魔王 ドラゴンと遭遇する
奥へと進むとやはりモンスターの類はイベントのごとく次々と現れてくる。
たとえば牙をむき出しにした熊の顔、凶悪な鋭い爪をしているが実は草食系、全長20㎝のヌイグルミのような『ホボベアー』とか。
個体差が激しく出会うたびに色の違うカラフルな毛色が魅力、果たして死ぬまでに全244色をコンプリート出来るか『レインボーネズミ』とか。
女性の大敵、黒光りするあのボディー、素早い動きで相手を翻弄、倒すのには瞬時の判断力が大事『ゴキブリ』(なんでこいつだけ可愛いモンスター前がないんだ)などが奥に進めば進むほど出会う間隔が短くなりこれでもかと言わんばかりに出現してくる。
「いやー凄いなワシが戦うまでもなくすべて一撃で倒してしまうとは」
「ふぅ~、そんなに言うならあなたも見てないで戦いなさいよ」
この程度の敵ではワシの出る幕はなさそうだ、もう少し歯ごたえのある敵でも出てくれるといいんだが、確か初心者の森とか言っていたな、だったらドラゴン類とかデビル族、巨人族などの強敵と一戦まみえる事などは無理のようだな。
「小娘、ワシはもう飽きたぞ、悪いがもっと強敵が出る様な所はないのか」
「あるわよ、でもあなたのポイントじゃそんなエリアの鍵なんか渡してもらえないわよ」
「何だそのシステムは、強い奴はこんな所を飛ばしてもいいじゃないか」
「私に文句言われても困るわよ、文句は魔王に言ってよ」
「魔王だと、ワシはそんな事知らんぞ」
ワシはそんな面倒くさい事をするわけがないだろう、ワシに知らぬ間に色々やってくれてくれているようだな、城に帰れたらこの辺りも改良させてやろう。
「でもいいの?戦わないとポイントは貯まらないのよ」
「な、何だと、では今日一日が無駄になるではないか」
仕方ない、ではワシも肩慣らしのために少し戦ってやるか、指をポキポキ鳴らしながら次に飛び出してきた奴を一撃のもとに消し去ろうと身構えた。
「せっかく戦おうとしてるところ悪いけど、もうゴールよ」
そう言いながらサッシーが指さした先には明らかに森の終わりを告げるように明るい場所が広がっている。
「じゃあここからは競争だね」
そう言い残すとサッシーはいきなりダッシュを始めた。その後ろ姿が光りの中に消えた時に思い出す、この勝負は宝箱の中身を取り出した方が勝ちだった事に・・・。
「しまった、ワシが負けるではないか」
慌ててワシも走り出し森を抜け開けた所に出た時そこにたたずむサッシーの姿があった。
「抜け駆けとは卑怯な奴め、でもよく待っていてくれたな、許してやろう」
しかしそんなワシの声はサッシーには聞こえていないようで遠くの方を見て緊張しているようだ。
「どうしてあんな物がここにいるのよ」
「何がいるというのだ」
「何で、何でドラゴンが初心者の森にいるのよ」
「なんだと、ドラゴンだと」
よく見るとこの広場を突っ切った所にある一本の大きな木の下で丸まって眠っている灰色の鱗で覆われた『グレードラゴン』の幼体が眠っている、ただ幼体と言っても全長は五m以上はある。
「危険よ、今日の勝負は引き分けでいいわ、中止にしましょう」
「そんなもったいない事が出来ると思うのか、ワシは行くぞ」
「ドラゴンとまともに渡り合えるわけないでしょ、それに宝箱はあの木の下に有るのよ」
ワシはサッシーの制止を振り切り木の下で眠るドラゴンを目指して歩き始めた。
その後を仕方なく進めば進むほど段々とワシとの距離を取りながらサッシーは付いて来ている、余談ではあるがワシの頭にはフワフワは乗ったままだ。
本当にこのドラゴンは眠っているのか、傍まで来ているのに動く気配はない。
「小娘、ワシがこのドラゴンを引き受けるその間に宝箱を取るがいい」
「出来るわけないでしょ、そんなことするとマオが死んじゃうじゃない」
「ワシが死ぬ、フハハハハそんな事があるわけないだろう、人の事は心配せずに自分のすべき事をしたらどうだ、それともワシの事が信用できないか」
結構大きな声で話しているがこのドラゴンはピクリとも動かない、まさかとは思うが眠っているのではなく死んでいるのではないだろうな。
「ほら、もういいから逃げましょ、逃げるのも勇気よ」
そんなサッシーの意見は無視し、取り合えずドラゴンのボディーに強烈な一撃を与えた。
「マオのバカ、もう知らないから」
そう言い残しサッシーは距離を取るように、ワシの傍から離れ、森の入り口付近まで時々振り返りドラゴンの様子を確認しながら走って行った。
これで良いドラゴンと一戦まみえようというのにあいつが傍にいると思いっきり暴れられんからな。