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第34話:決意新たに

 チャーリーの計らいにより、ケイン・ロジャース殺害及び、ゴルフクラブでの犯行はキラーゼロと丈太郎によるものと扱われ、麗香、征二、ボビーは罪に問われなかった。

 丈太郎の遺体は古谷とチャーリーによってキャサリンの眠る墓地に埋葬された。丈太郎は生前にキャサリンの墓の隣に自分の墓を準備していた。

 征二とボビーはニューヨークの病院への入院が余儀なくされたが、軽傷の麗香は二人をニューヨークに残して一旦アレックの射撃場に戻ってから日本に帰国した。

 七月四日金曜日午後二時、成田国際空港に到着した麗香はタクシーに乗り横須賀のバー「スターライト」に向かった。

 バーに着くと入口のドアは鍵が開いていた。麗香は静かに店内に入った。

 店内には一人の五、六十代と思しき男性がテーブル席に座ってウイスキーを飲んでいた。麗香と征二が初めて店を訪れた時に店にいた人物である。テーブルの上には空になったウイスキーのボトルが二本置かれていた。

「あなたが黄龍さんですか?」

「ああ」

「丈太郎からあなたに会うように言われました。丈太郎は――」

「村野さんを介して話は聞いた」

「そうですか……」

「君たちが復讐を決行した同時刻にキラーゼロの所属するKZプロモーションは我々の組織が殲滅した」

「我々の組織? あなたの組織であればキラーゼロを殺すことができたのですか?」

「可能だ。丈太郎でもキラーゼロを殺すことは充分可能だった。丈太郎の死はキラーゼロに対する憎悪の感情が一瞬の隙きを生んでしまった。そんなところだろう」

「あなたはあの時私たちの話を聞いていたのでしょう? なぜ力を貸してくださらなかったのですか?」

「丈太郎に手を出すなと言われた。息子の命懸けの頼みだ。断る親はいないだろう」

「あ、あなたが丈太郎のお父様なの? ……ごめんなさい。私のせいで丈太郎が殺されてしまった。ごめんなさい。ごめんなさい……」

 黄龍の言葉を聞いた麗香の目には涙が溢れた。

「気にしないでくれ。あいつも傭兵だった男だ。戦場で戦って死ぬことは覚悟していたよ」

「ごめんなさい……。ごめんなさい……。ごめんなさい……」

 麗香は涙を流しながら謝り続けた。

「ここからは我々の仕事だ。()()()()()は我々の手で必ず始末する」

「キラーワン?」

「キラーゼロは今回の任務の成功によってキラーワンに昇格した。キラーゼロは、ケインからの君のご両親の殺害という依頼の他に、組織からケインの資産を奪い取ることと、ケインを殺害するというもう一つの依頼を受けていた」

「あいつは生きているの? 私は致命傷を負わせたのよ。組織って何ですか?」

「組織の名は『キラーズ』と言う。キラーワンからキラーナインまでの九人で構成される組織だ」

「キラーズ?」

「君の復讐は終わった。君は今までの生活に戻りなさい」

「……いいえ。私の復讐はまだ終わっていません。黄龍さん、私をあなたの組織に入れてください。キラーゼロを殺すためなら私何でもします!」

 麗香は黄龍に願い入れた。麗香の願いは自分が丈太郎に復讐を依頼しなければ丈太郎は死なずに済んだという後悔の念と罪悪感によるものだった。

「ちょっと戦闘技術を身につけたからと言って自惚れるな。君は足手まといにしかならん」

「それなら私を鍛えてください! どんな訓練にも耐えてみせます!」

「我々の訓練は命懸けのレベルが違う。訓練における命の保証は無い」

「それでもかまいません! お願いします!」

「……君の意思は固いようだな。メンバーは足りているから、そうだな、雑用係として雇おうか」

「ありがとうございます!」

「この場でコードネームを決めなさい。君の最初の仕事だ」

 黄龍に言われてから麗香はしばらく考え込んだ。

「……『キャサリン』。『キャサリン』にします」

 麗香は「キャサリン」というコードネームを自分につけることでキャサリン・マッカーソンを失った丈太郎のキラーゼロへの復讐の思いを引き継ぎ、そして丈太郎を失った黄龍のために自らの手でキラーゼロに復讐する決意を固めた。

「キャサリンか。雑用係にしてはいいコードネームだ。それでは次の仕事を頼むよ」

「はい!」

「丈太郎の弔い酒(とむらいざけ)を付き合ってくれないか? もちろん君はソフトドリンクだ。丈太郎との思い出を話したいんだ」

「はい。お付き合いいたします。でも、これは仕事ではありません。仕事なんて言わないでください。丈太郎のことたくさん教えてください」

「ありがとう。思い出はたくさんあるんだ……」

 黄龍は寂しげに言った。


 かくして、一人の少女は戦士として生きることを自ら選び、「ブラッディ・キャサリン」という異名が各地の戦場に知れ渡るのにそう時間のかかることではなかった。

 キャサリンと戦い一命をとりとめた敵兵たちはみな同じようなことを口にした。

「彼女の戦いぶりはまるでダンスホールで優雅に踊る令嬢のようだった」と。

 二年後、キャサリンは某国密林地帯の上空を軍用ヘリコプターで移動していた。

「あなたをエスコートできるとはパイロット冥利に尽きますよ」

 パイロットからの言葉がヘッドセット越しに聞こえた。

「……できれば戦場ではなくパーティーにでもエスコートしてほしいですわ。この戦いが終わったらどこか素敵なところにエスコートしてくれないかしら?」

「えっ? 私でよろしいのですか? ……そうですね、素敵なところと言えば、夕日を見ながらシーフードが食べられる店があるんです。その店にご招待しますよ」

「……この戦いが終われば今よりももっときれいな夕日が見られるでしょうね。その時には(わたくし)がごちそうさせていただきます」

「女性にごちそうになるわけにはいきませんよ。私がごちそうさせていただきます」

「……私こう見えても大食いなんですよ。後悔しても知りませんよ。お給料の三ヶ月分は準備しておいてくださいね」

「……了解しました」

「……冗談です」

「ポイント上空に到着しました。キャサリンも冗談を言うんですね。なんだかホッとしました」

「……私も一応人間ですから冗談も言いますよ。でも、あなたとの約束は本当です。あなたとの約束が私の生きる理由の一つになるから……」

 そう言い残すとキャサリンはヘッドセットを外して密林へダイブした。


 戦場のフロイライン(令嬢)は、今日もまたどこかの戦場で敵を地獄へ誘う(いざなう)ダンスを踊る。返り血に染まった紅の戦闘服(ドレス)で。

 住崎麗香の復讐の戦いは二年たった今もなお続いている。


〈了〉

最後までお読みいただきありがとうございました。

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