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がらの悪い食堂

 夜になり、馴染みの酒場兼食堂に行った。まぁ、お世辞にもお上品なお店とは言い難い。あちらの席では、荒くれ者同士が喧嘩をおっぱじめて、酒瓶が舞ったりしてるし。

 こんな場所だが、チノを連れてきたのはここで飯をご馳走しようと思ったからだ。

 お上品な料理を出すわけではないが、出される料理の味は格別だ。


「よぉ、クリュッグ。暫く見なかったな。元気してたか?」

「ぼちぼちといったところかな」

 顔見知りのカルダスが挨拶してきたので、そう返した。彼はビール瓶片手にカウンターの奥の席に腰を落ち着けた。


「よぉ、クリュッグ。アンタ、ドジったんだって? にしし」


 知り合いのセリーヌがオレを見かけるなり声をかけてきた。そして、許可もしていないのに、オレ達が陣取るテーブルの椅子にどかりと座った。


「ああ、まぁな」

「しかし、勇者パーティーから追放された上、王にまで不興を買うとは、さすがにまずいんじゃね?」

「分かっている。だが、この街にいて、王都に顔を出さない分には、然程問題もないだろう」

「そうかー、成程。まぁ、駆け付けの一杯。飲んで飲んで」


 セリーヌがバーボンのボトルをテーブルの上にドンと置く。

 オレはボトルを傾け、手酌でバーボンを注ぎ、セリーヌと乾杯をする。


「まぁ、アンタが無事でなにより」


 セリーヌはこちらに視線を向ける。

 彼女の目は、ぱっちりと大きく二重瞼でなかなかに愛嬌がある。綺麗か可愛いかで分類するのなら、可愛い系の女子だろう。

 そして、なにより目立つのは燃えるような赤髪で、それを短めにまとめていてボーイッシュな雰囲気を醸し出している。


「ああ。かえって気を遣わせてもらって悪かったな」

「そうだぜ、クリュッグ。一応は、俺様もお前のことを心配していたんだぞ」


 オレのテーブルの後ろに座るゴツイ身体をしたノイックも声をかけてきた。

 オレは体を半身にして振り返り、後ろにいるノイックの方を向いた。


「ああ。心配してくれてありがとうな。でも、オレは大丈夫だから」


 ノイックと固い握手をした。


 それからも顔見知りがからかい半分、心配半分でオレに声をかけてくる。

 この街で生まれ育ったオレの顔見知りばかりだ。コイツ等とは仲間だったり友達だったりする。


 だが、「真の仲間」、「親友」と思えたのは、皮肉なことに勇者パーティーの皆だった。この街の友達たちより、より深い感情を奴等に抱いてしまったのは、手痛い事実だ。


 パーティーの皆は、新入りのオレを優しく迎えてくれた。

 パーティーに馴染んだ頃、色々な相談ごとにも、愚痴にも付き合ってくれた。皆でバカをやったり、下らない笑い話もしたりした。


 それがオレの力を利用する為の偽りの友情ごっこだとは、微塵も思わなかったが。

 まぁ、嘘の友情に騙されたオレが、馬鹿を見るのは必然だったってことだ。


 注文した料理が次々にテーブルに運ばれてくる。

 隣に座るチノはカルパッチョや、ステーキを目の当たりにして目を輝かせていた。


 熱した鉄板の上に置かれたステーキからは、肉の焼ける音がし、より香ばしい匂いが漂ってくる。

 銀鮭とホタテのカルパッチョの皿に盛られたサーモンのピンク色は、見た目にも鮮やかで、とても旨そうだと見た目だけで察することができた。


「いただきまーす」


 チノはそう口にして、フォークでカルパッチョのサーモンを刺した。


「たんまり食えよ、チノ」

「言われなくても……はぐはぐ。食べ尽くしてやるのです。はぐはぐ」

「ハハ。チノは相変わらず食い意地が張ってやがるな」


 セリーヌが手を伸ばし、チノの頭を撫でようしたのだが、料理を取られると勘違いしたチノは「ぐるるるー」と猛犬のように唸った。

 まぁ、その気持ちも分からないでもないがな。孤児院では、配給される食糧が少なく、子供達で食料の取り合いになることが多かったから。


 チノが料理を平らげると、オレは席を立った。


「それじゃ行くか、チノ」

「はいなのです」

「なんだよー。久々に顔を合わせたのだから、もっと付き合えよー」


 セリーヌが絡んでくる。


「いや、今日はチノを連れてから。また今度な」

「まぁ、それもそうか。そんじゃあまたな、クリュッグ」

「ああ、それじゃあ。バーボン旨かったぜ、ご馳走さま」


 オレとチノはレジまで行き、会計を済ませ外に出た。

 夜道に手を繋いだ二人の影が伸びる。

 そのままゆっくりと家まで歩いて帰った。

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