魔王 謁見の間に入る
無事に解放されたワシがせねばならぬのはただ一つ、ワシが昔のワシの役をしっかりとこなし、あわよくば奥のの部屋に雪崩れ込むだけだ。
なーに簡単な事だと思うぞ、演技をするのはおそらく一段高い玉座の間、つまり魔王の椅子のある辺りだろう、つまりだ隙さえあれば部屋に入る事などたやすいと言っておるのだ。
しかしその望みは部屋に入った瞬間に脆くも崩れ去ってしまった、舞台は玉座の間ではなくその下の謁見の間、玉座より見下ろした所にそちら向きに特別舞台が設置され、その周りを観客席がぐるっと囲むように作り上げられている、しかもここからは薄暗く見えにくいが何者かが玉座にどっしりと座り、片腕を顎に付いたちょうど「考える人」のポーズでこちらを睨むように微動だにせず座っている。
「ほらマオ、魔王に一礼しないと」
ワシの横腹をサッシーは小突くように一礼を促している、しかしこれだけは絶対に承諾できん、なぜワシの名を騙る奴に礼などせねばならんのだ。
それよりもワシの配下共は何をしておるのだ主の帰還であるのだぞ、反対に礼をしてもらってもいいではないか。
もちろんそんなそぶりをする者は誰一人いるわけはない。
本当に誰もワシの事に気が付いておらんのか、こちらの顔が見えるように客席を見渡すが、見事に誰もワシの存在に気がつておらんようだな。
この中で唯一ワシの存在を知っておるスタルテは貴賓席にておそらくピルカの攻撃のダメージが強いのであろう、某ボクシングアニメの主人公のように(なぜそれを知ってるかとが無粋な質問をするでない)真っ白に燃え尽きたように項垂れ、ピクリとも動いてはおらんぞ、もしサッシーによる救出があと少し遅かったらワシもああなっておったのか。
もう一度サッシーには心から礼を言っておこう(心の中だけだが…)。




