと言ってもらえば分かります」

「分かりました。それでは、お入り下さいませ」


 メイドに促され、屋敷の中に入った。広い踊り場には、革張りのベンチシートがある。オレはそこに座り、アルフォートが来るのを待った。


 ものの一分ほどで、両手を広げたアルフォートが階段から降りてくる。


「おお、クリュッグさん。その布に覆われた物は……」

「はい、ご明察です。この館から盗まれた名画を取り戻してまいりました」

「おお、それはそれは!」


 布の包みを開け、絵画を見せる。

 アルフォート男爵は、その絵を見て何度も頷いていた。


「これです! この絵です! ああ、なんと神々しく、美しいのか。正に芸術品です!」

「お手元に戻ってなによりですね」


 オレは微笑んだ。間抜けな男爵は、これから毎日出来のいい贋作をうっとりと眺めることになる。

 その光景はさぞかし滑稽なのだろうな。


「そういえば、当家に聖女様が来ておられましてな。病になってしまった妻を診てくれているのです。妻の病気は重く、医者も匙を投げ、失礼ながら聖女様に治療の依頼をしたのですよ」

「はぁ、そうですか……」


 さも関心なさそうに返した。


「どうですかな、クリュッグさん。いい機会ですので、貴方も聖女様に会われてみては?」

「はは、ご冗談を。街でしがない相談屋をやっているオレなんかが会える方ではありません」


 実際のところ、言葉通りだ。エレノア教団は、法王を筆頭に、その他のお偉いさん方で構成されている。

 ただのシスターと違い、聖女ともなると法王直属の部下となる。その数は、この大陸でも5名程度だといわれている。つまり聖女とは、教団でもトップクラスの地位にいることになる。


 それに聖女なんて、冗談じゃない。オレは信心がないどころか、この身に大悪魔を宿しているのだからな。聖女と大悪魔なんて、対極な存在過ぎるぜ。

 まぁ、肝心のルナは、つい先程どっかに行ってしまったが。


「それでは、オレはこれで」


 男爵に一礼し、とっとと退散しようとした時だった。


「アルフォート男爵。私のヒールと解毒の呪文が効き、奥様は快方に向かっています」


 階段の上方から鈴の音のような声音。それも聞き覚えのある声だ。


 オレは目を見開いて、階段から降りてくる女性を見た。それは僧侶のアンナだったからだ。


 アンナ――彼女はオレの恋人だった。そして、オレを裏切ったパーティーの一員でもある。

 愛情と憎悪の感情が心の中のパレットでかき混ぜられ、禍々しい色となった。


 オレは憎しみのこもった目で階段を降りてくるアンナを睨んだ。

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