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(1)街

「ほう、ここが人族至上主義国家第2位の街スクワートですか」


灰色の摩天楼(ビル群)の間にレンガ造りの家々が建ち並ぶ、なんともミスマッチな佇まい。


「こりゃあ、世界のパワーバランスが崩れて当然だわ」



はい、山田太郎です。

無事、町に入る(潜入する)事に成功しました。

いや~苦労したよ~

あのバカ猫(神)、一度も人間の姿になった事無いらしく、どうやって擬態するか迷いました。

まあ、結果なんとかなったけど。

魔力で擬似的な肉体を構成、その上に創造で作った服を着て普通に入国手続きして入りました。

魔力審査なんてのもあったけど無事(?)パス。ライブラさんにサポートしてもらいながら人間に似せて魔力通したら機械がショート。

審査官の記憶を改変して次の人のせいにしてかってに通ってきました。


はっはっは……

はぁ……


こりゃあ、人からしたら悪人(人か?)街道まっしぐらだな。

まあ、人を救うとも(ましてや世界を)言ってないし、気にしないでおこう。


まずは情報収集。

そうなると酒場……


『この時間に開いている居酒屋やパブはあまり無いかと……

ファミレスか喫茶店に行かれては?』



……勇者どもめ!異世界情緒もへったくれもないじゃないか!

と、



「……すみません、この辺に食事が出来る所はありますか?」


とりあえず通行人Aに聞いてみよう。



「えっ?……

この辺は問屋街だから……あの四角い塔がいっぱいあるの見えるでしょ?

あの周辺に商業区域があるから行ってみて」



「……ありがとうございます」

……ここはアメ横か!?



テクテクと教えてもらった商業区域に徒歩で移動。

街並みは……現代ヨーロッパ?

猫嘘つき!って言いたいとこだけど……状況が状況なだけにね……


因みにこの辺の売ってる物は?


『レミパンや量産品の食器、業務用機器、レジや金庫なんかも……』


もういいです……


異世界転生モノで、よく近代兵器や発明品を出す物があるけど……過多になるとダメだね。

情緒がない。

見た目外国っぽいけどさ、東京とどこが違うの?って感じになってはなぁ……

バトルジャンキーでもなければ、こういうの増えるのはわかるけど……ねぇ?

限度ってもんがあるでしょ。



『観光客が増えてきました。あの辺りだと、レストランがありそうです』



……

「あ!」


『はい?』


「お金!」


『……現物を視覚情報でお伝えします。創造するなり、スるなりしてください』



ホログラムで目の前にお金が映し出される。

単位はギル。

1ギル100円位の価値っと。

紙幣は……

100、50、20、10、5、1。

硬貨は……


「まんまドルだな」



『アメリカからの転生者の発案です』



「発案って……」

もろパクりじゃん。


まあ、いいや。

すりましょう。

偽造も盗るのも犯罪ですが……

創造で本物を作れば、少しは良心が痛むのを緩和出来る……かな?

ほんと、悪人(人?)まっしぐらやわ~



とりあえずレストランっぽいとこに入ります。


さぁ、お店の中は……


ホッ……安心しました。

異世界感0だった街並みと違い、冒険者風の人達や獣人やエルフ、ドワーフなんかもいます……


不本意とはいえ異世界に来てそれらしくないと、ちょっとガッカリするのは悪いことじゃないよね?



「いらっしゃいませ~

お一人様ですか?でしたらカウンターでよろしいでしょうか?」



うん、猫耳がキュートな獣人の女の子。

でも……首輪にかなりの違和感。


『この国での獣人達はほとんどが労働奴隷です。エルフやドワーフもそれなりにお金を積んだ冒険者達意外は……』



ん?

言うのを躊躇うってことは?



『違法奴隷です。獣人達も7割は違法奴隷です。

労働者や冒険者の戦闘奴隷は本人同意のもと結ばれた奴隷契約ですが、大半は違法に集められ無理やり奴隷にされた者達です』



なるほどね……人族至上主義の闇って奴ね……


「いいですよ?カウンターで」


独り難しい顔して立ってたら、この子が店主に怒られかねない。

すぐに席に移動します。


「マスター、キツくて安っい酒とそれに合うツマミちょうだい」



「ウチは居酒屋じゃないんだけどねぇ」



「これでなんとか……ね?」

と、100ギル札を渡す。



「ちょっと多くないかい?」



「その分、世間話に付き合ってよ」



「……わかった。で何の話だい?」



「この国に初めて来たんだけど、ウェイトレスの女の子の首輪が気になって……」


回りの亜人さん達の首にも6割方付いてるね。



「あの子かい?

