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第29話:戦慄のゴルフクラブ

 麗香たちの乗る車は敵の銃撃によってリアガラスが割られ、後部座席と車の外を隔てる物が無くなっていた。

「麗香、姿勢を低くしてシートに身を隠せ! ボビー、荷室に移って鉄板で目隠しして()()を撃つ準備しろ!」

「了解!」

 ボビーは丈太郎の指示に従い素早く荷室に移ってリアガラスの部分に二枚の鉄板を立てて固定した後、対戦車ロケットランチャーを右肩に構えて後方から向かってくる敵の車に狙いを合わせた。

「ボビー、キラーゼロが乗ってる車を狙って撃て!」

「そんなのこの距離じゃわからないよ! 一番近づいてる車に向かって撃つよ!」

 ボビーは最も接近している敵の車に向かってロケット弾を撃った。敵の車はロケット弾を回避するため左にハンドルを切ったが、回避行動が間に合わずロケット弾は車の右側面に命中し、爆発炎上しながら何度か横転した後横倒しの状態になって動きが止まった。

 その後、敵の車はロケット弾の命中を避けるため蛇行しながら車を走らせた。蛇行することによりスピードが落ちて距離は離れたがなおも三台の車と一台のオートバイが追いかけてきていた。ボビーは一台の車に狙いを定め再びロケット弾を発射した。

 しかし、ロケット弾は惜しくも当たらず敵の車の十数メートル後方の地面に着弾し爆発した。

「丈太郎、弾切れ。ロケット弾もっと持ってくれば良かったね」

 ロケット弾は二発しか準備していなかった。ケインとキラーゼロ以外の敵がいることは予想していたが、ケインの屋敷内での屋内戦を想定していたことと、車の荷室のスペースの都合上、重機関銃のような大型の火器は積んでいなかった。

「ボビーと俺が敵を引きつけて殲滅する。麗香と征二さんはこのまま逃げろ。キラーゼロは俺たちが必ず始末する!」

 麗香は後部座席に身を隠しながらクルツを握りしめていた。

「麗香、俺たちが飛び降りたらドアを閉めて前の座席に移れ。敵が追ってきたら狙いを定めて迷わずに撃て。わかったか?」

「わかったわ」

「返事は『了解しました』か『了解』だと言ったろ」

「りょ、了解!」

「それでいい。じゃあな」

 丈太郎とボビーは、後方に投げた手榴弾の爆発で一時的に敵の視界を遮ると丈太郎の合図で同時に車から飛び降りた。二人は身を丸めて何度か転がった後すくっと立ち上がると二手に分かれてアサルトライフルを撃ちながら敵の車とオートバイに向かっていった。

 二人は車とオートバイの運転手に集中して攻撃を行った。運転手が死んだ後も他の者が運転を行ったが、二人が繰り返す攻撃によって命を落とし二台の車と一台のオートバイを走行不能の状態にした。

 しかし、一台の車がほぼ無傷の状態で麗香たちの乗る車を追いかけていった。丈太郎はその車にキラーゼロが乗っているのを目で捉えた。走行不能になった車からは生き残った敵が武装して降りてきた。

「丈太郎、麗香たちの後を追って! ここは僕に任せて!」

「ああ、頼んだぞ!」

 丈太郎は敵のオートバイに乗りキラーゼロの乗る車の後を追った。

 グリーン上には身を隠せる遮蔽物が無い。ボビーは近くのバンカーに逃げ込み敵に攻撃した。塹壕のような地上に土や土嚢が積み上げられていないバンカーは、グリーン上に立って攻撃をするよりもいくらか敵からの攻撃を防げるといった状況だった。

『征二さん、二人を追っている車にキラーゼロが乗っている! 俺は今その後を追っている。とにかくフルスピードで逃げてくれ!』

 征二のヘッドセットに丈太郎の声が届いた。

『かしこまりました!』

『麗香様、後ろの敵の車にキラーゼロが乗っているそうです。スピードを上げますので取っ手にしっかり掴まってください』

『はい!』

 麗香は征二に言われたとおり助手席のアシストグリップを握って加速に備えた。

 ボビーは、五人対一人という不利な状況で戦いながらも、手榴弾による撹乱と正確な射撃によって確実に敵を仕留めていった。

「シット!」

 ボビーのいるバンカーに手榴弾が投げ込まれた。ボビーはすぐに察知してバンカーから逃げ出した。バンカーから出てくるボビーを待ち構えていた敵はボビーに向かって発砲した。撃たれた弾の一発がボビーの右太ももをかすめた。ボビーはバンカーから逃げ出した勢いのまま走ってグリーン横の林に逃げ込んだ。

 こうして深夜のゴルフクラブは麗香たちとキラーゼロたちとの戦場と化した。

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