第33話:復讐の代償
麗香はキラーゼロに致命傷を負わせた。頸動脈を切られたら二、三分ほどで失血死に至る。キラーゼロの死は時間の問題だった。
「うぉおおお!」
丈太郎は渾身の力を振り絞ってキラーゼロのもとに近寄り立ちふさがった。
「とどめは俺が刺す!」
丈太郎は傷ついた両腕でハンドガンを握りしめた。
「……お前の顔、見覚えがあるな」
「四年前の十一月二十九日、ペンシルベニア大通りでの襲撃、忘れたとは言わせない!」
「ああ、パンサーってお前かぁ。俺が刺した女の横で慌ててたのを覚えてるよ。女一人守れない傭兵ってダセェな」
「貴様ぁ!」
「確かこんな技があったな……」
そう言うとキラーゼロは丈太郎との間合いを一気に詰め、丈太郎の懐に入り込むと腹部に右拳を押し当てた。
「まさか! 丈さん、逃げて!」
「え?」
その直後、キラーゼロの右腕は丈太郎の腹部を貫いた。
「この技名前なんだったかな? ま、いいか」
キラーゼロは丈太郎を貫いた右腕を引き抜いた。
「ぐふうっ……」
「丈太郎!」
丈太郎の貫かれた腹からは大量の血が流れ出し、口からも血を吐き出した。
「『無刀刺殺拳』……。お前みたいな若造がなぜ使える!」
征二は声を荒らげて言った。
「無刀刺殺拳」とは、志貫一刀流剣術の秘奥義とされており、体得するには免許皆伝後に二十年の歳月を要し、これまでに体得した者は数名しかいないと言われている。
「俺の頭には世界中のあらゆる殺人術がインプットされてるんだよ」
キラーゼロはそう言うと後方にジャンプして丈太郎から距離を取った。
その直後、上空からヘリコプターのサーチライトがキラーゼロに向かって照らされ銃撃が放たれた。銃撃はキラーゼロの右頬をかすめた。ヘリコプターからの攻撃はチャーリーによるものだった。
「……予想外の痛手だな。ま、いいか。ここまで追いつめられたのは初めてだ。麗香、お前は殺し甲斐があるなぁ。お前に付けられた首の傷がうずくよ。心臓もドキドキしてる。これは恋心かな? 麗香、また遊びに来るからな。その時は必ず殺してやるよ」
そう言い残すとキラーゼロはよろめきながら林の奥に走り去った。
麗香と征二は体を引きずりながら丈太郎のもとに近寄った。
「れ、麗香、よくキラーゼロを追い詰めた。最後は俺のミスだ。すまん」
「丈太郎、しゃべらないで」
ヘリコプターはグリーン上に着陸し、古谷とチャーリーは麗香たちのいる林に入った。
「後のことは黄龍がなんとかしてくれる。初めてお前がバーに来た時、店にいたおっさんを覚えてるか? あいつは今もバーにいるはずだ。帰国したらあいつとコンタクトを取れ。……麗香、最後の教えだ。……怒りや憎しみの感情は時として想像以上の力を発揮するきっかけになる。し、しかし、戦いにおいては瞬時の判断を鈍らせる。感情をコントロールする能力を身に付けろ。わかったか? へ、返事は?」
「は、はい。了解しました!」
「いい返事だ……。キャ、キャサリン、今から会いに行くよ……」
「丈太郎! 丈太郎ぉおお!」
丈太郎は麗香の返事を聞くと静かに息を引き取った。
古谷とチャーリーは丈太郎の遺体に駆け寄ると姿勢を正し静かに丈太郎に向かって敬礼した。
「パンサー、君の仇は私が取る。娘の仇とともに必ず……」
チャーリーは丈太郎の遺体に向かって誓いを立てた。