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第九章


――――


 紅きデュラハン。

 この国で恐らく最凶の賞金首だった化け物を討伐すべく組まれた二十人の王属騎士と、一人の騎士隊長。

 終わってから結果を振り返って見れば、十六人の王属騎士の死と、二人の王属騎士、そして騎士隊長の負傷という大損害を被っていた。

 さらに滑稽な事に、デュラハンを討伐したのが騎士団とは全く関係ない詳細不明の二人だったのである。

 騎士団の威光は、多少なりとも減じられた。

 また、全体のおおよそ三分の一の騎士が失われた事で、新規入団者の再募集は時間の問題である。

 それが、私たちが宿屋に戻り、さらに三日経過した後のギルンデルクで持ちきりの噂の詳細であった。

「すごい騒ぎですね……」

 窓の外からの視線を遮るように広げられたカーテンの隙間を覗き見ながら、囁いた。

 三階の二人部屋で、私は窓際に立ち、そしてゼルスは椅子に座っていた。

 ゼルスもいよいよ全快となり、今日辺りギルドに報酬を貰いに行くのだという。

 証拠となる『鎧の破片』は巾着袋に入れて大切に保管してある。

「それはいつもの事だろ?」

 ゼルスは暇そうに新聞を広げていた。

 確かにこの町が騒々しいのはいつも通りなのだが。

「いえ、喧騒のほうではなく……。例の一件です」

 私がそう言うと、ゼルスは納得したように声を漏らした。

「ああ……」

 先述の通り、デュラハン討伐事件は町の間で瞬く間に広まった。

 そうなると、当然誰もが気になるのは『デュラハンを討伐した詳細不明の二人』である。

 平和な町らしく、各種新聞社や雑誌発行社は話題作りに忙しい。

 彼らを中心に、後は野次馬根性丸出しの一般市民も加えて、今も外では盛んに勇者探しが公然と行われている。

 その勢いは日が変わったところで弱まる様子もなかった。


 あの時、シレンの魔法でゼルスの傷をある程度癒した後、私とゼルスは足早に洞窟を後にした。

 討伐の証拠として、鎧の破片は拾っておいたが、それ以外の事は全て王属騎士に丸投げする形になってしまった。

 剣も落ちていたが、正直触りたくもなかったのでそのままにしておく事にした。

 あの後剣がどうなったのかは知る由もないが、そのまま放置されたかシレン辺りが持って帰ったかのどちらかだろう。


 シレンは、騎士隊長ともう一人の騎士の付き添いで洞窟に残った。

 私たちがその場を去るまで、騎士隊長が目を覚ます事はなかったが、噂によれば今は意識も取り戻し、事後処理に追われているという。


 帰りの道筋は私が覚えていたので、迷わずに抜ける事が出来た。

 逆に困難だったのは砂漠の方であった。

 無駄に広い砂漠を一時間ほどかけて踏破した私たちは、宿屋に倒れこむように入り、気の良いオカマにお世話になったというわけだ。

 オカマは想像以上に気の利く人だった。

 その時の状況から、恐らく私たちがデュラハン討伐に関わっているのであろう事を察した彼女(?)は、宿屋への宿泊者以外の立ち入りを禁止した。

 元々ロビーでくつろいでいたのは全員宿泊者だったし、営業には一切支障をきたさない。

 その上で、興味本位に探りに来る者たちをシャットアウトしたのだ。

 そのあまりの手際の良さには思わず舌を巻いた。

「で、どうするんですか? 今日、行くんです?」

 恐る恐る、といった感じで尋ねてみる。

 出来れば、否定の言葉が聞きたかったのだが。

「ああ。これ以上先延ばしにも出来ないしな」

「そうですか……」

 元々ゼルスがこの町に来た理由は、王属騎士になるためだった。

 私はただ偶然目的地が一緒だったために着いてきたただのお荷物。

