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大悪魔召喚

「おやすみなさい、クリュッグ」

「ああ、おやすみアンナ」


 そう言ってから、目を閉じた。だが、オレは眠れなかった。どうも大悪魔ルナのことが頭から離れなかったからだ。


 ルナがいれば、大きな戦力になる。そうすれば、明日の魔王との戦いで、ここにいる誰もが傷一つ負わなくて済むかもしれない。


 オレは上半身を起こした。

 皆、寝静まったのだろうか、寝息を立てていた。

 オレは親友の勇者カインや恋人のアンナを見遣る。


 二人だけではない。格闘家のレオは、父親のような存在だし、弓使いのトレモロは兄のようだ。

 魔法使いのキュアと女騎士のマリーも、オレの親友だ。


 どうしても、コイツ等は無事でいて欲しい。ここまで来て、誰かが魔王との戦いで命を落とすなんてのは、ご免だ。そんなの冗談にもならなし、万一そうなったら耐えられない。

 ここにいる皆が真の仲間なのだから。


 皆を守る為なら、オレの魂くらい悪魔にだろうがくれてやる。


 そう思い立ち、寝袋から出た。

 僅かばかり月明かりが出ている。それを頼りに、例の本の頁を捲っていく。

 オレは夜目が利くので、僅かな灯りでも本を読むことが出来た。


 そして、悪魔を召喚する呪文が書かれている頁で、指を止めた。

 皆を起こさないよう、オレは結界が引かれている線に立ち距離を取った。そうしてから、古代語で書かれた呪文を小声で唱え始めた。


 全ての呪文を唱え終えると、いつの間にか月をバックに人型が中空に立っていた。

 逆光で顔は良く見えないが、蝙蝠のような羽が生えていたので、あれが悪魔だと直感する。

 俄かには信じ難い光景。

 だが、どうやらオレは悪魔召喚に成功したようだ。


 宙を切り裂き、悪魔が滑空し、オレの目の前で止まった。そうして、悪魔はゆっくりと地面に降り立った。


 これが大悪魔ルナか。何とも言われぬ色香を放っている。それに、物凄く美形だ。

 睫毛が影を落とすほど長く、なんとも怪しげだが、形のいい目をしている。高い鼻梁の下に、桃色の艶めかしい唇があった。


 そんな彼女から禍々しく恐ろしい空気を感じ取った。彼女が美形なだけに、余計にそう感じてしまう。美人とはときに、氷のように冷たい物に映ってしまうものだ。


「私を呼び出したのはお前か?」

 ルナは囁くような小声で喋った。


「ああ、オレだ。大悪魔ルナよ、魔王討伐に力を貸して欲しい」

「貸してやらぬこともない……魔王は、我が悪魔軍にとっても目障りだからな。が、成功したあかつきには、その代償にお前の魂を頂くがいいのか?」

「構わない」


 キッとルナの目を覗き込んだ。


「よし、約束したぞ」


 ルナは妖艶な笑みを浮かべると、ずぶずぶとオレの体の中に入り込んでいった。


 なんてことなんだ!


 体の中に何かが侵入し、心が浸食されていく感覚がした。

 多分、オレの魂――いや、心の中に悪魔がとり憑いてしまったのだろう。こうなればもう後戻りは出来ない。


「クリュッグ? まだ寝ていなかったのですか?」


 後ろからアンナの声。オレは振り返り、彼女を見た。


「ああ、ちょっと寝付けなくてな。なんたって、明日で全てが決まるのだから。オレ達が勝つのか、はたまた魔王が勝ってオレ達が……」

「そんなことを考えては駄目です」

「そ、そうだな。ところで、アンナ。お前の方こそまだ寝ていなかったのか?」

「寝ていたのですが、どうにも強大な力の波動を……それも禍々しい力を感じて。それで目を覚ましてしまったのです」

「それはそうだろう。魔王の放つ気は絶大だ。禍々しいものを感じて当たり前。特に、ハイプリーストのアンナなら、邪気を察知する力が強いんじゃないか?」

「確かに、魔王と思われる邪気は遠くから感じます。しかし、より身近に、しかも魔王よりおぞましい気配を感じたのです」

「気のせいだろ? 決戦を前に気が昂っているんじゃないか?」

「そうだといいのですが……」

「きっとそうだよ」


 オレはルナを召喚したことを悟られぬよう、作り笑いをした。


「そうかもしれませんね」


 オレの笑顔を見て安心したのか、アンナはそう言った。

 それから手を繋ぎ、寝袋がある所まで戻っていった。


「さぁもう寝よう、アンナ」

「なんだか急に不安になってきて。眠れそうにありません……」

「どうしたら眠れそうだ?」

「貴方の口付けが一番良い薬になるのかも……」


 そう口にして、アンナは頬を赤く染めた。


 オレはアンナに唇を近づける。

 軽いキスを交わし、唇を離した。


「……これで心が落ち着いた気がします。どうやら安眠出来そうです」

「それはなにより。それじゃあ、おやすみ、アンナ」

「おやすみなさい」

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