第18話:無骨なプレゼント
麗香たちがアレックの射撃場で訓練を始めて二週間後、麗香が地下室から出て三日後の九月二日日曜日、麗香はアレックの射撃場の屋内シューティングレンジで丈太郎の指導のもとで射撃訓練を行っていた。
地下室で十一日間過ごしてやせ細っていた麗香の体はその後の食事で元の体重に戻っていた。
「チーフスペシャルだと弾が的の中心に集まるようになってきたな。そろそろもっと威力のある銃に変えて訓練をしようか。アレックがお前でも扱える銃を見繕ってくれた。アレック、準備はできてるか?」
丈太郎はカウンター内にいるアレックに声をかけた。
「ああ、準備はできてる」
そう言うとアレックはカウンターの奥から二丁の銃を持って来てカウンターの上に置いた。麗香と丈太郎がカウンターの椅子に腰を下ろすと、アレックはそれぞれに銃の説明を始めた。
「こっちのハンドガンはグロック社のグロック17。装弾数は十七発。こいつは手で握るフレーム部分がプラスチックでできたポリマーフレームオートと呼ばれる銃だ。プラスチック製品メーカーが作った銃なんだが軍の制式拳銃として採用された」
「麗香、持ってみろ」
麗香は丈太郎に促されてグロックを持ってみた。
「これまで撃っていた銃よりも重いのね。この銃ならケインとキラーゼロを殺せるかしら?」
麗香は地下室で過ごしたことによって二人に対する復讐心がより一層強いものになっていた。
「こいつの重さは七百三グラムだ。セミオートのハンドガンでは軽いほうの部類に入る。中には二キロ近いハンドガンがあるんだぞ」
アレックは銃の重さについて説明した。
「そんなに重いの? 私には撃つことができなそうだわ」
「そしてこいつがヘッケラー&コッホ社のMP5K-PDW。『クルツ』と呼ばれる銃だ。装弾数はマガジンによって十五発と三十発装填することができる。こいつは軍や警察問わず、世界中の特殊部隊で採用されている定番の短機関銃だ。狭い場所でも動きやすいようにストックを折りたたむことができる。しかもストックを折りたたんだ状態でも撃てる優れものだ」
「クルツってなんだか人の名前みたいね」
「この二丁は同じ9ミリパラベラム弾を使っているんで弾丸を共有することができる」
「へぇ、それは便利ね」
「今日からこの二丁の銃で射撃訓練をするぞ」
「わかったわ。早く慣れなくちゃね」
「パンサー、クルツでの射撃訓練は営業時間外にしてくれ。テキサス州が銃の規制が緩いとは言え、麗香がクルツを撃っていたら他の客たちに変な目で見られるかもしれん。あまり目立ちたくはないだろう?」
「そうだな」
「アレックさん、銃の代金はおいくらかしら? 斎藤にお金を準備させます」
「代金はいい。この二丁はプレゼントするよ。銃の登録はボビーの名義にしておくよ」
「ありがとう。大切に扱うわ」
「麗香、銃は自分の体の一部のように扱えるようになることが重要だ。そして常日頃からのメンテナンスも欠かすことはできない。肝心な時に撃てなかったら死につながるからな。肝に銘じろ」
「わかったわ」
「返事はなるべく『了解しました』か『了解』を使え。戦ってる最中に『わかったわ』なんて言われたら調子が狂う。わかったか?」
「わ、了解しました」
「それじゃ早速グロックを撃ってみるぞ」
「了解」
「弾は好きなだけ使ってくれ。弾代は斎藤に請求するから」
麗香はアレックにプレゼントされたグロック17を使って射撃訓練を再開した。
九月十八日火曜日、麗香は十八歳の誕生日を迎えた。