真の仲間とのキャンプ
「いよいよ明日は魔王との決戦だな」
「ああ」
「ここまで来たら絶対に勝とうぜ、クリュッグ」
「勿論だ、カイン」
オレと勇者カインはがっちりと手を組んだ。
ここは魔王が住む山麓の八分目といった所だろうか。
そこに魔除けのテントを組み、念を入れて僧侶のアンナが、モンスターが近づかないよう結界の術式が込められた六芒星を地面に描いた。
「しかし、昨日は魔王軍のスカル将軍によくトドメを刺してくれたな、クリュッグ」
このパーティーでの兄貴分――いや、齢からいって親父にあたりそうな格闘家のレオのオヤジがオレを見遣った。
「いや、あれは皆の援護射撃があったからこそだよ。皆がスカルの攻撃を受け止め、機を見て攻撃してくれたからこそ、奴が怯んだ。その隙を付いて、ようやく奴の急所を突くことが出来たんだ」
アサシンのオレは<急所突き>という必殺のスキルを持っている。そのスキルを用いて、どうにかスカルを倒すことが出来た。
スカルは名前の通り、骸骨のモンスターだった。だが、その体躯は30mほどもある巨大な化け物で、双刀使いの手強い奴であった。
「ああ、あれはお手柄だったぞ。やっぱり僕がお前をこのパーティーに誘ったのは正解だったな」
カインがオレの肩に手を置いた。
「あの、ありがとうな、カイン」
「何がだよ?」
「盗賊稼業をして燻っていたオレをこのパーティーに入れてくれて、本当に感謝しているよ」
「フッ。クリュッグほどの逸材、スカウトしない手はないだろ」
そう口にして、カインは焚き火に木の枝をくべた。
パーティーメンバー6人の顔を見ると、皆が笑顔で談笑していた。
オレは、かけがえのない真の仲間に囲まれ、幸福感に浸る。
このパーティーに来て、息を合わせて戦っているうちに、皆のことを真の仲間と思うようになった。
このメンバーは、最高だ。皆、良き親友だよ。
結界の中、テントを張って、皆で焚き火にあたる。
明日、いよいよあの魔王との決戦だというのに、緊張するどころか、にこやかな顔になる。
それもこれも皆がいてくれるからだ。
共に焚き火を囲み、焙った肉を食し、温かいスープを飲んでいる。こうしていると、かけがえのない親友たちとキャンプにでも来たような気分になる。
勇者カインが率いるこのパーティーには、7人の猛者がいた。
前衛は、アサシンのオレに、勇者カイン、格闘家のレオに、女騎士マリー。
後衛は、弓使いのトレモロ、僧侶のアンナ、魔法使いのキュアだ。
大所帯のパーティーではあるが、これくらいの戦力がないと、あの魔王に立ち向かうことは出来ない。
飯を食った後、僧侶のアンナがお茶を振る舞ってくれた。
「はい、どうぞ。クリュッグ」
「お、ありがとうな、アンナ」
オレはアンナからお茶の入ったカップを右手で受け取った。そして、隣に座る彼女の手を左手で握った。
「お、アンナとクリュッグの奴、手なんか握り合ったりしちゃって。全くやけるねぇ」
女騎士のマリーが口にすると、皆がオレ達を「よっ、熱いね」とか「ナイスカップル」と冷やかし始めた。
照れたオレは頬を掻いた。そうしてから、アンナを見る。彼女とは、このパーティーに来てから出会い、その内に、ぎこちなく付き合い始めた。今では大切な恋人だ。
しかし、こうして皆からからかわれていては、たまったものじゃない。
場を誤魔化すように、オレは冒険者のリュックから一冊の本を取り出し、それに目を通した。
「どうしたんだ、その本? やけに古そうな書物だが?」
弓使いのトレモロが尋ねてくる。
「ああ、これ。スカル将軍の部屋にあったものを失敬してきたんだ」
「ちょっと貸してくれない?」
魔法使いのキュアが手を伸ばしてきたので、彼女に本を手渡した。
「どうやらこれは魔術書みたいだけれど……古代語で書かれているから私には分からないわ」
キュアは頁を捲ったものの、すぐにそれを閉じて、本を返してきた。
「オレ、古代語を読めるよ」
「へぇ、クリュッグがねぇ。なんだか意外。盗賊とアサシンの職に就いていたなら、古代語なんかに縁がなさそうだけれども」
「いや、それがさ。トレジャー・ダンジョンに入るのに、古代語で書かれた封印を解かなきゃいけなかったんだ。だから、必死に勉強して覚えた」
「そうなんだ。で、その本に何が書いてあるの?」
「悪魔召喚について……みたいだな。どうやら、ルナという大悪魔を召喚する呪文が書かれているっぽい」
「大悪魔ルナ!? 悪魔でも3柱と呼ばれているベルゼブブとサキュバスの娘のルナのこと!?」
キュアは目を丸くしている。
「ルナって強いのか?」
「強いなんてものじゃ……下手したら、魔王と同等かそれ以上の力を持つのよ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、ソイツを召喚したらいいじゃんか。そうしたら大きな戦力になるぞ」
頷いてそう言葉にすると、アンナが強張った顔をしながら、服の袖にしがみついてきた。
「それはいけないわ。お願いだから、それだけは止めて!」
「どうしたんだよ、アンナ?」
「悪魔を召喚するということは、召喚者の魂を悪魔に捧げなければいけないの」
オレは訝しげな顔をしながら、再び本を捲った。
「成程、確かにそう書かれているみたいだな」
「そうでしょ。だからそんなこと辞めて! そうしたらクリュッグが! 大切な貴方が!」
アンナが必死に止めてきたので、彼女の頭を撫で、落ち着かせた。
「そんなことはしないよ」
「本当に?」
「ああ、本当だとも」
強く頷いてみせると、アンナは安堵しただろうか胸を撫で下ろしていた。
「大悪魔がいたら大きな戦力になるが……自らの魂を捧げなきゃいけないとか、話になりませんね」
トレモロが頭を振った。
「ああ、まったくだ。いまさらそんな悪魔の力に頼らなくても、オイラ達の力で魔王を倒そうぜ。それが男の心意気ってもんよ」
「あら、レオのオヤジさん。あたしは女なんですけど? 女じゃ戦力にならないって言いたいの?」
マリーが物言いをつけると、レオのオヤジが「い、いや。そうじゃなくてよぅ」と、たじたじになった。
そのやり取りを見て、皆がどっと笑った。
「さぁ、皆。いよいよ明日は魔王との決戦だ。お喋りはここまでにして、そろそろ寝ようぜ」
カインが立ち上がって、手を叩いた。
皆はその意見に賛同し、焚き火の火を消してからそれぞれの寝袋に入った。
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