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「はぁ〜、なんなんだよ、それ。」
カルナは呆れていた。勿論、原因は青もふことフラベクトだ。
話を聞く限り、街にはあまり出てこない引きこもり体質らしい。しかし、フラベクトはこの街出身だそうだ。この街は引きこもってたら風景変わってましたーってほど活発な街ではない。学園の方に行けばありうることかもしれないが、彼がスリにあったのは何処にでもある商店街。スリにあったのは彼の不注意だ。
「んで、これからどうするんだよ。フラベクト。」
カルナが話しかけると、フラベクトはむっくりと頭を上げ、死んだ魚の様な目で言った。
「どうするも、実家に帰って母さんに怒られるか、どっか遠い所で母さんにバレない様に働くかしかないよ。」
そう言うとフラベクトは頭を抱えた。
「でもさぁ〜遠くに行くにはお金が必要なんでしょ?母さんに見つからない様な所に行けるようなお金なんて持ってないよ。消去法で実家に帰って母さんに怒られるしかない。
あぁあ〜なんか人生終わった気分。」
カルナは更に呆れた。話を聞く限り、フラベクトは実家に帰りたくないそうだ。ならばまだひとつ、とても良い案がある。
「なぁ、金稼ぐってのはどうなんだよ。今日卒業ってことはお前まだ二十歳行ってないだろ。今が一番いいんじゃないのか?あたしが言うのもなんだが、若いだろ。なんだったらあたしが紹介してやるよ。八百屋でも。商店街だったらお前の母親も気づかねぇだろ。」
「……僕に接客とか商売ができると思いますか?」
無理だ。カルナは直ぐに分かった。持ち金の殆どをスラれてしまうような人間に商売ができるわけない。
フラベクトは変な唸り声をあげて悩んでいる。相当実家に帰るのが嫌なそうだ。
少しの間考えたあと、カルナの頭の中に名案が浮かんだ。
ーそうか。その手があったか。これならあたしにも得がある。一石二鳥だ。ー
「なぁ、金はあたしが出してやる。それでどうだ。」
「ふぇ?」
フラベクトはお決まりの顔をした。カルナはとても良い気分だ。
「お金出すって、えっ、いいんですか?そんな簡単にお金出しちゃって。」
「ああ。但し、条件がある。この条件を飲み込めなかったら金は出さない。」
「条件…い いいですけど…あっ死ねとか無理ですよ?まだ40年は生きていたいし、あと犯罪とかも…」
「んな変な条件じゃない。簡単な条件だ。」
そこまで言うと、カルナは息を吸い込み、胸を張って言った。まるで、上司が部下に命令する様に。
「その旅、あたしも一緒に行かせてくれ。」
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歩き続けた。体力はまあまあある方だった。体力テストのシャトルランだって平均以上だった。しかし、ローファーに制服、見知らぬ土地で言葉が通じないというハンデを持った百香はヘトヘトだった。
(さっきまでは友達の家に居たのに、玄関出た瞬間にこれだもん。携帯圏外だから救助も呼べない。なんなのよ。)
住宅街から少し外れた森の中、百香は何度かもわからない状況整理をした。
(まず。言葉が通じない。お金が違う。これらのことから、日本じゃないことは、わかる。次に問題なのが、街の外見。ひとの服装。どの家も煉瓦で出来ている。まずそれは現在でも考えられる。けど、服装がへん。RPGに出てきそうな服装だし、鎧とか着てるし。)
そこで百香は頭を抱えた。一番の問題点だ。
(鎧ならわかる。コスプレ。とんがり帽子もわかる。コスプレ。でも、さっきのはなんなの?ものが浮かんでるって、杖から炎って、呪文で怪我直すって、魔法?魔法なの?)
百香はしゃがみこむ。
(魔法以外で説明はつかないよ。ポルターガイスト現象と杖から炎はなんかのトリックだとしても、呪文で怪我直すってどうやって説明つけるの?魔法だったらここはどこ?異世界?ゲームの世界?だったらなぜ?何故私なの?)
考察はまた降り出しに戻った。
「ぁあっ〜っ。なんなの?何処なの?ってかなんで私なのっ‼︎」
叫んだ途端、すぐ近くの茂みでガサガサっと音がたった。
百香はビクッと体を震わせるとゆっくりそっちの方を向いた。
音がたった方から人が歩いてくる。ゆっくり、ゆっくりと。
百香は怖かった。人だとわかっても。
人は茂みから出てくるとゆっくりと百香に話しかけた。
「Awntw nrjmt"t.mjt s’yegu,trjwsvmjyseg!
gavaxu?」
「キャャャャャャャャャァァァっ‼︎」