ツンデレ=感情表現が不器用な人?
桜の咲きそろう頃、俺は何の苦労もせずに名門校に通学することになった。
苦労しなくても、勉強がすんなり入ってくるし、運動神経もいい、そこらへんの男よりもカッコいい。そんな俺にも誤差が会った。
その誤差こそが、俺の目の前に座っている女、星野瑠衣。小、中と一緒で家は俺のまん前にある。子供のころは良く遊んだが、中学になるとお互い距離を置き、めったに会わなかった。しかし、高校になり席が前にあるという地の利を生かし、ゴールデンウィークのあけた直後、ヤツは本領を発揮し始めた。
瑠衣が付きまとい始めたからというもの俺にはいいことが起きなかったのだろう。
え〜、確か今は三時間目、教科は数学。
簡単な計算問題だけで、俺が退屈して欠伸をしていると、いきなり俺の視界が瑠衣の顔に占拠された。
俺は慌てて後ろに仰け反る。そして遠くから瑠璃であることを確認する。
真っ黒な瞳に、桃のようなピンク色の唇、長い髪を綺麗に整えてヘアピンなどで頭を飾っている。外見としては普通だろう。けど、頭の方は猿さみのはずなのに、なんで俺と一緒の高校にいるんだよ!
「ねぇ、直人。授業めんどくさい」
直人ってのは俺のことで、正式名は赤石直人。以上、説明終わり、終了。自分のことを言うのって嫌いなんだよ。
「おい、そこちゃんと授業聞け!」
担当の教師が指をさし注意をする。
「すいません、ちょっと分からないとこがあったので直人に聞いてました」
「おっ、あ、そうか」
教師は口ごもり黒板に向かう。
よくこうも平然と嘘をつけるものだ。
そんなこと思っているうちに授業終了のチャイムが鳴り響く。俺がいそいそと教科書を片付けていると、瑠衣がお弁当を持ってたっていた。
「ねぇ、直人。私今日は屋上でお弁当をたべるの」
「そりゃ〜ご苦労なこった。光合成でもするのか?この暑い中」
「ばっかじゃないの!早く行くわよ」
瑠衣はあきれたように両手を広げて言う。
「『行くわよ』ってなんだよ。俺は教室で食うから」
「いいから来なさい」
そういって瑠衣は俺の手首をつかみ、一緒に屋上まで向かった。もちろん弁当持参で。
屋上の扉をあけると、予想以上の炎天下。
建物で、日陰になっている場所を探し、俺たちは腰を下ろす。
「わざわざ、何で屋上なんだろ」
おれは弁当箱を広げて瑠衣にたずねる。
「だって今日は五月七日よ」
「意味が分からん」
「明日は私の誕生日よ!まさか忘れてたの?」
瑠衣は普段の柔らかい顔を崩し、ツリ目で俺を睨む。
「覚えてないといえば嘘になるけど・・・・・・・・・・・」
瑠衣は沈んだ様子だったが、急に目の色を変えた。
「まぁ、いいわ信じてるし。あっ、タコさんウインナーもらいっ」
そういって、俺の弁当箱からタコさんウインナーをつまみ出す。
「おいおい、子供じゃないんだから。返せよ」
そういって、やっぱり子供みたいにじゃれあった。
その後ももちろん授業があって、俺は適当にノートだけとってすべての授業を終わらせた。
放課後になり、俺は少し遅れ帰り支度をしていると、メガネをかけた三つ編みの少女が近づいてきた。
「ねぇ、赤石くん。ちょっとさっきの英文わかんなかったんだけど、教えてくれる?」
両手をあわせ懇願する。
それで、俺が名前もよく分からない女に勉強を教えている。すると、掃除当番でまだ学校に残っていた瑠衣が、床を掃きながらチラチラとこっちを睨んでくる。
掃除終了のチャイムがなると、瑠衣は疾風の如く箒を片付け、俺の方に向かってきた。
来るやいなや、俺の胸倉をつかむ。
「さぁ〜直人。帰るわよ」
「今はこの子に勉強を教えてんだよ。ちょっと待ってくれ」
「は、はぁ〜ん。直人はメガネ属性があったと!」
そういって瑠衣はメガネの子を品定めするように見る。
「メガネを掛けていない私の言う事は聞けないと!」
「なにいってんだよ?」
「いいから帰るわよ!今日は一緒に帰らなきゃだめなの」
そういって俺のバッグをとりあげると、ズカズカと俺をおしながら学校を出た。すまないメガネの人、明日ちゃんと教えるから。とか思いながら。
俺たちの家は学校から歩いて帰れる距離なので、当然歩いてきている。ってか自転車は認められていないんだよ。不便なこった。
くだらない会話をしながら歩いていると、瑠衣がある店に寄ろうと言い出した。そこは古くからあるアクセサリーショップだ。俺が小学生のころにできたのやつだ。はじめは人気だったが所詮は田舎にあるアクセサリーショップ。黒い碁石の中にある白石のようなもの。今じゃほとんど客はいない。
それでも構わずに瑠衣は店に入っていく。
「店長さん、まだあれ残ってる?」
店に入ると同時に瑠衣は大声でそういった。すると奥の方から小さな箱を持った店長らしき男が現れた。
「おっ、瑠衣ちゃんか。まだ残ってるよ」
瑠衣は頻繁にこの店に通っているのか?なぜか店長と仲がよさげだ。
店長は、瑠衣に箱を開けて見せる。
そこには十字架のアクセサリーがあり、中央に吸い込まれそうなほど綺麗なガラス細工が施されていた。
これは確か、小学六年のとき瑠衣が気に入ってたものだ。これが残ってるって、この店は大丈夫か?
