第23話:死ぬまで殺せ
ケインの屋敷の書斎のドアをノックする音が響いた。
ドアをノックしたのはキラーゼロだった。
「何かね?」
「ボス、良いニュースと悪いニュースがあるんだがどっちから聞きたい?」
「そういう時は悪いニュースから聞くだろう。悪いニュースとは何だね?」
「ボスの首に懸賞金がかかった。懸賞金の額は一千万ドル。懸賞金をかけた奴はボスのことを相当恨んでいるみたいだな。インターネットの掲示板でエントリーするだけで実際にあんたを殺さなくてもエントリーボーナスとして一万ドルが支払われる。賞金稼ぎにとっては美味しい仕事だ。すでに百人以上がエントリーしている。キャッチコピーが『Kill it until you die.』。日本語に訳すと『死ぬまで殺せ』って感じかな」
二〇〇七年十二月のドルと円の為替レートは約百十二円、懸賞金の一千万ドルは日本円にして約十一億二千万円、エントリーボーナスの一万ドルは約百十二万円に相当した。
「懸賞金をかけた奴は誰なんだろうな? あんたの周辺は今後公私共に忙しくなりそうだな」
キラーゼロはとぼけてみせた。
「……こんなことをするのは住崎麗香しかおらんだろう。金で物を言わせて私に復讐するつもりか!」
ケインは苦虫を噛み潰したような顔で口にした。
「そこで良いニュースがある」
「良いニュースとは何だ? 早く言え!」
「懸賞金の半額の五百万ドルでボスの身を守ってやるよ」
「ふざけるな! お前を雇うのに私がどれだけ支払ったと思ってるんだ? これ以上金を払えるか!」
ケインはキラーゼロを雇うためにKZプロモーションに一千万ドル支払っていた。
「金をケチらないほうがいいと思うよ。一千万ドルという金は魅力的だからね」
キラーゼロは遠回しにケインに対して脅しをかけた。
「……わかった。払うよ。その代わりしっかりと私の身の回りを守ってくれよ」
「毎度あり」
その日を境にケインのオフィスと屋敷にはケイン宛ての差出人不明の封書や小包が多数届くようになり、オフィスと屋敷の電話のみならずケインの私用の携帯電話にも無言電話が朝から晩までひっきりなしにかかってくるようになった。ケイン本人もケインの会社もまともに仕事を行えない状態に陥っていた。
警察に相談したが、届けられる封書や小包から指紋は検出されず、消印はアメリカ以外の国のものもあり警察も対応に苦慮していた。
ケインの首に懸賞金をかけたのはケインの予想のとおり麗香だった。
麗香の思惑としては、懸賞金にエントリーした者の誰かがケインを殺してくれても良いのだが、ケインを精神的に追い詰めることが真の目的だった。
武力行使による直接的な攻撃ではなく、封書や小包、無言電話などのアプローチに対してキラーゼロ及び、ケインの裏の部下たちであるマフィアの手下は手を出せずにいた。
麗香の思惑は見事に功を奏し、ケインは徐々に精神的に消耗していった。
年が明けて二〇〇八年一月、麗香と征二に対する訓練は、以前アレックが麗香に話したとおり厳しさを増していた。
訓練の内容はレンジャー訓練をベースに丈太郎が独自にアレンジしたもので、体力訓練として、かがみ跳躍、小銃を胸元に抱えた状態で行う長距離走、十キロの荷物を背負った状態での射撃場周辺の二十キロ走が行われた。実戦訓練では、小銃の射撃、襲撃、徒手格闘、ナイフなどの無音武器のみを用いた襲撃、緊急脱出、森林戦、夜戦、施設を使った屋内戦、サバイバル実習などが行われた。
この訓練は復讐決行日の一週間前まで続けられた。




