1章ー1
外は雨が降っている。
目の前のブラウン管には、今人気の女子アナが今日の天気予報をしている。
『群馬では昨日からの雨が夕方まで続きますが、明日からのゴールデンウィークは快晴が続くでしょう』
そうか、明日から休みか。コーヒーを飲みながら榊蓮は時計を見た。
6時半、今年で中2になる息子の颯太が起きてくる時間だ。小学生の頃からやっているサッカーは中学生になった今でも続けている。来月試合があるらしく、毎日6時半には起きてくる。
「んはよ」後ろから声がした。「おぅ、今日もやるのか?雨らしいぞ」
と窓を指差した。予報どおり、昨日から降り続けている雨は、まだまだ止みそうに無い。
「ううん。今日はさすがに出来ないって、さっきメール来てた。でも、いつもこの時間に起きてたから、体内時計で起きちゃったんだよ」
「だよな、この雨じゃな。」そう言いながら、もう一度時計を見た。
6時48分。
「やべ、バス来る。そろそろ行くわ」そう言って蓮は、コーヒーを流し込んだ。
「うむ、頑張って来てくれたまえ」颯太は、敬礼のポーズをしながらニッコリと笑った。
敬礼のポーズを返す。警察官だった颯太の祖父が小さい頃から好きだった颯太は、祖父がなくなった今でも敬礼のポーズをよくする。
バス停には、いつも通り5・6人のスーツ姿の男性と学生服の女の子の姿があった。
ギリギリ間に合った。バスはまだ来ていない。雨の日は車の免許を持ってる人が羨ましくなる。弱視のため、車はおろか、原チャリの免許も取れないのだ。両手の風呂敷が重い。
榊の仕事である判事のいつもの荷物と言えば、紫の風呂敷である。中には、裁判で使う資料で、公判前に読んでおかないといけないものだ。
空の谷間から、太陽が顔をのぞかせた。それとほぼ同時に、バスが停留所に滑り込んだ。