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野球と彼女  作者: 青獅子
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野球の話

4月初旬。大学進学のため上京したばかりの俺は神宮球場にいた。神宮に訪れるのは初めて。俺自身は広島出身ということもあって、熱烈なカープファンだ。今年こそは日本一になってくれると信じている。そして、この日はヤクルト広島戦を観戦。カープの関東における初戦だ。


・・・しかし俺が座った席は一塁側の内野席。理由は単純にこの日、そこしかチケットがなかったためだが、周りはみんなスワローズファン。緑のユニが目立つ。そして大量の傘が舞う。カープファンの肩身が狭い。ここって神宮広島市民球場じゃなかったのか。それでも俺は赤いユニフォームを着て、赤いメガホンを両手に持って声を上げる!




「ったく、広島ファンっていっつも一塁側に座ってんのよ。こっちだって神宮開幕戦なのに・・・」




カープの攻撃中、後ろの席に座っていた少女が俺に声をあげてきた。こっちは声を出して応援しているんだぞ。歳は中学生か高校生。大学生の俺からすれば年下だ。身長は150cmくらいで、綺麗に整えられた黒髪と雪のように白い肌が特徴の美少女だ。そして、結構年代物のユニを着てる。現役の頃の宮本ユニ。ストライプ時代の前田(1番)ユニを着ている俺が言うのもアレだが。




「ライトに座ってるんじゃねぇからそれくらい我慢しろ!」




カープの攻撃が終わると、俺はその少女にこう言葉を返した。そして、




「球団は赤い傘出すわ、ファンは我が物顔で一塁側やライトスタンドに座るわ、ほんとこのチーム大嫌いだわ」




試合中、その少女の愚痴が止まることはなかった。しかも俺に向けて言っているような気がするし。でも彼女はスワローズの攻撃中、誰よりも大声を上げて応援している。で、試合はカープが勝った。俺はカープの勝利に浮かれる一方、彼女はスワローズの負けを誰よりも悔しがっていた。自分が負けたような感情を出していた。試合後、俺はその少女に尋ねた。帰り道も同じ方角だ。お互い徒歩で家に帰るようだ。




「君、名前は?」


「あんたの方から名乗りなさいよ」


「俺?沖山太一(おきやまたいち)。春から大学生」


「私は石見絢音(いわみあやね)。春から高校生よ」


「君も歩きみたいだけど、近くに住んでるの?」


「うん。渋谷区千駄ヶ谷(せんだがや)


「・・・マジか。ご近所さんだな」


「あんたもいいとこ住んでるね」


「ああ。でも叔父さんの家だし、マンションだけどな」


「ふーん」




俺は絢音ちゃんとああだこうだ話しているうちに叔父さんの家に着いた。俺はここで下宿している。




「あんたのマンションここなの?私も近くに住んでるしここでお別れだね。また明日も明後日も試合だから、会えるといいね」


「そうか。じゃあまた明日、球場で」


「会う機会があればね」




俺は絢音ちゃんとこう言って別れた。そして、翌日もその翌日も俺と絢音ちゃんは神宮球場でお互いの贔屓チームを応援していたのは言うまでもない。2日目以降は俺がレフト席で、絢音ちゃんがライト席を買っていたので、かち合うことはなかったが。いや、バックスクリーン裏で会ったわ。バックスクリーン裏で売っているカレーライスは美味しいらしい。俺もそのカレーを買ったが美味しかった。絢音ちゃんもこのカレーを絶賛していた。




そして、この3日間で俺が絢音ちゃんについて知ったことを書き足しておく。絢音ちゃんの家は俺が下宿しているマンションからすぐ近くだった。下宿先から徒歩1分のマンションで、最上階全部絢音ちゃんの家だそうだ。しかも駐車場には高級車が何台も止まっている。さらに言うと、絢音ちゃんは政治家一家の生まれで、祖父、そして曾祖父は元総理大臣という筋金入りのお嬢様でもあった。まあ、俺も親父が会社社長で叔父さんが弁護士だからお金は持っている方だと思っていたのだが、絢音ちゃんは格が違った。元のステータスが違う。正直、絢音ちゃんがお嬢様すぎて俺が卒倒するレベルだ。こんなお嬢様、本当にいたんだな・・・




そして、金曜日からのヤクルト対巨人3連戦。カープは広島に戻ったが、俺はまた神宮に立ち寄った。今度はライトスタンド。いつも傘が舞うスワローズ応援席だ。絢音ちゃんがこの3連戦も、神宮のライトスタンドで傘を振り回し、誰よりも大きい声で選手に声援を上げていたのは言うまでもない。

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