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「うっわぁ〜、のどか過ぎだろ‼︎」
只今、借りたてホヤホヤの馬車の上に乗っかって、大声をあげて周りの人からドン引きされてるのはお気づきでしょうか。そう。スリにあった挙句、通りかかりのお姉さん(地味にヤンキー)に拾われて旅に出たフラベクト。
「フラット〜あぶねぇぞー引かれてるぞー落ちても知らねーぞー。」
「カルナさん心配しすぎですよ。それにしても、街から1日移動しただけでこんなに長閑になるなんて、僕、初めて知りましたよ。カルナさん知って」
「んだからぁっ‼︎カルナでいいって言ってんだろが。それと、お前どんだけ、引きこもってんだよ。子供ん頃に何して遊んでたんだよ。外で遊んだりとかさぁ。」
僕等人は、昨晩、街を出た後に少し移動してから適当な所で野宿でもしようとしたが、何しろ、二人とも初めての野宿で、興奮してたゆえに一睡もできなかったのだ。しかし、それでも睡魔が襲ってこないのは、2人ともハイテンションだからだろう。カルナさんはどうか知らないが、僕はハイテンションだ。
「子供の頃は家で本読んでましたね。買い物も街の中にいれば大丈夫でしたし、そもそも街の外に出ることなんかなかったですしね。カルナさんは外出てたんですか?」
「孤児院で働いてたしな。あの孤児院、託児所的な役割もしてたし、近所のガキの相手もしてたからな。ガキが街の外に出ちまうこともあるんだよ。それとフラット。カルナさんは止めろ。カルナにしろ。」
「カルナさんの方が年上なんですし、さんでいいじゃないですか。…それにしてもですね。」
ここで僕は、旅に出た時から気になっていたことを聞いてみる。
「……なんで馬車、買ったんじゃなくて借りたんですか?そもそも、荷物も少ないじゃないですか。馬は必要だから買っても良かったんですけど。」
「最初は馬だけでよかったと思ってたんだよ。けどな、なんかでもらった一回馬車無料貸し出し件があったのを思い出してな。折角だから最初くらい馬車でいいかなって思ってさ。まあ、つぎの街で返すつもりだけど。」
まさかの無料貸し出し件登場。今更気付いたけれど、カルナさんって一体何者なんなんですか。
そんなこと考えてると、少し眠くなってきた。まぁ、昨日は寝てなかったし今日は今日で3月とは思えないポカポカ日和だし、眠くなるのもしょうがない。
……なんか簡単に旅に出てきたけれど、ダメダメ魔法使いと治癒術師で、旅なんてできるのだろうか。カルナさんは格闘技出来そうだけど、一応期待はしないでおこう。僕は格闘技は駄目だし、魔法だって初級しか使えない。それも、コントロールが全然出来ないからもしかしたら失敗するかもしれない。二人とも戦闘が駄目だとすると、戦える人が欲しいなぁ。魔法、知識なら沢山あるのに、使えないんじゃ意味ないか。
「…い……フラ……」
格闘技習うにしても、僕に素質なんて無さそうだし、無理だな。
「きぃ……おい…フラット……」
「んっ……なんですかカルナさん…今僕考えてるところなんです」
「盗賊だっ‼︎起きて戦え‼︎」
まさかの盗賊登場。噂をすれば何とやらだよ。ってこんなこと考えてる場合じゃない。僕は馬車から降りて杖を構える。卒業した時に祝い品として学校から貰った杖だ。先端にちっちゃな石が入っていて、僕の身長の半分ほどある。その杖を構えて初級呪文を詠唱する。
「土よ。大地よ。草花よ。我が願いを聞き届け、形にせよ。草花の阻害‼︎」
………何も起きない。
「アッレェーコノマエハデキタノニナァー」
恥づかしい。
「でっできないんならいいぞ。あたしがっやるっ‼︎」
すっごいもさもさ髭の盗賊Aが言う。
「嬢チャァン。あの子は弟チャンかなぁ〜?しっかり守れるのかなぁ〜?守れなかったら持ち物全部置いてってくれればなぁんにもしないよぉ〜?」
……弟チャン……
「うっセェ‼︎兄弟じゃないっんっだよっ‼︎」
ごめんなさいカルナさん…格闘技出来たんですね。強面盗賊さん達をボッコボコにしていってる。
「‼︎っこいつっつエェ‼︎おいッ撤退ダァ‼︎」
「逃すかクズどもが、牢獄入ってろぉ‼︎」
あーあ全員ボッコボコにされちゃった。
一仕事終えた感じのカルナさんがこっちを向く。
「……フラット…まさかここまでダメだったとはな…鍛えがいがありそうだ…。」