 あの時私は、ゼルスを殺して財産をくすねようと思っていたわけだが、今はもうそんな気もなくなっていた。

 だから、私たちがこれ以上一緒にいる意味も必要も、ない。

 早ければ明日には、二人は別れなければならない。

 その事実が、あまりにも冷たく突き刺さった。


 過ぎるな、と思っている時ほど時間は早く過ぎ去るものだ。

 真横を指していた時計の短針は、気づけば真上まで登っていた。

 話したい事はたくさんあるのに、どうしても口に出来なかった。

 沈黙だけが、その場を支配していた。妙に重く感じる。


「そろそろ、行くか」

 ゼルスの声を合図に、私たちは支度を始めた。

 とは言っても、今すぐ契約的にこの宿から出るわけではない。

 だたの外出、ゆえに支度はあっという間に終わる。

 扉を開けたゼルスに着いて歩き、軋んだ音を立てる階段を降り、二階へ着くと折り返してもう一回降りる。

「あらァん? お出かけかしらァ~ん?」

 エントランスで、相変わらず気持ち悪いほどの美声にビブラードを効かせて喋るオカマが出迎える。

 そんな彼女にも慣れてしまっている自分が少し怖い。

「少し、ギルドまで」

 ゼルスはオカマに対しても大した反応をせず、簡素に言葉を紡ぐ。

「気をつけてねェん」

 傍から見れば無愛想だとも取れる彼に気を悪くする様子も見せず、ウィンクしながらオカマは言う。

 オカマの言葉に見送られて、私たちは外に出た。

 清清しいほどに晴れ渡った空の蒼が、お昼の町を彩っていた。


「わぁ、いい天気!」

 路地裏だと言うのに、差す日差しは眩しく暖かく、無意識の内に伸びをする。

 そんな私の姿を、黒い猫が物陰からじっと見つめていた。

 大きくもなく、小さくもない、極平凡な猫だ。

 黄色い瞳がギラギラ光っている。

 可愛いけど、昔から黒猫は不吉の象徴なんだよね……。と複雑な心境で見つめ返す。

 目が合った瞬間、黒猫はしなやかな身のこなしで屋根の上まで駆け上ると、行方を眩ました。

「どうした、行くぞ」

 ゼルスの声で我に返り、返事をしながら彼の元へ小走りで駆け寄った。

 入り組む路地裏を通り抜け、やがて中央通りに出た。

 いつ見ても、ここの喧騒は凄まじい。

 一昨日やって来たというキャラバンの一団も加わって、お祭りのように騒がしい。

 人の波を縫うように歩き、次々と視界に写る露店に目を向けていく。

 娯楽、食べ物、アクセサリ、武器防具、道具……。ありとあらゆるものがここに集っていた。

 興味も惹かれるが、それは今でなくてもいいだろう。

 やがて、通りに面した一際大きな建物が現れた。

『GUILD』と大きく描かれた看板を掲げたその建物は、薄茶色のレンガ製で、どこかドッシリとした安心感を与えている。

 ゼルス、次いで私はその建物の扉を潜った。

 中は随分と埃っぽい。しばらく掃除もしていないのだろう。

 見た感じ、バーのようであった。

 カウンター席もあるし、何より実際に酒を呷っている人がチラホラ見える。

 ゼルスは迷わずカウンターへ向かうと、オーナーらしき人物に話しかけた。

 私はこの建物の空気が何となく肌に合わなくて、扉のすぐ傍に立っている事にした。

 極力目立たないように、縮こまって彼を待つ。

 なので、ゼルスとオーナーの会話も聞こえなかったが、ゼルスが証拠品の布袋を懐から取り出したのは見えた。

 さらにゼルスが数枚の紙を取り出し、それを相手に手渡す。

 オーナーは目を丸くして、カウンターの奥の部屋へと小走りで向かっていった。

 私は何だか気になって、ゼルスの傍まで寄った。

 すると、近くのカウンター席でウィスキーの瓶を呷っていた無精髭を生やしたみずぼらしい身なりの男が、こちらを威圧してくる。

