魔王 敗北する
サッシーは声のする方に剣を水平に構え、迷いなくそのまま一直線に走り出した。
その剣には確かに何かにぶち当たり、貫くようなしっかりとした手ごたえを感じると、そのあまりの衝撃耐えられず、剣から手を離してしまった・・・。
ただその後、うめき声も断末魔も更には魔王の声、ニセ魔王の声を含め一切の音の聞こえない無音の状態が続き、辺りに聞こえるのはサッシーの呼吸音だけだ。
その時間はおそらくほんの僅かだったのだろうが、それが何時間にも感じた時に少しずつ周りを覆ていたスモークが晴れ始めた。
そしてそこに広がっていた光景は・・・・。
『魔王の剣』を肩に担ぎ、何事も無くそこに立ている魔王の姿と、その足元には力なく転がるマオの姿であった。
「ウソでしょ、私はマオの言う通りに刺したのよ、それ何でマオの方が倒れてるのよ、早く起きてよ」
「わっはははは、無駄無駄、この程度の剣でワシにダメージでも与えられると思っておったのか」
担いでいた剣をサッシーの方へ放り投げながら笑みを浮かべている。
「マオは、マオは無事なの」
「こやつか、こやつは死んではおらんが、しばらくは動くこともできんだろ」
そう言いながら魔王はそこに転がるマオの前髪を鷲掴みにし、目を瞑り、口は半開きの状態の顔をサッシーの方へ見せている。
「勝負あったな、なかなか面白い戦いであったぞ、それとも小娘、お前一人でワシに戦いを挑むか、ワシは歓迎するぞ」
言われるまでもなくサッシーは今投げられたばかりの『魔王の剣』を構え切りかかるが、それが魔王の体に触れるよりも早くサッシーの両腕を片手で掴みバンザイの格好をさせた。
「止めておけ、今のお主ではワシに傷を付ける事も出来んわ、もっと修行をしてから来るがいい、ワシは逃げも隠れもせん、待っておるぞ」
「放しなさい、今すぐにあなたを倒してあげるから」
「面白い事を言う、良いかよく聞け、ワシに戦いを挑むのは結構、しかし無茶と無謀は違うぞ、己の限界を知る事から始めい」
そう言いながら魔王は掴んでいたサッシーの腕から手を離し、その場に開放されたが、魔王の迫力からかその場に力なくへたり込んでいる。
「マオはどうなるのよ、そのままにしておけとでも言うの」
「なんだ、こやつの事か、安心せい悪いようにはせん、任せておけワシの所で治療してやろう」
「それでその代金を体で払えとか言って自分の部下にでもしようとか思ってないわよね」
「ワシを誰だと思っておるのだ、ワシは魔王であるぞ、そのようなセコイ事を言うとでも思っておるのか、完治すれば返してやるわ、もちろんこやつがここが良いとか言ったら別だがな」
「そんな事言うわけないわ、あなたを信用したわけじゃないけど任せるしかなさそうね」
「良い心掛けだ、悪いようにはせんからワシに任せておけ」
サッシーは渋々マオの体を魔王に任せ(もちろんまだその場に転がったままだが)玉座から下り、他の学生が心配そうに待つホール入り口へを歩いて行った。
もちろんサッシーに駆け寄ってくる者、無事に帰って来た事に感動し涙を流す者などいたが、無視をしている訳ではないが、さすがに魔王と対戦したばかりで手を上げそれに答えるのが精一杯の様子だ。
おそらくサッシーは今、気が張り詰めているが、緊張が解けると気を失うかその場に倒れ込んでしまうだろう。