瑠衣の輝く目を見てから、俺は確認のために聞いてみた。
「これって、お前が気に入ったやつだよな」
「やっぱ覚えてたんじゃん」
そういって瑠衣は目を輝かせた。
「そりゃ覚えてるさ。小6のときお前ずっと見てたからな」
そういって二人で笑った。
このとき俺は何も分かっていなかった。それが瑠衣にとってどれほどのものか。忘れていた。
次の日の朝、俺がざわめく教室で勉強していると珍しく瑠衣が遅刻しないで入ってきた。
俺の前の席にバッグをおろすと、こっちに向き直る。
「ねぇ、直人。渡したいものがあるならもらってもいいわよ。約束のものあるんでしょ?」
彼女は顔を赤くして、目線を合わせずに言う。
「渡したいものって何だよ?」
俺は少し笑って言う。
「だから、今日は私の誕生日なのよ」
「あっ、そうだったな。帰りになんかおごってやるよ」
「は、バッカじゃないの」
そういって瑠衣は憤慨する。
「バカバカって、お前の行動はよく分からないんだよ」
すると瑠衣は黙り、顔をトマトのように真っ赤にして、次第に瞳が潤み始めた。
「直人のバカ、バカ、バカ」
瑠衣はそういって、流れる涙も拭かずに教室を出て行った。
いったいなんなんだよと思いながらも、さっきの顔を思い出すと胸が痛んだ。俺はしばらくボーとしていると誰かに肩をたたかれた。メガネの子だった。
「赤石くん。私がこんなこと言っていいのか分からないけど、彼女あなたのことが好きなんだと思うわ。でも、その表現がうまくできないだけ。さっき『約束のもの』って言ってたじゃない。好きな人に約束を破られるのはとてもつらいことだと思うわ」
そういってメガネの子は離れていった。
彼女の言葉はグッと胸に突き刺さった。それとともに古い記憶がよみがえってきた。
まだ小6のとき、瑠衣があのアクセサリーに見入って離れないから俺は確か言ったはずだ。
「俺が高校生になったら、お前の誕生日プレゼントに買ってやるから、家に帰ろうぜ」
俺は思い出し、席を立った。そのまま学校を出て、あのアクセサリーショップへ向かった。
アクセサリーショップは相変わらず誰もいなかった。ただ店長がレジにいるだけ。
「すいません、瑠衣が昨日見てたアクセサリーください」
店長は少し訝しげな顔をしてから、アクセサリーを持ってきた。
「え〜と三万円になります。」
財布を確認するが到底そんな金額持ち歩いていない。
「頼みます、お金は絶対明日持ってくるので、それを譲ってください」
店長は少し迷っていたが一つの質問を投げかけた。
「君はもしかして直人くんかい?」
俺はうなずいた。
「瑠衣ちゃんから話は聞いてるよ。いつも言っていたよ『私の一番大好きな人がこのアクセサリーをくれるんだ』って」
そういって店長はアクセサリーを俺の手にそっと握らせた。
なんてあいつは不器用なんだよと俺は心の中で叫び、彼女の元へ向かった。