 咄嗟に彼のローブの裾をギュッと握った。

 ゼルスは無言で、気にするなとでも言うように首を横に振った。

 暫くして、オーナーが奥の部屋から戻ってきた。早口で、

「いやぁ、何分、これを渡すのは数年ぶりの事なものですから……」

 と、時間がかかった事に対する弁解をしている。

「さて、これが100P貯めた者へ賞与されるものですね。その名も『ジャッジメント・エヴィデンス』。

 悪を裁く者の証、です。」

 オーナーがゼルスに手渡したのは、金色のバッジであった。

 龍が描かれたそのバッジには、無条件に王属騎士になれるという特権がついている。

「確かに、受け取った」

 そう短く言うと、ゼルスは身を翻した。

 そして早足でギルドを後にする彼を、私は駆け足で追いかけた。


――――――――


「さて、一旦帰るか」

 ゼルスが言う。

「はいっ」

 本当は、少し買い物をして見たい。

 町のあちこちを見て見たい。

 そう思ったがとても言う勇気はなく、口を噤んだ。

 そして気もそぞろに歩いていると――。

 視界が蜃気楼のようにぐにゃりと歪んだ気がした。

 それも、一瞬だけ。瞬きをすれば元通りの風景。

 元通りのはずなのだが、違和感が残る。何かが足りない。

 気のせいだ。そう思い、ゼルスの後を追おうとする。

「あ、れ?」

 はっとして、周囲を見渡す。

 いない。ゼルスが、どこにも。

 さーっと、血の気が引くのを感じた。

 じつはまだ、この町の地形を覚えていないのだ。

 そもそもこの通りを歩くのはこれが二回目だし、同じような造りの道がずっと続くから、どこから裏路地へ入ればいいのか分からない。

 屋台は目まぐるしく移動するから、目印もない。

 いくらシーフとしての経験があったところで、このような場所を一回きりで記憶するのは無理難題だった。

「うーん……。つまりこれって……」

 迷子である。

 十四にもなって迷子とは、悲しすぎる。

 人の波に身体を押されながらも、両手で頬を叩いた。

「大丈夫、地理を覚えるのは私の得意分野でしょっ!」

 覚えるのは得意でも、無い知識を作る事は不可能なのは気にしない事にしよう。

 とりあえず、宿屋へ戻る道を探る。

 しかし、人の荒波に揉まれながらでは碌に回りも見渡せない。

 背の高い男性も多いこの通りでは、私の視界はほとんど直近の光景だけで埋まってしまうのだ。

「……この辺だったっけ」

 目に付いた、路地裏への道を眺める。

 とにかくこの通りから出たいという思いもあり、物は試しだ、という事で早速足を踏み入れた。

 レンガに挟まれた、人一人がギリギリ通れるくらいの仄暗い道を進む。

 肩が壁と接触するため、やや身体を傾けなければいけなかった。

 とても歩きづらいが仕方ない。

 無言で通路を辿った。

「……?」

 何やら後方に気配を感じる。あくまで勘だが、私は自分の勘には一定の信頼を置いているのだ。

 窮屈な角を曲がる際、来た道をさり気なくちらりと振り返る。

 確定的な姿は見えないが、確かに影が伸びていた。

 尾けられている。

 物騒な世の中だ。何が起きるか解りやしない。

 ここはさっさと撒くのが定石。

 そう思い、全く土地勘のない道を、なるべく多くの角を曲がりながら早歩きで通り抜ける。

 細長い空は淀んでいた。

 嫌な汗が、額に浮かぶ。

 全く知識のない町で相手を撒くのは至難の業なのを知っている。

 悟られない程度に足を回転させながら、祈るように行く通路を選択する。

 袋小路に嵌ってしまったらおしまいだ。

 そして赤レンガの角を曲がった時、私はほっと息を吐いて額の汗を拭った。

