魔王 魔王と対面する
「わははは、愉快愉快近年まれに見る面白さであったぞ」
ニセ魔王はまず、サッシーの所に行き頭を撫でまわしている。
もちろんサッシーの表情は明らかに嫌がっているが、さすがに手を振り払う度胸は無いようだな。
「わっはははは、勇者を女性がやるとは長い事見てきておるが初めての事であるぞ、なかなか面白い試行であったぞ、過去にとらわれず次に進む勇気ほめて使わす」
「あっ、ありがとうございます」
サッシーにしては珍しく緊張しているのか、その一言を絞り出すのが精一杯の様子だな。
そんなに緊張しなくても良いではないか、ここでワシが大きな声で『そいつは偽物だ』と言ってやりたいが今は我慢しておいてやろう。
ニセ魔王は他の出演者にも一言ずつ言葉を掛けながら進み、次はワシの番のようだ。
ワシの前まで来たニセ魔王はやはりワシの正体に気が付くことなく、他の者どもと同じようにまずは握手を求めて来た。
もちろんこんな所で事を荒立てる必要もないので、ワシは大人しく、その手を思いっきり握ってやることにした。
「わっはははは、若いのなかなか面白い事をするの、力比べとな良かろうやってやろうではないか」
ニセ魔王も負けじとワシの手をしっかりと握りしめて来た、これは完全な力比べ、先に離した方が負けだ。
二人とも本気であると言う事を見せまいと引きつった笑顔で長い間無言で握手を交わす・・それは周りから見れば異常な光景なのだろう、最初は何事も無く見ていたクラスメイト、魔王軍両方が少しざわめきだしてきたではないか。
「小僧、いい加減あきらめたらどうだ、ワシはまだ本気を出しておらんのだぞ」
「それはこちらも同じ事、お前こそ手を離さんか」
ニセ魔王も、若くなった本物魔王もどちらも負けず嫌いな所もそっくりだ、こうなると意地の張り合いで永遠に決着がつかないのではないかと思た時、意外な奴がこの地味な戦闘に一区切りを付けてしまった。
「マオサマもおじさんも握手してるの、ワタシもする~」
そう、割り込んできたのはクルリであった。
クルリが自発的に舞台に上がってくることはない、こんな事を考えるのはワシの正体を知っていて、そこで不自然にワシと目を合わさないようにしてるアスタルテの入れ知恵に間違いない。
おそらくワシらとて子供相手に本気で怒る事は出来ない、と言う見事な深層心理を使った作戦であろう。
「クルリ、安心せい、ちょっと親密な挨拶をしておっただけだ」
「ほんとに、喧嘩してない」
「もちろんだ、まだしとらんぞ、だから親父の所にでも帰っておれ」
「ウン分かった、マオサマまた後でね」
そう言い残しクルリは舞台を降り、アスタルテとピルカの待つ主賓席の方へと走り去る後姿を確認する事が出来た。
それだけを確認すると、これからが本番だとばかりにワシはニセ魔王の方に向きなおした。