篠宮慶の場合
僕は、人生のらりくらりと過ごしてきた。
長男に生まれ、跡取りとして育てられた。
僕には2人弟がいる。僕より勉強が出来て、僕よりなんでもできる。
周りはみんな僕より弟が次期当主に相応しいと口をそろえた。
そんな声に耐え続けた僕は顔に笑顔を張り付けることができるようになった。
親からも愛想だけは良いと言われた。
こんな僕にも学校でも気の知れた友達がいる。
4人でいるといつも安心する。そして普通に笑えている気がした。
いつも喧嘩している聖と穂乃果。それを見て呆れながらも笑う彼女。
その日はたまたまやってきた。初等部高学年の時だ。
夏期休暇いつもは聖や彼女の家に集まることが多かったが、その日は僕の家だった。
その日は屋敷に両親そして弟、父の兄弟である叔父もいた。
出来れば紹介したくなかったが、彼女に僕の家族を紹介した。
両親、叔父は「神宮司」と言う名前を聞いて目を光らせた。
そして彼女に対し僕を出来損ないや使えないだとか散々僕を貶して、
僕と仲良くするより弟と仲良くしてくれと弟を紹介した。
僕は昔からの癖で何を言われても平気な振りをして笑顔を取り繕っていた、そうその時も。
ふっと彼女の顔を見ればそれはもう凍ったような顔をしていた。今思えばその顔を最大限蔑みの表情だったのだろう。
部屋に戻った時、彼女は僕に言った。「何故笑っていられるの?」
その瞳には涙が溜まっていた。
「だって笑っていないと絶えれない」その僕の一言に大粒の涙が彼女の頬をつたった。
なぜ泣くのかと問えば今まで泣けなかった分代わりに泣いてるのと答えた彼女に
思わず笑みがこぼれた。それと同時に僕の心に温かいものが注ぎ込まれたような気がした。
不思議と僕の頬にも涙がつたった。それを見て彼女は微笑む。
その笑みを見て僕の涙腺は決壊した。今まで溜めていた涙が溢れ出て止まらなかった。
そんな僕を見て抱きしめ頑張ったねと褒めてくれる。
聖と穂乃果が来たとき僕たちは泣きつかれてその場で眠っていたが僕と沙耶花の涙の痕を見てそっとしておいてくれた彼らには感謝している。僕は良い友達をもったと思う。
それから僕の心の逃げ場は彼女となった。
弱音を言える唯一の人だ。
彼女はどんどん綺麗になり、人々を魅了していく。
どんどん遠くなる彼女の存在に僕は焦った。どうしたら彼女の隣りに立てるか。
そして気付いた、僕は弟に抜かれて悲観していただけで追いつこうと努力をしたが挫折し努力をやめていたことに。
僕はもう一度、努力した。苦手な勉強に必死に食らいつき、そこまで得意ではない武術を学び聖には少し劣るが同格に戦えるようになるまで頑張った。
これでようやくライバルたちと同じ土俵に立てたと思えた。
もし彼女と出会えていたなかったら?今でも心の拠り所を知らずにピエロになって、努力を知らずに自分の人生に悲観し嘆いていたと思う。それを救ってくれた彼女、そしていつも一緒にいてくれる友達のおかげでやっと自分に自信がもてた。
さぁ、ここからが本番だよ。彼女が欲しいのは僕も同じ。
誰かに譲るなんてさらさらないよ。
僕は君が欲しい。それ以外はなにもいらない。