魔王 勇者との初バトルへ
「遅い、いつまで待たせるのよ」
「ワシは遅れておらんぞ、時間通りだろうが」
その通り、公園に設置されている時計はまだ8時55分を指している。
「いい、女の子と約束をしたんだったら10分前には来るのが普通でしょ」
そうなのか、ワシはそんな事聞いたことがないぞ、それともそれが普通なのか、それよりもその姿で女の子とはよく言ったな。
その姿とはカップルが普通にデートをするようなこの公園には不釣り合いな、全身を鎧で纏い、右手には剣、左手には大きな盾を持ち、今からまさにラスボスでも狩りに行こうかと言ったような出で立ちだ。
「良く分かったな、その装備でなければワシと戦えないと言う事に」
「何言っているのよ、言ったでしょ生徒同士は戦ちゃいけなのよ」
「はぁ?ではその装備は何だ、まさか羞恥プレーが趣味なのか」
「なっ、何言ってるのそんなわけないでしょ、あなたひょっとしてここに何があるか知らずに来たの」
「知らん、普通の公園じゃないのか、ワシはてっきり広い場所で戦おうと言うのかと思っていたぞ」
呆れたような顔でサッシーは「付いて来なさい」と言うと公園の中央にあるちょっと広めの森の中に入って行った。
そして予想以上に広かった森の中を突き進み、少し開けた所に出で来るとそこにはちょっと大きめのゲートに『ようこそ冒険の森へ』と書かれたプレートが掲げられている。
「なんだここは」
「見ての通りよ、冒険を楽しむ所よ」
「楽しむだと、命のやり取りとかはないのか」
「ないない、それは上級者用の所へ行かないとドラゴンとかの強敵がいるわけないじゃない、それを勝ち進むとやっと魔王と戦えるのよ」
「ほう、では魔王と戦った奴はいるのか」
「新聞を読まないの、年に数名が挑戦してことごとく返り討ちにされてるじゃない」
そう言ってどこから取り出したか新聞を片手に握りしめている。
『日刊 魔王新聞』 その隅にはしっかりとそう書かれている、ワシはそんな物を創った記憶はないんだがな、きっと手下の誰かがワシの知らない間に始めたんだろう、なかなか面白い事をしておるの、よし許可しよう。
そしてその紙面の隅に小さくではあるが 『本日のチャレンジャー グランデス出身 ハルティア一行(四名) 第一の部屋で敗退』そう書かれている。
「で、こいつらはどうなっている、もちん死亡なのだろうな」
「ないない、冒険によって溜めた財産と、ポイントを奪われて無罪放免じゃない」
「ポイントだとそんなシステムは知らんぞ」
「そんな事も知らないの、ああそうかD組の人が勇者に成れるわけないもんね、だから教えられてないんだ」
知らん、そんな事になっているとはな、おそらく挑戦したいと言う勇者共を選別するために始めたことだろう、それでか、世界制覇したばっかりの頃には1日に50戦以上していたが、数十年経った頃から年に二~三戦で済むようになっていたのはそのためだったのか。
さすがにそれでは物足りないと思っていたんだがな(それもあって城を抜け出していたのだか、それは言わないでおこう)。
「忘れずに持って来てるわよね、身分証明書」
「ああ、あれかもちろん持っておるわ」
本当はこんな物持ち歩きたくないが、なぜか知らんが歩いているだけで職質されるし、そのたびに説明をするのがめんどくさいんでな、仕方なく持ち歩いておる。
「感心感心、それにポイントが貯まって行くのよ、だから大切にしなさい」
こんなカードにね、まあ良いわ、ではすぐに貯めて城にとっとと帰るとしよう。
「それでそれが勝負とどう関係があるんだ、まさかこれからどちらが多くポイントを稼げるかとかやるのか」
「そんな時間がかかる事はやらないわよ、いいから付いて来なさい」
そう言うとサッシーはそのまま入り口の横に有ったチケット売り場のような所へ行ってしまった。
「初心者の森、空いてるかしら」
受付のお姉さんはリストを見ながら「今は…空いてますね」と答えている。
「じゃあそこに宝箱一つでお願いね」
「かしこまりました、では挑戦者は御1人様でよろしいですか」
「2人でお願いするわ、早くあなたもこちらに来なさい」
サッシーが言うのでしょうがなくその受付の前まで行くことにした。
「ではカードを確認します」
サッシーはワシの身分証明書と一緒に自分のを受け付けに渡し何かの書類にサインをしている。
「いい、この森の奥に宝箱が置いてあるの、それを最初に見つけて中身を取り出した方が勝ちでいいわね」
なんだ勝負とはそんな物か、いいだろうすぐにワシの勝ちを宣言させてやろう。
「登録が終わりました、え~と サッシー=ミドリヤ様 と マオ=ウ=サマダ様 ですね」
「へーあなたってそんな名前なんだ」
「断じて違うワシはそんな名前ではない」
「身分証明書は正確よ、じゃあよろしくマオ」
クッ、登録の時にミスしなければ・・よし分かった、本当の力が戻ればこの秘密を知っている奴は処分してやろう。
「ではこちらが入り口の鍵です、第二ゲートよりお進み下さい」
入り口のお姉さんはおそらくは営業スマイルであろう笑顔で見送っている。