第30話:FBIのプライドと丈太郎の実力
新庄は、病院で意識は回復したものの、全治三ヶ月の重傷という診断が下りいまだ退院できずにいた。
古谷とチャーリーがニューヨーク支局の会議室で打ち合わせをしていると、窓の向こう側のFBI捜査官たちが慌ただしくオフィスを出ていくのに気づいた。
『おい、何かあったのか?』
チャーリーは会議室を出て近くにいた捜査官に声をかけた。
『グリーンバーグ警察署から応援要請がありました。スカーズデールのケイン・ロジャース氏の邸宅で銃声があったとの通報がありました。その後、ケイン・ロジャース氏の邸宅近くのゴルフクラブで銃声が続いているとの別の通報があったとのことです』
「住崎麗香さんが依頼したパンサーって奴が復讐を決行したってことか?」
チャーリーから話を聞いた古谷が言った。
「チャーリー、俺たちも行こう!」
「はい!」
『ダメだ。君たちを行かせることはできん』
古谷とチャーリーのもとを訪れた支局長が告げた。
『支局長、なぜ私たちを行かせてくれないのですか?』
『君たちはキラーゼロに対する個人的な恨みが強すぎる。君たちを行かせたら現場に混乱を来たす可能性がある。二人とも落ち着きたまえ』
「くそったれぇ! ここまで来て俺たちは何もできないのかよぉ!」
チャーリーに支局長が言った言葉を訳してもらった古谷は感情を言葉にして表した。
『古谷、チャーリー、彼と一緒にパトロールに行ってくれ』
『……了解しました』
チャーリーは支局長の指示に返事をした。
古谷とチャーリーは若い男性捜査官とともにパトロールに出かけることになった。
「これからスカーズデールに向かいます」
男性捜査官は日本語が話せた。
「スカーズデールって、支局長は行くなと言ったじゃないか?」
「日本で言う『建前』というやつです。支局長は新庄がキラーゼロに刺されたことをとても心配していました。国は違っても同じ法の番人として犯罪者を憎む思いは同じです」
「そうだったのか」
「私たちも何もしてこなかったわけではありません。支局長からキラーゼロに対する捜査を秘密裏に行うように命令されていました。FBIのプライドってやつですかね」
支局長の思いを聞いてチャーリーの目には光るものがあった。
支局長を始めとしてニューヨーク支局の捜査官たちが自分と同じキラーゼロを憎む思いを持っていたことがうれしかった。
「出遅れちゃってますから飛ばしますよ。しっかり掴まっていてください」
古谷とチャーリーは急いでスカーズデールに向かった。
征二の運転する車はキラーゼロに右後輪のタイヤを撃ち抜かれ走り続けることができない状況に陥っていた。
「麗香様、林に逃げ込みましょう。敵は私が食い止めます。麗香様はお逃げください!」
「いいえ、一人より二人のほうが敵を倒せます。私も一緒に戦います!」
「あなたは死んじゃならんのです! お逃げください!」
征二は言葉を荒らげた。
二人は車を乗り捨てて林に逃げ込んだ。
しばらく林の中を逃げると征二は木の陰に隠れて追ってくる敵を迎撃する体勢を取った。
キラーゼロたちも車を乗り捨てて林の中に入った。
キラーゼロたちはバイパーと他の二人の戦闘要員とともに発砲しながら麗香と征二の後を追った。
征二は追ってくる敵との距離がアサルトライフルの射程距離に入ったのを見計らって続けざまに発砲した。キラーゼロとバイパーは素早く木の陰に隠れて逃れたが、他の二人の戦闘要員は逃げ遅れて征二の放った銃弾の餌食となった。
木の陰から姿を現したキラーゼロは鼻から空気を思いっきり吸い込んだ。
「こっちか、バイパー、後は任せた」
「了解した」
キラーゼロは全速力で麗香のもとに向かって走り出した。
バイパーは木の陰に隠れながら征二に向かって小銃を発砲した。
「ジジイ、腰に良い物ぶら下げてるな。俺にくれよ。くれたら見逃してやってもいいぜ」
「見逃すつもりもないくせに……」
戦闘要員二人を倒すのに弾を使いすぎてしまい、征二の小銃の弾は残り僅かになっていた。
征二とバイパーは他の木の陰に移りながら撃ち合いを繰り返した。征二は小銃からハンドガンに持ち替えて攻撃を続けていた。撃ち合いを続けていく中でバイパーの命中精度は確実に上がっていた。
しばらく撃ち合いが続いた後、征二のハンドガンは空撃ちの状態が発生した。とうとう征二はハンドガンの弾を撃ち尽くしてしまった。
征二が弾切れになったことを知ったバイパーは、木の陰から姿を現すと征二の隠れている木に向かって発砲しながらゆっくり歩を進めた。
万事休す。征二は腰に携えた刀の柄を握りしめた。
すると、バイパーから見て左の方角から丈太郎の乗るオートバイが征二とバイパーのいる間を横切った。丈太郎は横切りざまにバイパーに向かって発砲した。丈太郎の撃った弾はバイパーの額に命中した。
「お前にかまっている暇はない。征二さん、キラーゼロは?」
「麗香様を追っていきました」
「麗香はどっちの方角に向かったんだ?」
「こちらの方角です」
征二は右手で指し示した。
「征二さん、後ろに乗って!」
「はい!」
『ボビー、お前無事か?』
丈太郎はヘッドセットを介してボビーと連絡を取った。
『無事ではないね。両脚撃たれて走れない。でも敵は全員倒したよ』
『ご苦労。ゆっくり休め。後は俺たちがなんとかする!』
丈太郎は麗香の逃げた方角に向かってオートバイを走らせた。




