001.全てが始まる日
昔書いたのを漁ってたら見つけました。
とりあえず投稿。設定はベッタベタですが、暇があるときに少しずつ執筆してこうと思います。
―――殺せ。
燃え盛る火焔の中、只々家族が喰われていく光景を眺めていた。
動こうにも力が入らない。助けようにも勇気がない。
どうしようもなく、体を震わすばかり。
『逃げるんだ! 今ならまだ―――、ぁ』
『逃げなさいッ! 生き延び―――、ぁ』
父さんも母さんも、何かを言い終える前に屠られた。
最後に小さく感嘆の声を零し、悲鳴を上げる暇も与えられない内に喰い殺された。
『お兄ちゃ、助けて……、助けてぇえええッ!』
生まれた時から面倒を見てきた最愛の妹。
助けを請われた。悲鳴が届いた。
―――けれど、体が動いてくれることは無かった。
きっと、このまま助けに向かえば、自分が殺される。
そんな恐怖に打ち勝てないまま、その間に妹も殺された。
『オイ、モウ一人イルゾ』
『ドウスル』
『モチロン殺ス。ソレカラ、喰ウ』
家族を、より正しく言えば里を。
いやらしい笑みを浮かべながら、嬉々として里の人間を殺しては喰らっていった妖怪の群れ。
その内の三匹がこちらへゆっくりと、だが確実に近付いてくる。
『逃ゲナイノカ』
逃げられるわけがない。
『情ケナイ人間ダナ』
だから何だってんだ。情けなくて、何が悪い。
『マァ下手ニ動カナイ方ガ楽デイイカ』
楽? 何が……、あぁ俺を喰うのにか。そら下手に喚かない餓鬼を喰う分には楽でいいだろうよ。
ほら、一思いに喰らってくれよ。
家族はもういない。住むべき里も滅んでしまった。
行き先のない俺が生き続けたって、何の意味も見出せない。
『恨ンデクレルナヨ。弱イヤツハ強イヤツニ喰ワレル』
『ソレガ自然ノ摂理ッテヤツダ』
『人間ノヨウニイウナラ、弱肉強食ッテヤツカ? ダカラ―――』
―――、――――。
妖怪が何かを言っているが、聞こえない。
つい先ほどまでは聞こえていたはずの、音という音が届かなくなっていた。
それに伴うように、次第に遠退きはじめる意識、暗くなる視界。
全てが暗転する寸前、悍ましい何かが聞こえた。
―――殺セ。
† † †
とある里が大勢の妖怪に襲撃を受けている。
知り合いからそう聞かされ、駆け付けた少女が見たモノは、
―――すっかりと変わり果てた、荒野とも言うべき『里跡』だった。
大地にはぐちゃぐちゃになった肉塊がばら撒かれ、到るところに血飛沫が飛んでいた。
そして、その上に覆い重なるようにして倒れ伏す、幾数もの妖怪たちの姿。
「何よ……、これ……」
誰がどう見ても『異常』だと答えるような、荒れ果てた里。
人も、動物も、妖怪も、何一つとして命の灯火が残っているものはなかった。全て、消えていた。
「何が……」
そこで少女はふと気付く。
この光景の、本当の意味での異常さに。
―――どうして妖怪までもが死んでいる?
人はともかく、どうして里を襲撃した側の妖怪たちが死んでしまっているのか。
……いや、違う。これは、
「―――殺されてる、わね」
「……、紫?」
背後に広がった薄暗い裂け目。
そして、その内部から身を乗り出していた知り合いの名前を呼ぶ。
八雲、紫。
「アンタなら分かるんじゃないの? この惨状……、どう見ても異常よ」
「さて、ね」
不敵な笑みを浮かべ、紫は続ける。
「分かるかもしれないし、分からないかもしれない。どちらにせよ時間が必要よ」
らしくない、と霊夢は思う。
基本的に、この八雲紫という妖怪は完璧主義者であると霊夢は記憶している。よって、普段から物事を曖昧にすることが無かった。
その紫が、言葉を濁していた。
「ほんとに、らしくないわね」
「……そうね。自覚はしてるわ」
少し悔しそうに言う紫だったが、すぐにその表情に笑みを戻す。
すると、何処からともなく扇を取り出し、口元を隠すようにして開いた。
「なんとなく予想はついてるのだけど、ね」
「……は?」
傍に倒れていた妖怪の死体を見下ろしながら紫は呟く。
それを聞き逃すことなく耳に入れた霊夢は、素早く後ろへ振り向くが、そこに紫の姿はない。
逃げたか……。
霊夢は特に探そうとはせず、かつては里が在ったはずの其処へと素直に向き直る。
いつものことだ。嵐、というよりは微風の如く現れ、何も残すことなく消え失せる。
「はぁ……」
一息おいて、
「さて……、まずはいつも通り、勘に従って動いてみるか」
ありきたりな復讐モノ。
良かったら評価とか感想を頂けたら嬉しいです。今後の参考になりますので……。
あと、東方奏霊夢の方もよろしくお願いします。