置手紙
チノに食事を奮発し、家に帰ってくると、玄関先に手紙が置かれていた。裏面を見ると、レオの署名があった。
「どうしたのですか?」
「ん、いや。なんでもないよ、チノ」
オレはポケットの中に手紙を押し込んだ。
そして、玄関の鍵を開け、二人で中に入る。
リビングでソファーに座りながら、チノと少し談笑していると、彼女がファーと口を開けた。
「眠くなったのか?」
「うん。腹が満ちると、眠くなるのは自然なことなのです」
「じゃあ、今夜はもう寝ようか」
チノの手を引き、廊下を歩いて行く。彼女は「おやすみなさい」と言い残し、自分の部屋に入った。
オレは自室に戻ってから、ペーパーナイフで手紙の封を切った。手紙はレオの筆跡で書かれている。
よぉ、クリュッグ。一応、伝えたいことがあってこうしてペンを執った。
カインの奴、徒党を組んでお前を討ちに行くことを目論んでいるようだ。
カインは、自分より実力がある奴を憎んでしまう性分があるみたいだからな。
実際はクリュッグが、スカル将軍と魔王にトドメを刺した。どうやらそのことも気に入らないみたいだ。
カインは近衛兵団長になった。王宮勤めなのだから、迂闊に動くことは出来ないだろうが、いずれにせよ、用心しておくことだ。
精々、気をつけるこったな。
レオ
手紙を読み終え、多少なりとも衝撃が走った。
こうして改めて文面を見ると衝撃を受けるが、その辺りの対策は予め考えてはいた。
これから引越しをし、居場所を特定させない。
こちらも実力のある使い手を雇い入れる。
この2つだ。最早、それは喫緊の課題となった。早く実行せねばな……
勇者パーティーは、冒険者ランクCクラスだったトレモロを除いて、猛者揃い。
それはそうだ。弱者が強力な魔王に挑むことなど出来ないのだから。
オレはSRクラスで、あとの5人はSSクラス。だが、レベル差が大きいわけではない。オレのレベルが300で、他の連中のレベルは290以上ある。こうなると力量にほぼ差はない。
カインと徒党を組んで、オレを討とうとする奴は……
まず、魔法使いのキュアと女騎士のマリーだろう。マリーはカインと恋仲で、キュアはカインに片思いをしているからな。
この3人で急襲されてはマズい。
だが、カインは近衛兵団長で忙しない日々を送っているとの情報を盗賊ギルドの長であるゲバラから得ている。しかし、油断は禁物だ。
なにせここの自宅が奴等に割れているのだから、なるべく早くに引っ越しをせねばならないだろう。
あとのメンバーでは……レオは、今日の一件からしても、カインと組むことはないだろう。もし、レオがオレを討つとしたら、一対一の勝負を望むだろうからな。
僧侶のアンナは多分、カインとは組まないだろう。しかし、彼女は一体どこで何をしているんだろうか。
だが、彼女もオレをパーティーから追放した一人だ。アンナと恋人だった過去なんか忘れなければいけない。彼女と過ごした砂糖のように甘ったるい時間など、なかったんだ。あれは過去の幻影だったんだ。
「カイン達がオレを討ちに来るか……」
ふっと口の端を上げた。かつての仲間にそこまでするのかよ。それほどまでにオレの存在自体を抹殺したいのか、アイツは。ここまで来ると、最早笑い話だぜ。
だが、奴等が来た時のため、用心を重ねるには越したことはない。
元から考えていた策をカインの襲撃に備え、せねばいけないな。
引っ越しするのは勿論のこと、こちらも相応の力を持った者を集め、パーティーを作らなければならないだろう。
そうするためには、冒険者ギルドに行き、人員の募集をしなければならないな。
オレは顎に手を当て、唸りつつ、ベッドの中に潜り込んだ。
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