仕事が出来て気立てがいい、高かったよ」



「でも売り上げは伸びた」



「まぁねぇ、国やお偉いさんは獣人を嫌っているけど……こちとら客商売だからね。

観光客や冒険者は人族以外が結構多い。そこからお金をもらう為には印象よくして安心してもらわんとな」



「マスターは商売をわかってらっしゃる」


そう、商売は信用第一。

そこはケチらずちゃんと労働契約を結んだ人間を雇わないと、変な所から綻びが生じる。



「本人も病気の親御さんの為に少しでも多く給金が欲しいらしくてね。契約期間が伸びて、更に売り上げが上がったよ」



「マスターも彼女も真面目に働いているんだ、少し位儲けが上がらないとやってられない」


不真面目にやると……



「そうそう、ここ20年ぐらいで増えた違法奴隷を使えば安くすむけど……客受けがよくねぇ、労働者の意欲も低い。終いにゃ点数稼ぎの小役人共が、今まで見て見ぬふりしてたのにいきなり取り締まりを始めたりする……」



「…そしてそれを裏で……」



「シッ!……それ以上はあぶねぇ。どこで聞いてるかわかんねぇからな……あいつら……」



なかなか闇が深いようで。


「ありがとう。

美味しかったよマスター、また来ますね」

(気が向いたら)



食事を終え、店を出てしばらく街を散策。

露店や店先の商品を眺めつつ公園っぽい所に到着。

そこのベンチに座り、行き交う人達を眺めながら一休み。



「……ふう」


……ライブラさん、ちょっとお聞きしても?



『何なりと……と、いいますか、なぜ能力やわたしをお使いにならないのですか?その方が早く正確に情報収集出来ると思うのですが』



うん……

一つは自分の目で確かめたかった……かな?

地球では40年生きて培った知識や経験があるけど、こっちでは赤ん坊も同然。

ライブラさんの教科書以外に、現場での経験を手に入れたかった……って言うとカッコ良すぎ?



『……』



すいません……

これは推測なんですが……

街に並んだ商品(魔道具)のほとんど……既存の魔力を使ってませんね?



『……はい。勇者の『創造』のカをもとに、量産(コピー)した物が大半です。

しかし、よくわかりましたね』



さすがにこの体(擬態)作るのに苦労しましたから、魔力と言うものの性質はちょっとわかったつもりです。

魔力(マナ)は自然物や生物、空気なんかにも含まれててそれを認識し使いこなす……並大抵のことじゃ出来ない。

かなりの大魔導士じゃないと魔道具なんて作れない。それをあんな沢山……しかも魔力の残存数が機能に対して少な過ぎる。

答えはおのずと出ますよね?



『……はい。

(ヤマダ様……思ってた以上に切れ者?)』



現代商品の紛い物もそうですが……

違法奴隷。

あれも良くない。禁忌魔法程度なら既存の魔力と多大な犠牲(人的)だけで済むんでしょうが……



『何か問題でも?』



ライブラさんも気付いてない!?

……悪質ですね。

ライブラさん、首輪の魔力の流れをよく見てください。微量ですが使用者や周りから魔力を吸いとってます。



『……はい。でも、違法商品によくあるバグやムラの誤差の範囲内……えっ!?』


そうなんです……

微量過ぎて気付き難いんですが……

街の至るところに吸収されているんです……

模造品の動力源として……



『これは盲点でした……

微量の魔力を微量のリソースに変換……微量過ぎて、出どころが分かりにくいのに大量に消費される……』



この街だけでも、かなりの悪循環を作っていると思いますよ?



『……既存魔法でファンネルや破壊魔法(擬き)、創造魔法での完全なロボットの再現(魔力のみで)を成し遂げたウァサゴ様でも見抜けなかった盲点を……』



あの猫!そんなすごい(羨ましい)ことしてたの?!