 選んだ道は袋小路ではなかったらしく、開けた場所へ続いていた。

……正確には、続いているように見えた。

 三メートルほどのフェンスが行く手を遮り、その奥は空き地なのか、広場になっている。

 フェンスに駆け寄り、ナイフを取り出して金網を切ろうと思ったが、時間がかかりそうだった。

 それに後ろを振り返れば、影はもうすぐそこまで迫っている。

 意を決して、腕を高く挙げると金網の隙間に指を差し込む。

 そしてするすると金網を登り始めた。

 シーフだった私にとっては、こんなもの障害物にはなりやしない。

 ものの数秒で金網の上辺へ辿り着くと、しゃがんだ体勢から膝を伸ばし一気に飛び降りる。

 着地も綺麗に決まり、そのまま駆け出そうとする。

 正面、左右三方向に入り口があった。迷う事なく正面の入り口を目指そうとすると、何者かが入り口に現れた。

 それも、正面の入り口だけではない。

 三方向、全てであった。

 全員、黒服に身を固めており、同じく黒色のハット帽を被っている。

 顔は雪のように白く、無表情に固められていた。

 それぞれが並々ならぬ実力者と思わせるオーラを漂わせている。

 警戒して、足を止める。

 構わず三人の男は一歩ずつ迫ってくる。

 背後には金網。その向こう側にも、同じように黒服が一人。私を追いかけてきた影だ。

 逃げられない。

 覚悟を決めて、ナイフを構えた。

「人生にコンテニューなどない」

 正面の入り口から現れた黒服の男は低い声で囁いた。

「そう、やり直しなど決してきかない。誰もが残機など持たず、一度きりの人生を謳歌している。じつに明瞭で簡潔な理だろう?」

 黒服は、口元に笑みを浮かべる。

 薄氷のように冷たい、凍りつくような笑みであった。

「なにを……」

「おや、貴女なら理解できると思ったがね? どうだい、盗賊は盗賊のまま再起不能、と言えば伝わるかな? どうかな?」

 はっと息を呑む。

 何故この男はその事を知っている?

 盗賊時代、私の顔を知っているのは、アジトのメンバーとそれから……。

「黄土色の町で、貴女に撒かれてしまった時は主人からこっぴどく怒られたよ。お陰で用心棒としての私の評判はすっかり地に落ちてしまってね。ああ、嘆かわしい。私は何も悪くないのに」

 至って平坦で冷静なしゃべり口調。

 用心棒と名乗った男は、つかつかと私に歩み寄る。

 硬直したように、身体は動いてくれない。

 気がつけば手からナイフが滑り落ちていた。

「あ」と小さく声をあげ、落ちたナイフへ視線を向ける。

 そして気がついた時には、男は目の前にいた。

 抗いようのない力で、胸倉を掴まれる。それも、左手一つだった。

 そのまま身体が数センチ浮かぶ。

「貴様のような、小娘に出し抜かれた間抜けな用心棒、と!」

 急に声を荒げた男は、乱暴に私を放り投げた。

 すぐ後ろにあった金網にぶつかり、寄りかかるようにして倒れる。

 男が指を鳴らすと、左右、そして金網の向こうにいた三人の黒服の姿がドロドロに溶け出した。

 そのまま旋風のように形を無くし影になると、文字通り地面に潜った。

 完全に地面に潜った三体の影は、まるで水の中を歩くようにぬるぬると移動を開始し、私を取り囲む。

 急いで起き上がろうとしても、力が入らない。

 そもそも起き上がったところでどうしようもないのは解っていた。


「そう、主人はお怒りだ。ご立腹だ。貴様が盗んだあの金は、非合法の奴隷売買で稼いだものなのだから。

 苦労して稼いだものを、一瞬のうちに掠め取られて発生した憎悪は、そう簡単に拭えるものではなかろう。そうだろう。きっとそうなんだろう。何故なら主人はキレているのだから」

