Aクラスの魔法使い
「よ、ちょっとぶり。食堂であたしがバーボンを奢って以来か?」
「セリーヌか。どうした、困りごとの相談か?」
オレはセリーヌに視線を向ける。
「ちゃうちゃう。依頼でなくて」
「依頼じゃなければ、一体なんなんだよ?」
「冒険者ギルドで、アンタが人員募集してる張り紙を見てさ」
「ああ、確かにパーティーメンバーは募集している。って、お前まさか?」
「そう、その通り。あたしをパーティーに入れてくれないかな? こう見えてもあたしは冒険者ランクAの魔法使いなんだし」
「いや、ダメダメ。とっとと帰れ、セリーヌ」
「どうしてだよ? 張り紙には『Aクラス以上の冒険者募集』って書いてあったぞ」
納得がいかないのか、セリーヌは口を尖らせた。
「今回の仕事……オレのパーティーメンバーになるのは、非常に危険なんだよ。相手のパーティーとやり合って、死ぬ可能性もあるしな。だから、いくら腕が立つ奴でも、顔見知りは遠慮するつもりだったんだよ」
「おう! 命懸けの冒険、どんとこいだ」
セリーヌはどんと胸を叩いた。
しかしなぁ。相手はあのクソ勇者カインだ。奴が本気を出せば、巻き添えでオレのツレに死人が出る恐れもある。だからこそ、この街の顔見知りや友達を仲間にはしたくなかったのだが。
そこではたと思い付いた。真実を語れば、セリーヌの奴も尻尾を巻いて帰っていくだろう。
「セリーヌ。これは極秘情報なのだが……」
「お、おう」
「オレ達がパーティーを組んだとして、立ち向かう相手はあの勇者カインだ。命懸けの勝負になる。そこいらのゴブリンなんぞを相手にするのとは訳が違うんだよ」
「ゆ、勇者が相手だって!?」
「そうだ。だから、とっとと手を引いた方が……」
「面白い。面白いじゃないのよ。勇者が相手なら、極大魔法を遠慮なくぶっ放してもいいってものじゃない!」
セリーヌは嬉々としている。いや、だからさ……
「そうは言っても、Aクラスの魔法使いは使えるんじゃないのー、クリュッグ」
「ま、まぁな。カインに極大魔法を直撃させれば、さすがの奴も死なないまでも、大いに怯むだろうからな。正直、戦力になる」
「なら決まり。あたしとアンタの仲だ。きっといいパーティーが出来るよ」
セリーヌが手を伸ばしてくる。
迷った末、オレは彼女の手を握ってしまった。契約成立だ。
顔見知りや友達は避けたかったが、正直Aクラスの魔法使いがいると、大いに助かるのは事実だ。
「これからよろしくなー。それにしても、月給50万とは気前いいぜ、へへへ」
セリーヌは小鼻を擦った。
オレは今更ながら彼女の顔を見詰めた。燃えるような赤髪をしており、二重瞼で少し垂れ目。やや面長な輪郭。彫は深く、鼻梁が高い。
にこりと笑うセリーヌは、ある人物にどことなく似ているように思えた。
「なぁ、お前さ。ひょっとして、僧侶のアンナって知ってる?」
「僧侶のアンナ? 誰だそれ?」
「あ、いや。知らないんならそれでいいんだよ、うん」
「ん? なんか変なの」
セリーヌは訝し気な顔をして、オレを見た。
うーん……やっぱりセリーヌはアンナにちょっと似ているような気がする。なんとなく目元が似ているんだよな。けど、アンナとは髪の毛の色が違うし。
まぁ、気にし過ぎなのかもな。似たような顔は、世の中に三つあるっていうしな。
取り敢えず、客間の隣が空き部屋だったので、セリーヌにその部屋を宛がった。殺風景な部屋なので、ソファーにテーブルくらいは新調してみるか。
家具を調達しようと外に出た。
近所をぶらぶらと歩いているうち、オレはあることに気付いた。
何も相手の集団が押しかけてくるのを待つ必要はない。こちらから仕掛け、カインに付きそうな奴を一人ずつ始末していけばいいんだ。
とはいえ今のオレの装備品では、レオ、勇者の装備を持っているカイン、一級品の装備を身に纏っている女騎士マリーにダメージを与えることは出来ない。
そうなると、防御力がどうしても低くなる魔法使いと僧侶がターゲットになるな。まずは、この二人のうちのどちらを標的に……
そう思案しながら、未舗装の道を歩いて行った。多分、その時のオレの顔には黒く歪んだ笑みが浮かんでいただろう。
元の仲間を始末するのに、笑顔すら浮かべている。
大悪魔ルナが好みそうな薄汚れた魂を持つ人間になり果てたものだ。
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