やっぱ年取ってからのオタクは発想力が足りないか……



『すごいことですよ?!

現役の神様より魔力が見えるって!』



そっかな……

(多分……大雑把な性格で、なんとなくわかったら原因ごとチュドーンしてきたからなのと……

面倒なだけだと思うけど?……)


あと……原因がわかったとしても、具体的解決方法が自分がいるだけ……


特に目的もなく、ましてや世界を救うとか虐げられてる人を助けるとかって大層な志があるわけじゃないのに……

俺、強ええ、からってしゃしゃり出るのなんかねぇ……違うでしょ?無意味にカを振り撒くの自分の主義に反するし……趣味じゃない。


ってのがもう1つの理由……かな?


ま、ただボケっとしててもつまんないから、それなりにリソースがまわりやすいように心がけるよ。



『……わかりました。

そうなるよう、全力でサポートさせていただきます。

やはりヤマダ様は真面目なんですね?今まで見てきた正義感たっぷりの勇者達とは違った……なんと表現しましょうか』



大人なんだと思うよ?

いやね、僕も男(男の子)だから異世界ヒャッホーってハジけたい気持ちはわかるし、全くそうしないとも言わないけど……

人間40年も生きると多少落ち着くんだよ、たぶん。


『そんなものなんですかね……と、しんみりしている余裕はないようです。

予想通り、通関職員達が気付いてこちらに向かっているみたいです』



わかった。

まあ、顔も服も要所要所で変えてあるし、今もどっかの『トモダチ』張りに特徴のない影の薄い顔に変えてあるんだけど……




~…~…




「ゼェ、ゼェ、ゼェ」



『……ヤマダ様、いい加減能力を使いましょう。

あのようなザコキャラに全力疾走で逃げるのは神(ウァサゴ様)の体を受け継ぐ者としてどうかと思います』



「ゼェ、ゼェ……

いや……つい癖で……ゼェ。

身体強化……ゼェ、やら、魔法でってことで……しょ?

ゼェ、ゼェ……ふう……」


いまいち馴染んで無いんだよね……



『……まず、人間の擬態を解きましょう』



「あ!そうか~

そりゃそうだ」


人間に似せるのにくっ付けただけの体じゃ邪魔でしかないか~

いや~失敗、失敗。



ボフンという擬音がしそうな勢いで魔力を拡散させながら擬態を解く。




ここは舞い降りたノッピ平原のど真ん中。

隠れる為の遮蔽物も無いが、追手も察知しやすいとここまで全力で走ってきた。




『とりあえず追って来ないようなので……説教です!』



「はい……」



『まず、自由に能力が使えるようになってから使用の制限をしてください!

“死なない”とはいえ、肉体は滅ぶことがあります!そして痛みは感じます!』



「ぐっ……」



『さらに!地獄巡りの間はリソースがストップします!そんなことになったら本末転倒です!

わかります?

本来、事故で死んだだけで普通にあの世に行くはずが地獄に行く事がどれだけ!』



『まあまあ、それくらいにしてやるニャ』



「『えっ?!』」



「猫……」

『ウァサゴ様……』



『ホログラムニャ。

あんまり長い時間これやると問題があるから手短に話すニャ。

ちょっと初期設定のミスでリソースが自動で散布できないみたいなんだニャ……すまんニャ。


ニャので、手動でリソースを拡散して欲しいニャ。詳しくはマニュアルⅣのЮに添って……ライブラ?だっけかニャ?に聞きながらやってニャ』




『畏まりました』


「……猫め、わざとだろ?」



『何のコトかニャ~

じゃ、健闘を祈るニャ

ヤ・マ・ダ・タ・ロ・ウ』




突然現れたホログラムは、やはり現れた時同様突然消える。




「あの猫……絶対故意にやってんだろ……」


自分の事故死も、リソースの手動化も……



『……丁度いいです。ヤマダ様の快適な異世界ライフの為にも、リソースの効率的な拡散の為にも能力のスムーズな使用を伝授致します』



「はい!ライブラ先生!お願いします!」


痛いのは嫌です。

そしてこの際だから異世界ヒャッホー致します。



『その為にはまず、能力を全部把握しましょうね?』



「サー、イエッサー」





異世界到着から7時間、やっと異世界ライフが本格的に始まりました。




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