 奴隷売買。大よそ人間の統治する全ての国家で禁じられている商売だ。到底人道的ではない。

 しかし、裏の世界では多くの奴隷が取引されているという。私が黄土色の町で盗みに入ったキャラバンも、裏ではそういうものに手を染めていたという事なのだろう。


 男がペラペラ話している間にも三体の影が土から浮上し、私の両腕を持って無理やり立ち上がらせる。


「奴隷にしたいところだが、貴様は力仕事は出来なさそうだし、しかも隙を見つけて逃げ出しそうだからな。うん、これは私ではなく主人の予想だが。

 聡明たる我が主人は、貴様を娼館に売り飛ばす事で許して下さるそうだ。寛大だ。仏のようだ。感謝したってし切れない」

 用心棒は快活に笑う。

 影の一人に羽交い絞めにされた私には、逃げ出す術などもうない。

 まさか、こんなところで、盗賊時代のツケを払う事になるなんて。

『人生にコンテニューなどない』

 一度盗賊に堕ちてしまえば、そこから這い上がる手段などないというのか。

「さて、夜になるまではここで捕らえておかなければならないんでね。暫くはじっとしていて貰うよ」

 黙って睨め付けたが、男はこちらには目もくれず語り続ける。

「いやぁ、運が良い。実に素晴らしい、ああ、とてもラッキーだ。まさか、こんなごった煮の町で、貴様を見るとは思わなんだ。

 私の得意の影魔法で、貴様を道に迷わせてあとはここに誘導するだけ。実に簡単な事だった」

 大げさに両手を広げ、目を瞑って感傷に浸っている。

「そうそう、助けなんて期待しないほうが身のためだ。私の影は最大七つまで複製可能でね。この広場を中心に、東西南北それぞれを影に見回らせている。

 うん、用意周到。油断の欠片もなし。これぞ成功の秘訣。主人もお褒め下さるに違いない」

「アンタ……そんな力を持っているのに、どうして悪徳商人の用心棒なんか……」

「ハハハ。簡単な事さ。私はかつて奴隷だった。過酷な環境下で、生き残るには飼い主を殺すしかなかったのだよ。うん、それで、ああ。

 あっという間に首を切り落として悦びに涙を流したものだ」彼は恍惚とした表情を浮かべながら続けた。

「しかし、奴隷だった私は人の上に立つ事など出来なかった。

 人は変われない。今日が終わったらまた変わらない今日が来る。人生にリセット機能は付いていないのだから。

 私は結局、人に雇われ、人の下で生きていく事にした。しかしながら、人を陥れる時の快楽は忘れ難くてね。

 他人の苦しむ表情を眺める時だけ、私は生を実感する。誰かを痛めつける事で、私は他人の下に置かれているこの現状のストレスを発散しているのだ」

「ああ、そうだ。退屈だ。暇だ。時間を持て余している。

 貴女の苦しむ様で退屈を紛らわそうか」

 背後の影が、首を締め上げ、身体を持ち上げる。

 途端に酸素の供給が途絶え、全身の血管が機能不全を訴えるように暴れだす。

 足がバタバタと宙を蹴り、手は首元を引っ掻くがどうしようもない。

 苦悶の表情を浮かべているでだろう私を眺めて、用心棒の男は満足げに笑みを浮かべる。

「あぁ、いや、最高だ。だが死んでしまっては元も子もないからね。程ほどにしておこう。それがいい」

 そう言うと、陰は首を絞める力を僅かに緩めた。

 すると微量の酸素が流通を開始し、全身が空気を求めて呼吸を連発させる。

 しかしむしろそれは混乱を招いて、歯車の狂ったような呼吸しか叶わない。

 涎が口元から顎先へと伝うが、拭う余裕もなかった。

 霞む視界が、急に落ちてきた。

 どうやら拘束を外されたらしく、地面に思い切りうつ伏せに倒れた。

 起き上がる暇もなく、両手首を背中上で拘束される。

「……しばらくそのまま大人しくしていて貰おうか。

 思った以上に早く、お客さんが来たようだ」


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