第25話:最終試験
六月、ログハウスの前の広場では丈太郎とボビーによる麗香と征二に対する近接戦闘の最終試験が行われた。
試験の結果は丈太郎とボビーに勝つことはできなかったが二人とも及第点をもらえるレベルには達していた。
「二人と真剣勝負するのは疲れるよ。麗香も征二さんももう立派な戦士よ」
征二は剣術の心得と日頃から体を鍛えていたためメキメキと腕を上げていた。そして麗香も約十ヶ月という短期間の訓練で眼を見張るほど上達し、ボビーとの近接戦闘の訓練においては五回のうち一回は勝利できるほどの戦闘技術を身に付けていた。しかし、いくら上達したとは言え、丈太郎には二人とも勝つことはできなかった。
「さて、今日で訓練は終了だ。これからは本格的に復讐の準備に入る。麗香と征二さんは日本に戻ってくれ」
「かしこまりました」
「丈太郎、それってどういうこと?」
「麗香と征二さんは復讐には参加させない。お前の復讐はお前が指定した日にボビーと俺で実行する」
麗香の依頼を受けた当初から丈太郎は麗香と征二を復讐に実際に参加させる気は無かった。征二はそのことに感づいていた。麗香と征二に戦闘訓練を行ったのは、日本で生き延びるための術を身に付けさせることが目的だった。麗香が約十ヶ月の訓練で上達をしていても実戦経験の無い初心者であることには変わりはなく、人生とほぼ同じ年月を殺人術の習得に費やしたと思われるキラーゼロに対しては無力に等しいと言えた。丈太郎の判断は的確なものだった。
「丈太郎、私にも復讐をさせてください」
麗香は丈太郎に近づいて銃口を向けた。四人は実戦により近い状態で訓練するために近接戦闘の訓練においても銃とマガジンを装備していた。
「麗香、銃を向ける相手を間違えてるぞ」
「あなたは復讐に参加させないと言ったじゃない! 私は誰に銃を向ければいいというの? もしかしてこういうこと?」
麗香は自分の右こめかみに銃を突きつけた。
「麗香様、馬鹿な真似はおやめください!」
「お父様とお母様の仇が取れないなら死んだほうがマシです。みなさんさようなら」
その直後、丈太郎は麗香から銃を奪い取ると麗香の左頬を平手打ちした。
「馬鹿野郎! 命を粗末に扱うな!」
「私の命よ! 私の命は復讐のために使うと決めたの! 復讐に参加させてよ!」
「死ぬかもしれないぞ! 戦いが始まったら守ってやることはできないんだぞ!」
「守ってくれと頼んでいません! もし私が死んだら私の代わりに復讐してよ!」
「……わかったよ、参加させてやる。自分の命は自分で守れ。わかったか?」
「了解しました!」
麗香の返事を聞くと丈太郎はログハウスに入り、冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り出し二、三口飲むと残りの水を頭にかけた。その後予定していた訓練は中止となった。
その夜、麗香は日本の神代のもとに電話をかけた。
『神代副会長、お久しぶりです』
『麗香様お久しぶりです。経営学の勉強は順調だと斎藤さんから伺っております』
征二は神代に定期的に連絡をしていた。神代にはシカゴ大学に再入学して経営学を学んでいると伝えていた。
『長い間留守にしてしまって申し訳ありません。神代副会長に折り入ってお願いしたいことがあります』
『はい。お願いというのは何でしょうか?』
麗香は神代に依頼内容を伝えた。
『……しかし、麗香様、本当によろしいのですか?』
『はい、かまいません。住崎製薬の会長としてケインからの申し出に全力で抵抗します』
『かしこまりました。ケインに一泡吹かせてやりましょう。早速準備を進めます』
『よろしくお願いします。必ず日本に帰ります』
そう言うと麗香は電話を切った。麗香は思わず復讐に対する決意を口にしていた。