魔王 約束をする
「一つ聞きたいんだけど、ここで転がっているマオは一体誰なのよ」
「小さい事を気にするな」
もうここにはワシの正体を知っている者以外は残っていないな、ではもう変化を解いてもらっても問題ないだろう。
「トトネテよ、変化を解いてもよいぞ」
その一言により、足元に転がっていたマオの姿をした者が立ちあがり、どこから取り出したか真白な仮面を被ると全身から水蒸気のような煙が上がり、一瞬だけ姿が隠れたかと思うとそこには全身を包帯で巻かれた者が現れた。
「お帰りなさいませ魔王様、300年ぶりでございます、お約束通り魔王の座お守りいたしました」
この者こそ、ワシが『魔帝』退治に出かける時にワシの影武者として玉座を守るように言っておいたトトネテだ。
その時の約束を今の今まで守り続け、学園の建設などの大事業もそつなくこなしておったようだ。
噂に聞いてはおったのだが、実際に戦ってはっきりした事もある、変化した者と同じ能力・記憶を手に入れると言うのは本当だったと言う事だ。
『千顔の禺者』トトネテには後で褒美を取らせよう、しかしワシをあそこまで痛め付けなくともよいではないか。
それに耳元で「部屋で封印を解く準備が出来てます」と言った後はもう少し優しく放り込むことは出来なかったのか。
「申し訳ございません、魔王様が最初の戦闘でサルトムント殿を瞬殺されてしまいましたので、あの位やらないと他の配下の者に正体を気が付かれてしまいます」
本当だろうな、長い間待たせた鬱憤を晴らしたなどと言う事は・・・ないだろうな。
「滅相もございません、決してそのような事は・・・決してありません」
その微妙な間は何だ、まあ良いあの位でくたばるワシではないわ。
「以上がワシが魔王である説明だ、サッシーよ何か質問はあるのか」
「あなたが魔王なのは分かったわ、一つ聞くけど学園は辞めるの、もう来ないの」
「ワシがか?魔王がなぜ魔王を倒すための学園に行かねばならぬのだ、それこそおかしいではないか」
「そう、分かったわ・・・」
ここは「何で来ないのよ」とかいうと思っておったが意外と素直ではないか。
しかしサッシーの表情はさみしそうにしばらく俯いたままであった。
「まあなんだ・・気が向いたら行ってやらん事はないぞ」
「そう、じゃあ学園で待ってるかから、新学期には遅れないで来るのよ」
「いや、だから気が向いたら・・・」
「いい、絶対に来なさいよ、来ないと承知しないからね」
言い出したら絶対に曲げないのもサッシーだ、口だけなら何とでも言える、ここは「検討しておくぞ」とでも言っておくのが良いだろう。
「検討じゃ駄目よ、ここは『ハイ』か『わかりました』か『了承』か『OK』なんでしょ」
それはワシの無理難題を勇者に押し付けつ時に言った言葉ではないか、廻り回ってワシに帰って来るとは・・・うかつな事は言えんな。
「面白い事を言う、良かろう行ってやろうではないか」
「ハイじゃあ決定ね、魔王がウソを付くなんてないでしょうね、じゃあ待ってるからね」
元気が回復したサッシーは笑顔で城を後にして行った。