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第16話:丈太郎の訓練施設

 麗香たちは羽田国際空港を出発してから約十二時間後、八月十九日日曜日午前九時、アメリカ合衆国テキサス州ヒューストンにあるジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル空港に到着した。

 空港入口には村野が手配したミニバンが横付けされていて運転手が麗香たちの到着を待っていた。

 四人は入国手続を済ませて空港入口に停めてあるミニバンに乗り込んだ。丈太郎が運転手に目的地を伝えるとミニバンはゆっくりと走り出した。

 空港から北上して約四十分後、丈太郎が指示した目的地であるコンロー湖の近くにある射撃場に到着した四人はミニバンを降りて店内に入った。

 入口を入ってすぐにあるカウンターには六十代後半から七十代前半と思しき黒人男性が椅子に座って新聞を読んでいた。

「久しぶりだな、アレック」

「よう、パンサー。こっちにはいつ着いたんだ?」

「一時間ほど前だ。麗香、征二さん、彼がこの射撃場のオーナーのアレック・サンダースだ」

 丈太郎は麗香と征二にアレックを紹介した。

「この子がお前が言っていたお嬢さんかい?」

「ああ」

 アレックは怪訝(けげん)そうな面持ちで麗香のことを見つめた。

「俺のログハウスと施設は使える状態かな?」

「ああ、ちゃんと使える状態にしてある。お前から連絡をもらってすぐに掃除したよ。あまり年寄りをこき使わんでくれよ」

「それはすまなかった」

 アレックの射撃場の敷地内には丈太郎が傭兵時代に訓練をするために作った訓練施設があった。

「ボビー、カクテルは上手く作れるようになったか? こっちにいる間にごちそうしてくれよ」

「少しは上手くなったけど、アレックに褒められるほどじゃないよ」

「二人でバーを始めると聞いた時は驚いたよ。お前たちの店に客が入るのか心配したものさ」

「意外とバーの客の入りは上々でね。なんとか黒字でやってこれてる」

「それを聞いて安心したよ」

「丈太郎、僕買い出しに行ってくるよ。アレック、車を貸して」

「ああ、頼む。食料はとりあえず三週間分買ってきてくれ。麗香の食欲では三週間分あっても一週間もたないかもしれん」

「わかった」

 ボビーは食料の買い出しに出かけて行った。

「アレック、チーフスペシャルを2丁と、三人分のゴーグルとイヤーマフを貸してくれ」

「あいよ」

 アレックは丈太郎に返事をするとカウンターの奥に向かった。

「麗香、征二さん、早速だが本物の銃を撃ってみてくれ」

「かしこまりました」

「私、拳銃を持つことすら初めてよ」

「そんなことはわかってる」

 丈太郎に案内されて麗香と征二は屋内のシューティングレンジに向かった。カウンターでは、アレックが拳銃と弾丸と、ゴーグルとイヤーマフを準備して待っていた。

 丈太郎は拳銃と弾丸を受け取ると、麗香と征二にゴーグルとイヤーマフを手渡した。

 丈太郎は二人に拳銃の握り方と撃ち方を教えた後、実際にターゲットに向かって五発撃ってみせた。丈太郎が撃った人型のターゲットの中心には、線で結ぶと五角形になるように等間隔で撃ち抜かれていた。

「拳銃の弾でこんなことができるのね」

「さぁ、撃ってみてくれ」

 麗香と征二はそれぞれのレーンに分かれて銃を構えた。

「キャッ!」

 麗香は一発撃つと声を上げた。麗香の持つ拳銃の銃口は大きく跳ね上がった。麗香の手首と肩にはこれまでに経験したことがない振動が伝わった。麗香の撃った弾はターゲットに当たらなかった。

 征二のほうは、麗香が一発撃っている間に五発の弾丸を打ち尽くし、シリンダーに新たな弾丸を装填していた。

「麗香はともかくとして征二さんは筋が良いね。これまでに銃を撃った経験があるのかい?」

「昔何度かフィリピン製の密造拳銃を撃ったことがあります」

「そうか。あんた元極道なのか」

「お恥ずかしい話ですよ」

「人は見かけによらないものだな」

 丈太郎は征二の答えを聞いてすぐさま理解した。一九七〇~八〇年代において暴力団の間ではフィリピン製の密造拳銃が多く流通していたからだ。

 その後、丈太郎は改めて麗香に銃の握り方と撃ち方を教えた。

「二人には今撃っている銃よりも威力のある銃を片手でも撃てるようになってもらう。まずは今使っている銃に慣れてくれ。ボビーが帰ってくるまで練習だ」

「わかりました」

「かしこまりました」

 丈太郎は二人に告げるとカウンターの手前にある椅子に座って二人の射撃する様子を眺めた。

「アレック、麗香が扱える銃を二丁ほど見繕ってくれないか?」

 丈太郎はカウンターの向かいにいるアレックに声をかけた。

「本当にあの子に復讐をさせるつもりなのか?」

 アレックの質問に対して丈太郎は答えなかった。

「……わかった。手頃な銃を用意しよう」


 麗香と征二が射撃訓練を始めて一時間半ほどがたった頃、ボビーが食料の入った大きな紙袋を二袋両手に抱えて帰ってきた。

「ボビーが帰ってきたんで射撃訓練は終わりにしよう。俺のログハウスに行って荷解きをしたら昼飯を食おう。昼飯を食ったら訓練を始めるぞ」

「どのような訓練をするの?」

 麗香は丈太郎に質問した。

「お前はまず『毒抜き』をする」

「『毒抜き』? それはどんな訓練なの?」

「すぐにわかる。今はとりあえずたらふく飯を食え」

 丈太郎は「毒抜き」について詳しく説明しなかった。麗香は一抹の不安を感じていた。

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