標的とナイフ
一方のオレは、自分の部屋に戻り、机に置いてあったアルバムとスクラップブックを漁った。
まずはパーティーメンバーの顔写真。
これは<念写>のスキルを持つ魔法使いのキュアが残していったものだ。
この国にある写真とは、紙に念写した物を差している。逆を返せば、写真を作成出来るのは<念写>のスキルを持つ者にしか出来ない芸当だ。
メンバー全員の写真をアルバムから抜き取る。
まずは、勇者のカイン。それと、カインと恋仲の女騎士のマリーに、格闘家のレオ。この三人とオレがパーティーの前衛を務めていた。
あとは、後衛のメンバー。
弓使いのトレモロ、カインに片思いをしている魔法使いのキュア、僧侶のアンナ。
アンナか……オレと彼女は恋人同士だったから、よくカインやレオに冷やかされたものだ。
アンナ自身も僧侶らしく、自分の信じる正しい道を歩んでいたと思ったんだが……
オレはパーティー全員の顔写真を見て、拳を握り込んだ。その手はわなわなと震えている。
そしてスクラップブックから、新聞の切り抜きを抜き取る。
そこには「ハイリッヒ新国王即位」との見出しの下にハイリッヒ王の写真が掲載されていた。
どいつもこいつもオレを蔑みやがって。罠にまでかけやがって。
こいつ等は、決して許されるべきではない。許されざる者達だ。
「クリュッグ、言われた通り投げナイフを持ってきたよ」
チノが腰に巻くホルスターに収められたナイフを持って来てくれた。
ホルスターをチノから受け取り、そのうちの一本を取り出した。
まずはカイン。お前だ!
カインの顔写真にナイフ突き立て、壁に向かって放る。写真を串刺しにしたナイフは壁に刺さった。
次に女騎士のマリー、それと格闘家のレオの写真にもナイフを刺し、同じく壁に投げる。
弓使いのトレモロも、僧侶のアンナも、魔法使いのキュアも、ハイリッヒ王も同様にした。
結果、七枚の顔写真がピンで止めたように横一列に壁に刺さっている。もっとも、それはピンで止めたのではなく、ナイフが刺さっているのだが。
「なっ! 一体どうしたのですか、クリュッグ!」
チノが驚きの声を上げる。
「こいつ等が、オレを裏切った。薄汚い裏切り者共だ。許されざる者なんだ。オレは全員に復讐してやろうと思う。どうだ、チノ?」
問うと、チノの体が震えていた。
年端のいかない少女の前でやり過ぎてしまったか? 彼女を怖がらせてしまっただろうか。
が、そんな心配は無用だった。次の瞬間、チノは親指を立てていた。
「それはナイスアイディアなのですよ。チノも全力でサポートさせてもらいます」
「そうか……そう言ってもらえるとありがたいよ」
小さな仲間を得て、ようやく一安心出来た。こんなオレにも、まだ仲間はいてくれたんだ。
「これかもよろしく頼むぜ」
オレは拳を前に突き出す。
「こちらこそなのです」
チノも拳を出した。
お互いの拳が当たる。グータッチだ。
こうして小さな仲間を得たが、さてこれからどうするか……
パーティーメンバーの実力は確かだ。冒険者ランクはSRクラスのオレが勝るとはいえ、下手をしたら、こちらがやられてしまう可能性もある。
それに、単なる市井の人であるオレが、どうやって王に一泡吹かせるというのだ。
突き付けられた難問に、思わず眉根を寄せてしまう。
だが、それでも。やめる気などさらさらなかった。
獲物は手強いほどいい。
それは盗賊や暗殺稼業をしていた時から変わっていない。
強い敵ほど燃えてくるなんて、我ながら難儀な性分だと自覚している。多分、これはオレの悪癖なのだろう。
「それでは、チノはキッチンに行って、朝ご飯作ってくるのです。クリュッグもお腹がすいたのではないですか?」
「ああ、腹減った。昨日の昼から何も食べていないからな」
「それじゃあ、少ししたらクリュッグもキッチンに来てください」
「ああ、分かった」
チノはオレの返事を聞き、部屋から出て行った。
それと同時に、ルナがオレの体の中から這いずって出てきた。
「ああ、素敵だわ」
「何がだよ?」
「こうしてかつての友の写真にナイフを突き立てる。お前の復讐心はよほど燃えているのだな」
オレは肯定も否定もしなかった。
「フッ、クリュッグが語らずとも、私にはお前の心が分かる。それこそ手に取るようにな」
「じゃあ、言ってもらうか。今のオレの心がどんなふうになっているかを」
「燃えている。燃え盛っている。親友だと思っていた仲間から裏切られ、お前の復讐心が燃え滾っているぞ。それは憎しみ――負の感情だ。ああ、お前の心はなんと汚れているのだ。その心こそが、我への最高の贄になる」
「そうかよ。ソイツは良かったな」
「業の深いお前は、死んだら地獄行きだな。それともそのまま罪を重ねたら、悪魔そのものになるやもしれん」
地獄か悪魔ときたもんだ。へっ。上等じゃねぇかよ。
オレは薄く笑いながら、ルナを見た。
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