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やはり敵だ

「本題に入ってくれると手っ取り早い」

「なぁ、クリュッグよ。トレモロをやったのはお前だろ?」

「そうだ」


 ここで誤魔化してもレオには通用しないと判断し、あっさりと認める。


「やっぱそうか。なぁ、クリュッグ。単刀直入に言うが、オイラ達を付け狙うのはやめてくれねーかな?」

「そいつは無理な相談だ。『裏切り者には死を』って言葉があるぐらいだしな。それは『アサシン』の信条でもある。王城でお前達がオレにどんな仕打ちをしたか思い出すがいい」

「あの時は……ああするより仕方がなかった。城に入る前に王からの使いが来てな。事前にそいつから『6人だけに褒美と爵位を用意する』と言われてな」


 ああ、あの時のことかと思い出す。あれは魔王を討伐し、ノイック村を出てから、王の使いがやって来たんだ。

 あの時、カインはオレだけをノイック村に行かせて、不在になったところで、6人だけで王の使いと密談したんだな。


 そのようなことを思い浮かべてから、言葉を発する。


「しかし、あの時、王はオレに地位を与えようとしていたが……」

「それは王とパーティー皆の演技だよ」

「演技?」

「本来ならば、救国の英雄であるお前にも、相応の地位を与えなければおかしいだろ? だが、あの時はハイランド王国には爵位とそれに相応しい役職が6人分だけしかなかったんだ。そこで、王の使いにカインが伝えた。『僕達が難癖をつけ、クリュッグという者を切り捨てるので、王もそれにのったかのような演技をしてください』ってな」

「成程。あの城での出来事は、カイン達と王が事前に打ち合わせをしていたってことだったのか」

「その通りだ。王は本当に出自を気にする方だからな。貧民窟出身のお前を槍玉に仕立てやすかったんだ」


 なんてことなのだと頭を振った。

 つまり、あの城でやり取りは、全て茶番だった訳か。それもパーティーの皆と、王に仕組まれた茶番劇。

 そんなものにオレは付き合わされたわけだ。


 怒りに燃えた目でレオを見据え、話の続きを再開した。


「それでオレを切り捨てる算段をしたってわけか?」

「そういうことになるな」

「それはますます酷い話だ。王からの褒美欲しさに、オレをパーティーから追放したのかよ?」

「有り体に言えばそうだ」

「信じていたのに……パーティーの皆を真の仲間だと思い込んでいたのに……」


 項垂れてしまった。オレをパーティーから追放したのは、そんな下らない理由からだったのか。


「オイラには、妻も息子もいる。年老いた両親も。貧乏な格闘家だったオイラが生きていくため、爵位と褒美はそりゃあ魅力的だった。お前には悪いことをしたと思っているが、あの場はああするしかなかったんだよ」

「ハン! さぞかし立派なことをしてくれたもんだぜ。堂々と裏切ってくれるなんてな! しかも城での出来事が茶番だったなんて、相当コケにしてくれたもんだな!」

「それについては、頭を下げるしかねぇ。どうかオイラ達を許してくれか? この通りだ、頼む」


 レオは深々と頭を下げた。


「……まぁ確かに、オレに貴族なんか向いてないし、王宮勤めとかも堅苦しくて性に合わなかっただろう。だが、王とお前等がオレを裏切った事実は消えない」

「そこをどうにか堪えてくれねぇか?」

「到底お前達を許す気になれない」

「なぁ、頼むよ。オイラはお前が大金を持っていることも王には密告しねぇからさ」


 そういえば、酒の席でレオにだけ、オレが大金を持っていることをついうっかり口を滑らせてしまったときがあったな。


 しかし、それのどこに問題があるのかと疑問に思う。

 その考えが顔に出たのか、レオは付け加えた。


「ハイリッヒ王はな。少しでも気に食わない奴は、徹底的に叩く。相手が破滅するまでな。少なくとも、お前は王に気に入られちゃいねぇ。貧民窟の出身だというだけで毛嫌いするからな。そうして、王の気に障ると、きっと奴はお前の財産を没収してくるだろう。そしたら、お前は無一文の素寒貧さ」

「おお、おっかねぇ。だったら、そうなる前に金を銀行からおろして、国外逃亡するしかねーな」

「まぁ、そうだな」


 財産まで没収されかねないとは、痛い所を突かれしまった。


 しかし、なんと狭量な王なのだろうか。少しでも気に入らない奴は、政敵でも一般人でも容赦をしないのだから。

 やはり奴は王にふさわしくない器のようだ。いずれ、奴にも鉄槌を下さねばなるまい。


「だが、それでもオレはお前等を許せない。例え、オレが無一文になろうがな」

「だから、そこをどうにか頼むよ」


 レオは椅子から立ち上がり、床に両膝をつけた。そして、床に頭を擦り付け土下座をした。

 あの獅子王と名高いレオが、プライドを捨てこうまでしてくれている。

 不覚にもそれに心が動いてしまった。


 それでも、オレを追放したコイツ等は絶対に許すことは出来ない。


「頭を上げてくれ、レオ」

「そ、それじゃあ!?」

「いや、駄目だ。結局のところ、オレの答えはノーしかない。いくら土下座をされようが、到底お前達を許すことなどできそうにない」

「交渉決裂か……なぁ、クリュッグ。どうしても譲ることは出来ねぇか?」

「無理な相談だな。あの時、王城で味わった屈辱を消し去ることなど出来ない。いくら、レオが土下座をしようともな」

「そうか……それじゃあ、しょうがねーな。オイラ達とお前、とことんやり合うしかねーみたいだ」

「ああ」


 互いの視線がぶつかった。そこから激しく火花が散った。

 目の前にいるレオも、パーティーの連中もやはり敵だ。

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