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第9話:時間との戦い

 征二は古谷のもとに電話をかけた。携帯電話を持つ手はかすかに震えていた。

『はい。古谷です』

『住崎家の執事の斎藤征二です。お世話になっております』

『どうも。私の方からもお電話をしようと思っていたところです。何か事件に関してお気づきになったことがありますでしょうか?』

『つ、つい先程まで住崎製薬の応接室でキラーゼロと、キラーゼロに旦那様と奥様の殺害を依頼したと思われる者と一緒でした』

『それは本当ですか? キラーゼロに殺害を依頼したのは何者なんですか?』

『アメリカのケインホールディングス株式会社の社長、ケイン・ロジャースだと思います』

『ケイン・ロジャース……。彼は今どこに?』

『すでに社を後にしました。今日の夕方日本を発つ予定だそうです。しかし、副社長のショーン・ギルバートが少なくともあと七日は渋谷のホテルに滞在するそうです。ケインとショーンの連絡先が書かれた名刺を受け取っています』

『連絡先を教えていただけませんか?』

 征二は名刺に書かれたケインの連絡先を古谷に伝えた。

『斎藤さん、ご連絡ありがとうございます。早速ケインとショーンに事情を聞くよう動きます』

『よろしくお願いいたします』

 古谷は電話を切ると、今の電話の内容をすぐさま仲井戸に報告した。仲井戸は古谷からの報告を聞くと、下嶋にケインホールディングスの本社所在地と、本社所在地から推測される最寄りの国際空港を調べさせた。

「仲井戸課長、ケインホールディングスの本社所在地は、ニューヨーク州ニューヨーク市のマンハッタン区にあります。本社所在地の最寄りの国際空港は、ジョン・F・ケネディ国際空港。ジョン・F・ケネディ国際空港行きの便は、成田空港から十六時四十分と十八時十分の二便あります」

 下嶋はケインホールディングスのサイトに掲載されていたケインの写真を印刷して全員に配った。

「羽田が目と鼻の先の位置にあるっていうのに、よりにもよって成田かよ!」

 古谷は焦りの感情を(あらわ)にした。

 征二からケインとショーンの連絡先を聞いたものの、ケインとショーンが共謀していた場合、お互いに本当のことを話さず捜査を撹乱(かくらん)することが予想された。古谷たちのいるオフィスから成田国際空港までの車での移動時間は、道路状況によって約一時間半から二時間半かかると予想された。時刻は十五時三十分を過ぎていた。

「ケインは『日本を発つ』と言ったんですね。帰国すると明言していない。目的地はニューヨークではないかもしれません。しかし可能性は一番高い。今からだと十八時十分出発の飛行機に乗るかもしれません。古谷係長とチャーリー君は成田空港に向かってケイン・ロジャースに任意同行を求めてください。新庄主任と下嶋君は渋谷のホテルに向かってショーン・ギルバートに任意同行を求めてください」

 仲井戸は冷静な口調で四人に指示を出した。四人は指示を聞くと急いでオフィスから飛び出していった。


 古谷とチャーリーは、チャーリーが運転する車で首都高速湾岸線と東関東自動車道を経由して成田国際空港に向かった。

 下嶋を乗せた新庄の運転する車は、五十分ほどでショーンが滞在する渋谷のホテルに到着した。

 ショーンは任意同行に素直に応じ、警察庁の取調室を借りて事情聴取が行われた。ショーンにキラーゼロの似顔絵と、渋谷のスクランブル交差点で発砲後に自殺した犯人の検死写真を見せて尋ねてみたが、見覚えが無いという答えが返ってきた。ケインと行動を共にしている人物について質問したところ、ショーンは全く知らされていないとのことだった。

 オフィスを出てから約一時間四十分後の十七時十分過ぎに古谷とチャーリーは成田国際空港に到着した。十八時十分出発の時間に充分間に合った。

「捜査令状が無いと搭乗者名簿を確認することができない。チャーリー、搭乗口を見張って奴らが搭乗する直前に声をかけるぞ」

「はい」

 ジョン・F・ケネディ国際空港行きの飛行機の出発三十分前、搭乗案内が開始されると古谷とチャーリーは目を凝らしてケインの姿を探した。ケインはファーストクラスを利用すると予想していたが、ファーストクラス利用客の中にはケインの姿は見つからず、その後エコノミークラス利用客の中にもケインの姿は無かった。

「くそっ! 二時間近くかけて来て空振りかよ!」

「仕方ありませんよ。この飛行機に乗る確証は得られていなかったんですから」

 しばらくすると古谷の携帯電話に新庄から電話が入った。

『ショーンの話によるとケインは十六時四十分出発の飛行機に乗って帰国したそうです』

『十六時四十分? 十五時過ぎに品川の住崎製薬本社を出発したとしても成田空港まで一時間四十分はかかるだろ? なぜその時間の飛行機に乗ることができるんだ?』

『それが、ケインはヘリコプターを使って成田空港に向かったそうです』

『ヘリコプターだとぉ? 俺たちもヘリコプターで移動すれば間に合ったのか?』

『おそらくは……』

 ケインは、住崎製薬本社のある品川から車で東京都江東区新木場にある東京ヘリポートに向かい、チャーターしたヘリコプターに乗り換えて成田国際空港に向かった後に、十六時四十分出発のジョン・F・ケネディ国際空港行きの飛行機に乗り日本を後にしていた。

 羽田国際空港から成田国際空港まで直線距離にして約六十キロ、ヘリコプターでの移動時間は二十五分ほどだった。羽田国際空港からヘリコプターで移動していれば、十六時四十分出発の飛行機の出発三十分前にはギリギリ間に合っていた。しかし、警察庁及び東京都は、都道府県警察航空隊が使用するヘリコプターを数多く所有していたが、羽田国際空港はそれらのヘリコプターの基地として設定されていなかったため、ヘリコプターでの移動は事実上不可能だった。

「くそったれぇ!」

 古谷の大きな声が人気(ひとけ)の少なくなった搭乗口に響いた。

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