第31話:圧倒的不利
キラーゼロは麗香との距離をある程度詰めると走るのをやめ、歩きながら麗香に向かって小銃で発砲した。
麗香は、自分の体のすぐ近くに弾が通ると聞こえる衝撃波による破裂音であるクラック音と、少し離れたところを弾が通ると聞こえる風切り音と、発砲音の三つの音を聞きながら恐怖に耐えながら必死に走った。振り返って体勢を整えてキラーゼロを迎え撃つ余裕など一切無かった。
麗香はようやく一本の木の陰に隠れた。しかし、木の両端をキラーゼロの撃つ弾丸が傷をつけていく。麗香は身動きの取れない状態だった。キラーゼロは弾が切れた小銃を捨て、二丁のハンドガンに持ち替えた。
そこにキラーゼロの背後からオートバイに乗る丈太郎と征二がやって来た。
丈太郎は右手でオートバイを運転しながら左手でハンドガンを撃ち、征二は刀を右手に持ちキラーゼロの胴体を一刀両断することを狙った。しかし、キラーゼロは体を思い切り反らせてこれを避け、体を戻すと同時に丈太郎と征二のいる位置を把握し、丈太郎たちの乗るバイクの左右に移動して丈太郎と征二を狙って二丁のハンドガンを撃った。キラーゼロの撃った弾は的確に丈太郎と征二の両腕、両脚に着弾した。
丈太郎と征二はオートバイから転げ落ち倒れ込んだ。
「斎藤! 丈太郎!」
「お前が期待していたお仲間はこのザマだ。お前に勝ち目は無いよ」
麗香は木の陰を移動しながらクルツで反撃した。しかし、キラーゼロに弾が当たらない。キラーゼロは木の陰を移動しながら徐々に麗香との距離を詰めた。
クルツで連射して攻撃していたがとうとう弾が切れた。麗香はクルツを捨てグロックに持ち替えてなおも反撃した。
お互いにマガジンを換装しながら撃ち合いが続いた。
「お前の撃つ弾なんて当たらないって。大人しく出てこいよ。今なら楽に殺してやるぜ」
「……ねぇ、あなたの本当の名前を教えてよ」
撃ち合いながら麗香はキラーゼロに質問した。
「聞いてどうする? お前はもうすぐ俺に殺されるんだぜ?」
「お父様とお母様を殺した奴の名前を聞いておきたいわ。私があなたを殺す前にね」
麗香は内心怯えながらもキラーゼロに対して大見得を切った。
「……本当の名前なんて忘れちまったよ。『九三七一』。その前は『三二六四』だった」
「今はキラーゼロ、番号で呼ばれていたほうが良かったんじゃないかしら?」
「おしゃべりは終わりだ」
気がつくとキラーゼロは麗香の左側の至近距離に立っていた。
もはやこれまで。
麗香は最後の抵抗にグロックを撃ち続けた。
麗香の攻撃によってキラーゼロとの距離は離れたが、キラーゼロの二丁のハンドガンは麗香に狙いを定めていた。
キラーゼロは右手に持つハンドガンを撃った。
弾切れ。
すかさず左手に持つハンドガンを撃つ。
弾切れ。
「ちっ。俺としたことがお前とのおしゃべりのせいで弾数の勘定が狂っちまった」
確かに先ほどの麗香との会話でキラーゼロは動揺していた。これまでに自分の本名を聞いてくる敵はいなかったからだ。
「お、終わりね……」
麗香はキラーゼロを確実に仕留められる距離まで近づいた。
麗香はキラーゼロに向かって発砲した。
しかし、麗香のグロックも弾切れだった。
その直後、キラーゼロがナイフで切りつけてきた。キラーゼロのナイフは麗香の左二の腕に傷をつけた。
「さぁて、ここからが本当の殺し合いだぜぇ」
そう言うとキラーゼロはぺろりと舌なめずりをした。
麗香もナイフを取り出しキラーゼロに向かって構えた。
「麗香、無茶だ! 逃げろ!」
「麗香様、お逃げください!」
「ギャラリーは黙ってろ」
「うぁあああ!」
麗香は叫びながらキラーゼロに向かって行った。
キラーゼロを左右から切りつけるも上半身を反らして躱される。上半身を戻す反動を利用してナイフで麗香を刺してくる。麗香は後退りしてこれを避ける。
再びお互い距離を詰め二人のナイフの切っ先が交錯する。麗香は敵わないとわかっているキラーゼロに対して果敢に挑んだ。
ナイフの攻撃とともに麗香は下段回し蹴りを放つ。しかし、キラーゼロはそれを読んで膝でガードする。
キラーゼロも回し蹴りに加えて左のパンチを交えて攻撃する。
キラーゼロの左パンチを腹にもろに食らった麗香は後ろに飛ばされ背後の木に打ちつけられた。
「うぅうう……」
「お前に勝ち目なんて無いんだよ。大人しく殺されろよ」
キラーゼロはゆっくり麗香のもとに近づいてきた。
麗香のもとに近寄ると倒れ込んでいる麗香の髪の毛を左手で掴み強引に立たせて耳元で囁いた。
「お前の父ちゃんと母ちゃん殺し甲斐があったぜぇ。今でも二人の頭を踏み潰した感触が忘れられねぇよ。こうして踏み潰してやったんだ」
キラーゼロはその場で踏み潰す動作をやって見せた。
「麗香、お前はゆっくり時間をかけて殺してやるよ」
そう言うキラーゼロの顔は満面の笑みをたたえていた。
「うぁああああああああ!」
麗香は絶叫した。キラーゼロの言葉を聞き、動作と表情を目にした麗香の怒りと憎しみの感情は頂点に達した。