贋作
事務所に屯しているセリーヌの部屋に行った。彼女の部屋を開けると、ソファーの上にトドのように横になっている。
「ちょっといいか、セリーヌ?」
「ああ、どうぞ」
「お前ってさぁ、人探しとか出来る?」
「出来ない」
即答。こりゃ駄目だ。
「何、人探しの依頼入ってるの?」
「ああ、まぁな。もしかしたら、セリーヌに頼めたらと思ったんだが、駄目だったか」
「あたしは魔術師だからねー。やっぱ、そっち方面の仕事は盗賊の方が合っているんじゃないの?」
「まっ、それはそうなんだが。別件も入っているしなー」
「じゃあ助手を雇うしかないじゃん」
「その通りだな。ほんじゃ、色々な用件もあるし、ちと盗賊ギルドまで行ってくるわ。チノは教会で勉強している日でいないから、セリーヌに留守番を頼めるかな?」
「そのくらいお安い御用さ。いってらっしゃーい」
セリーヌはだらしなくソファーに横になりながら、手をひらひらと振った。
事務所を出て、その足で盗賊ギルドまで行ってみる。
ギルドに着くと、例によって奥からゲバラが出てきた。
「よう、兄弟。弓使いのトレモロが事故で亡くなったってな。だが、なんとなく察しはついているぜ。これはお前の仕業だろ?」
「ご名答だ。しかし、どうしてそのことを?」
「盗賊ギルドの情報網を甘く見てもらっちゃ困る」
「成程、そうだったな」
「で、今日は何の用だ?」
「ああ、その件なんだが。ウチのよろず相談事務所の仕事がそこそこ多くてな。オレ一人ではこなせない状態なんだ。出来れば助手が欲しい。心当たりはあるか?」
口にすると、ゲバラは首を横に振った。
「生憎と今のところ、紹介出来るような人材はいないな。まっ、その件は気に留めておいておくぜ」
「頼んだ。あてにしてるぜ」
「他に用はあるか?」
「ああ、あと一件。成り金貴族の屋敷から有名な絵画が盗まれて行方不明になっている。どうせ、盗賊ギルドに所属している奴がやったんだろ? バレバレだぜ」
ゲバラはニヤリと笑いながら奥に行き、額縁を携え戻ってきた。
その絵は、オレが貴族から依頼された「盗難された絵画」そのものであった。
「コイツをお前の依頼主の貴族に返してくれねーかな?」
「まぁいいが。しかし、価値がある本物をお前が素直に返す訳がない。つまりこれはよく出来た贋作ってことだな?」
「そういうことになるかな。コイツは出来がいいし、目が節穴の依頼主には本物に見えるだろうよ」
「やっぱ贋作だったか。こちらとしては口止め料さえ貰えればオーナーだ。どうせオリジナルは、裏オークションに高額でうっぱらったんだろ?」
「正解だ。で、お前への口止め料と、間抜けな男爵に贋作を渡してもらう手間賃だが、1000万ってとこでどうだ?」
ドケチのゲバラが口止め料を気前よく1000万も払うってことは、裏オークションでオリジナルの絵画は数億円で売れたのだろうな。だが、そこを追及しても野暮ってものだろし、今更オリジナルの絵画の行方を追う方が骨が折れる。
「それで手を打つぜ。依頼主の成り金貴族には、毎日贋作を眺めてもらうことにするよ」
「兄弟は話が早くて助かるぜ」
オレとゲバラは握手を交わした。お互い悪いやっちゃ。
「それじゃ、オレは行くぜ。この贋作を依頼主の貴族に渡さなきゃだしな」
「宜しく頼むぜ。ところで」
「ところで?」
「あの絵画の持ち主は、アルフォート男爵だったよな?」
「ああ、その通りだが。彼が絵画盗難された件の依頼主だが」
「なら、聖女様とやらに会えるかもしれねぇな。なんでもアルフォート男爵の妻の容態が悪いらしくて、それを治すために、わざわざ聖女を呼んだらしい。アルフォートが教会に大枚をはたいてな」
「そうなのか? だが、オレは聖女なんかに興味はない。男爵の依頼を実行できればそれで十分だ」
「そうか。まぁ、興味がなければ別にいいがな」
ゲバラは贋作を白地の布で包んで、オレに渡した。それを大事に抱え、盗賊ギルドを出て、そのまま依頼主の所に向かった。
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