魔王 伝説の剣と対峙する
ワシが舞台袖まで戻って来たのは第4幕『勇者の攻防』の最後、勇者が魔王の城へ突入するシーンが終わり、今まさに幕が下りようとした所であった。
「マオ、私の演技見ていてくれた、パーフェクトだったでしょ」
サッシーはすごい自信だが知っての通りワシは一切見ておらん、かといってここで見ていないなど言えるわけが無かろう。
だからここは「いい演技であったぞ」この一言だけ言ってサッサと舞台上に逃げるのが良いだろう。
それに舞台チェンジのわずかな間にあの剣を探し当てる事が出来ればワシの命を長らえる事も出来るではないか。
「マオ、急ぐのはわかるけど時間がないんだから舞台チェンジの邪魔しちゃダメでしょ」
舞台に上がろうとするワシの肩をしっかりと握り(言い忘れておったがあのトゲの衣装からワシが焼き尽くされるシーン用のローブに漆黒のマントの状態に着替えとるぞ)知ってか知らずか『魔王の剣』の破壊計画を阻止してしまってるではないか。
「頼むサッシーよ、ここは行かせてくれ」
そんな心の声を無視するようにしっかりと握られた肩の手を放してくれそうにない。
ワシの事を首輪を外すと走り回り、帰ってこない駄犬と同じと思っておるのではないだろうな、そのうち「お座り」「待て」とか言い出したりしたりしない事を祈ろう。
残念ながらここでもあの剣を止めることは出来ず、時間は無情にも進み、幕も上がり、第5幕『魔王との対峙』がスタートしてしまった。
さらにその間に勇者一行との戦いも佳境、いよいよワシの周りを魔法使いの炎が包む問題のシーンへ突入となってしまった。
炎の間から見える勇者たちは演技をしながらワシがこの炎から飛び出してくるのを今や遅しと待っておるのが見える、このままこの炎で焼き尽くされた事にするのは・・・それはサッシーだけでなく観客にも許してもらえないだろう。
外ではそろそろワシが飛び出してこないことに焦り出しておるな、仕方ない飛び出してやろう。
もちろん飛び出した瞬間に待ってたと言わんばかりに魔法使いの「瞬間凍結」の呪文が発生されると、ワシの周りに有った溶岩は固まり、全身を岩が覆い、ワシの動きを封じ込めてしまった。
すかさず勇者は持っている『魔王の剣』でワシを貫き、波状攻撃で戦士の大斧が振り下ろされた。
しばらくの沈黙の後、舞台に響き渡ったのは剣により串刺しとなったワシの遺体を見たサッシー達の悲鳴・・ではなかった。
「フッハハハハ、これでお前たちの攻撃は終わりか、最後の勇者と言うのはこの程度だったのか、つまらんな」
その声の主は人型の溶岩の裏側から全裸で(ここは変わらず)姿を現したワシの高笑いに決まっておろう。
「どうしてそんな所から・・・」
予定と違うところから出てきたワシに勇者を含め一行は驚きの表情を浮かべている。
「伝説の武器と言うのはその程度の物なのか」
魔王のみにダメージを与える事が出来るのであれば、完全に固まり岩となった溶岩を貫けるはずがないと言う事に気が付くとは我ながら頭がいいではないか。
実を言うと瞬時に後ろに避けようと思っていたが、それが出来ずダメかと思った瞬間、ワシの全身を隙間なく覆っている溶岩を『魔王の剣』が貫いていない事に気が付いたのだ。
もちろんその後の戦士の斧での攻撃でワシにダメージを与えれるわけなく、そちらは予定通り粉砕をしてやった。
なお『魔王の剣』は勇者の手を離れ、転がっておったので素早く舞台の外に蹴り飛ばし、脅威は一先ず去ったと言う事だ。